表面処理
水素エネルギーの利用拡大に向けた低価格で高純度精製が可能な水素分離膜の開発
福岡県
吉川工業株式会社
2021年2月16日更新
プロジェクトの基本情報
プロジェクト名 | 溶射法を用いた新アモルファス合金水素分離膜の研究開発 |
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基盤技術分野 | 表面処理 |
対象となる産業分野 | 環境・エネルギー、自動車、半導体 |
産業分野でのニーズ対応 | 高機能化(新たな機能の付与・追加)、環境配慮、低コスト化 |
キーワード | 水素、分離膜、透過膜、アモルファス、溶射皮膜 |
事業化状況 | 研究実施中 |
事業実施年度 | 平成29年度~令和1年度 |
プロジェクトの詳細
事業概要
水素社会において高純度の水素を安価で効率的に精製分離する技術が求められている。本研究では、従来の水素分離技術の様々な課題(PSA:装置が大型で水素純度低い、Pd合金膜:貴金属で高価、アモルファス箔:単ロール法などで生産性低い)等をクリアする方法として、吉川工業独自技術である「プラズマ式急冷アモルファス溶射」を用いてアモルファス合金水素分離膜を開発し、川下企業へ提供することを目指す。
開発した技術のポイント
・新アモルファス合金の開発
-Ni-Nb-Zr系合金において、NiとNbを最初に溶解した後にZrを添加する溶解手順により均一な合金を大量に製造する手段が得られた。
-熱脆化および水素脆化の観点からNi-Nb-Zr3元合金を中心に検討を行ったところ、水素分離膜に適した組成として、耐熱脆化と耐水素脆化を兼ね備えたNi52Nb18Zr30アモルファス合金を見出した。
・急冷溶射装置を用いた新アモルファス合金皮膜の開発
-粒径の小さい粉末を供給できる微粉末供給装置を開発し、これを用いて粉末粒径・材料供給量・溶射出力・溶射距離を最適化することで、気孔率0.3%以下でかつ酸化量の少ない溶射皮膜の形成に成功した。
・新アモルファス合金溶射皮膜の水素透過性評価
-溶射皮膜を円筒状の金属多孔質体の上に形成して不純ガスのリーク性、水素の透過性を評価したところ、不純ガスはリークしないことが確認でき、水素透過係数は4 .55×10-11mol・m-1・s-1・Pa-1/2であることがわかった。これにより溶射皮膜にて水素の透過が可能であることが確認できたが、目標値の水素透過係数は達成できなかった。
-今後、溶射皮膜の薄膜化や皮膜中の閉気孔・酸化物の低減による水素透過量の向上について検討を続ける。
具体的な成果
・新アモルファス合金の開発
-Ni-Nb-Zr系合金において、均一かつ多量に製造できる手順を見出し、また耐熱脆化・耐水素脆化を兼ね備えた組成を見出した。
・急冷溶射装置を用いた新アモルファス合金皮膜の開発
-微粉末が搬送できる供給装置を開発し、溶射条件を最適化することで緻密な溶射皮膜を開発した。
・新アモルファス合金溶射皮膜の水素透過性評価
-開発した溶射皮膜を用いて水素透過ユニットを作製し、不純ガスがリークせず、水素が透過することを確認した。
知財出願や広報活動等の状況
本事業における研究開発で得られた知見(水素透過膜に関する皮膜構成等)に関しては特許出願を検討しており、現在準備を進めている(製造プロセス部分に該当する基本的な特許についてはサポイン採択前に出願済み)。
研究開発成果の利用シーン
開発したアモルファス合金水素分離膜を使用した水素精製装置は、高純度の水素が必要な水素ステーションや半導体製造、さらにエネファームなど、水素の分離と高純度化が必要な現場で活用することができる。
実用化・事業化の状況
事業化状況の詳細
製品化における技術的な課題をクリアするために研究実施中であり、事業化には至っていない。
提携可能な製品・サービス内容
加工・組立・処理、素材・部品製造、製品製造
製品・サービスのPRポイント
溶射法でアモルファス合金水素分離膜を皮膜形成することで、コスト面や効率面での課題を解決した。開発したアモルファス合金水素分離膜は高純度の水素を精製分離できることが特徴で、水素ステーションや半導体製造、さらにエネファームなどの現場において、安価で効率的に水素を分離することに役立つ。
今後の実用化・事業化の見通し
実機を想定した円筒形状の水素透過ユニットの試作を通じて基礎的な技術の見通しがついたので、今後、更に水素透過能力の向上ほか開発を進めて実機部材化に向けたプロトタイプを試作し、川下企業(岩谷産業株式会社ほか)で評価を受け、ニーズに対応した水素分離膜を製品化する。
実用化・事業化にあたっての課題
本研究で試作した溶射皮膜の水素透過能力は既存のPd合金膜より低く、水素透過係数および水素透過量の向上は実用化のために残された課題である。水素透過係数は溶射皮膜中の気孔および酸化物をより低減させることで向上させる。水素透過量は溶射皮膜の厚みをより薄くすることで向上させる。現状は溶射皮膜の厚みが 200μm程度であるが、20~50μmに低減することを目標とする。今後は、材料の投入位置や角度、急冷ガスの流量など溶射条件の最適化に加え、溶射後の後加工の工夫により上記の改善に取り組む。
プロジェクトの実施体制
主たる研究等実施機関 | 吉川工業株式会社 |
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事業管理機関 | 公益財団法人新産業創造研究機構 |
研究等実施機関 | 国立大学法人東北大学 金属材料研究所 |
アドバイザー | 厚生労働省所管 職業能力開発総合大学校 岩谷産業株式会社 中央研究所 |
参考情報
主たる研究等実施機関 企業情報
企業名 | 吉川工業株式会社(法人番号:8290801009501) |
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事業内容 | 製鉄原料並びに製鋼製品の製造・販売および荷役作業、各種金属・非鉄金属の表面処理加工、半導体製品・精密製品の製造販売、一般および精密機械器具の設計・製造・販売並びに機械修理、電子機器用・通信機器用部品の製造・販売 |
社員数 | 1613 名 |
生産拠点 | 福岡県北九州市、北海道室蘭市、千葉県君津市、愛知県東海市、大阪府堺市、兵庫県姫路市、山口県光市 |
本社所在地 | 〒805-8501 福岡県北九州市八幡東区尾倉2-1-2 |
ホームページ | https://www.ykc.co.jp/ |
連絡先窓口 | 吉川工業株式会社 テクノセンター 技術研究室長 熊井 隆 |
メールアドレス | t-kumai@ykc.co.jp |
電話番号 | 093-482-1100 |
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