表面処理
バイタルセンシング等のセンサー部の洗濯耐久性や、配線コードによる着心地の阻害を解決するため、繊維そのものがセンサーや配線としての機能を担うことを目的に、以下の縫い糸を開発する。
・堅ろうな金属皮膜を有するセンサー用導電性縫い糸
・センサー部やデバイス等と接続する、繊維内部に導電性を有する配線用導電性縫い糸
京都府
株式会社フジックス
2024年12月6日更新
プロジェクトの基本情報
プロジェクト名 | 縫製及び洗濯耐久性に優れたスマートテキスタイル向けセンサー用並びに配線用導電性縫い糸の開発 |
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基盤技術分野 | 表面処理 |
対象となる産業分野 | 医療・健康・介護、環境・エネルギー、繊維 |
産業分野でのニーズ対応 | 高機能化(新たな機能の付与・追加)、高性能化(精度向上)、環境配慮、デザイン性・意匠性の向上 |
キーワード | スマートテキスタイル、導電性繊維、センサー、配線、バイタルサイン |
事業化状況 | 実用化間近 |
事業実施年度 | 平成29年度~令和1年度 |
プロジェクトの詳細
事業概要
スマートテキスタイル普及への課題として、バイタルセンシング等のセンサー部の洗濯耐性や、デバイスと電源等との配線コードが阻害する着心地の問題がある。本研究では新技術を用いた研究を通じ、これらを解決するため、(1)堅ろうな金属皮膜を有するセンサー用導電性縫い糸及び、(2)繊維内層に導電性を持ち、その縫い目を通じてセンサー部と電源等とを接続するとともに、外層を染色できる配線用の導電性縫い糸を開発し、衣料のみならず、医療、健康分野を含む幅広い産業分野に貢献する。
開発した技術のポイント
■センサー⽤導電性縫い⽷
図2に示す工程に関して、繊維と金属との密着性を高めるため、「アルカリ処理」を【1-1】プラズマ処理へ置き換えることや、「アルカリ処理~一次めっき」までを【1-2】超臨界流体処理によるめっきの核付けへと置き換えるべく、条件の最適化を研究する。
また、「二次めっき」の部分については、【2】めっき斑の解消の課題への対応を行うとともに、前工程との条件と組み合わせながら、処理条件の最適化を図る。
■配線⽤導電性縫い⽷
繊維内部に導電性を持つ配線用導電性縫い糸は、図3、二層構造となるマルチフィラメントに超臨界二酸化炭素流体を用いて金属錯体を注入した後、金属のみを繊維内部に残すことで導電性を確保する。
【1.繊維内部での導電性及びその耐久性の確保の課題への対応】については、新技術による生産プロセスにおける【1-1】導電性の確保、【1-2】還元分解の手法、【1-3】より安価な金属錯体の選定、【1-4】金属錯体との同浴染色 の検討を行う。
【2.炭酸ガスの回収プロセス技術の開発】については、既設の超臨界流体処理試験装置へ回収試験装置を接続する形で、炭酸ガスを回収し、再利用できる循環型試験プラントの確立を図る。これを用いて、炭酸ガスと金属錯体や染料の残物との分離条件を検討し循環プロセスを確立することで、環境影響の少ないプロセス技術を確立する。
具体的な成果
■センサー⽤導電性縫い⽷
・ナノめっき技術を⽤いて、フィラメントの⼀本⼀本をめっきすることにより、⾦属⽪膜強度が強く、⾵合いに優れた導電性縫い⽷を開発した。
■配線⽤導電性縫い⽷
・超臨界⼆酸化炭素流体処理技術を⽤いて、繊維内部を⾦属複合化し導電性を確保する技術を確⽴した。
■製品実証
-センサー⽤導電性縫い⽷で作製した刺しゅう電極を介して読み取った⼼信号を、縫製により配した配線⽤導電性縫い⽷を配線として⽤いることで、⼼
電計測を可能にした。
-センサー⽤と配線⽤の両⽷を⽤いて構成した⼼電計測が可能な布帛上の回路に対し、負荷試験として500回の曲げ伸ばし及び洗濯30回を⾏った後
においても、⼼電計測が可能なことを確認でき、実⽤化への布⽯となった。
知財出願や広報活動等の状況
特許権
出願番号:特願2020-106590
発明の名称:繊維内部導通を可能にした繊維内部導電性糸とその製造方法
研究開発成果の利用シーン
今回開発した「堅ろうな金属皮膜を有するセンサー用導電性縫い糸」及び「繊維内部に導電性を持ち、その縫い目を通じてセンサー部と電源等とを接続する配線用の導電性縫い糸」を使用することで、センサー部の選択耐久性が高く、配線コードにより着心地が阻害されない製品を作製することができる。
(参考)導電性縫い糸としてはSmart-X(スマートエックス)の名称で通常の銀めっきを施したナイロン66繊維を用いた縫い糸を販売中(https://fjx.co.jp/product/detail.php?id=125)
実用化・事業化の状況
事業化状況の詳細
ⅰ)センサー用導電性縫い糸
本事業で培った金めっきの技術に基づき、コスト面を踏まえ、電気抵抗値が100Ω/m以下且つ50回洗濯後においても電気抵抗値を維持できる銀めっき技術を検討している。本事業の検討の中で、銀めっきは初期電気抵抗値60Ω/m以下を達成しており、残る課題は皮膜強度の強化となっている。現在、チーズ処理を実現するめっき装置の試作開発に取り組んでおり、めっき液組成を見直す中で、皮膜強度の強化を達成し量産化技術を確立する。
ⅱ)配線用導電性縫い糸
電気抵抗値を300Ω/m以下へと向上させることを目的に、福井大学との共同研究に基づき設計した配線用原糸を、紡糸メーカーと協業することで試作に入っている。今後、既設の超臨界流体処理装置を用いた金属錯体の注入処理によりサンプル生産を行い、商流を形作っていく。
提携可能な製品・サービス内容
素材・部品製造、製品製造、共同研究・共同開発
製品・サービスのPRポイント
今回開発した「堅ろうな金属皮膜を有するセンサー用導電性縫い糸」及び「繊維内部に導電性を持ち、その縫い目を通じてセンサー部と電源等とを接続する配線用の導電性縫い糸」を使用することで、センサー部の選択耐久性が高く、配線コードにより着心地が阻害されない製品を作製することができる。
本研究開発は、フィルムなどに適用されてきた金属ナノ粒子接合技術を縫い糸(繊維)に拡大するものであり、縫製や洗濯により金属被覆膜が剥がれ落ちない対応を図ることや、金属ナノ粒子接合技術や超臨界二酸化炭素流体処理技術により、従来の有害物質を用いるめっきや水を使うプロセスと比較し、乾燥や排液処理を低減させた環境にやさしいプロセスを実現するものである。
今後の実用化・事業化の見通し
・ウェアラブルエキスポでの展示・発表
-具体的なアパレル商品への実績をアピール
*実使用に耐え得る縫い糸としての発表を行うことをファーストステップとしての目標とする。例えば、スマートフォンに対応したヒーター付きジャケットを販売しているような企業と協業する中で、センサー用導電性縫い糸を用いたスイッチと、配線用導電性縫い糸を用いて、ヒーター部とを合せて接続することで導電性の確保を検証し、縫製や洗濯に対する耐久性のある導電性等に関して実証検証を行った結果に基づき、同展示会で発表を行う。
-インナーメーカーへのアピール
*筋肉の補正機能を持ったインナーウェア(運動時の筋肉疲労を軽減するタイツ等のアイテム)に対し、更に筋肉疲労やダメージを和らげるために、筋肉の運動情報を捉え、締め付けの度合を調整する機能を持たせるなどのセンシング機能により付加価値を付与する提案を、本研究での滋賀県東北部工業技術センターとの間で行ったセンサー用導電性縫い糸にかかる測定データ等を用いて、共同研究を提案し、潜在的なニーズを掘り起こす。また、もう一つの側面として、インナー向けの金銀刺しゅう糸として、デザイン性を高める縫い糸としての提案を行い、刺しゅう用途への展開を同時に進める。
・手芸用途への展開
-Maker Faire Tokyo などにおいて、手芸との組み合わせによる発表と展示を行い、実用性とさまざまな用途への展開をイメージ付ける。
・更なるユーザーニーズの獲得
-上記販促活動に基づき、実績を作り、まずはスポーツアパレルを1社に絞り込み、例えば、医療や健康分野へ向けた取り組みを積極的に展開している先には、本研究における筋電位測定データ等を活用し、販促を展開する。
実用化・事業化にあたっての課題
■センサー用に係る技術開発
-金めっき繊維の量産化設備を導入する。
-銀めっきの皮膜強化のために、膜厚の制御方法や密着性向上に伴う、剥離強度の向上を検討する。
-銀めっきについては、協力工場にてチーズ巻でのめっきを試み、商品化できるレベルにまで高める。
■配線用に係る技術開発
-これまでの知見を基に、原糸構造を検討し、金属錯体の注入効率を上げ更に電気抵抗値を下げるための研究を行う。
-繊維側に吸尽されない金属錯体につき、再利用可能かどうか、または投入の方法を検討する。
-繊維が伸ばされることで断線することから、補強材との組み合わせを検討し、ミシンの針糸として実使用の耐えるものにブラッシュアップしてゆく。
事業化に向けた提携や連携の希望
■配線用導電性縫い糸について、電子デバイスなどと接続するコネクターの共同開発を可能とする提携先を模索中である。
■センサー用及び配線用の導電性縫い糸を活用した、生体情報を採ることのできる製品を共同で開発できる提携先を模索中である。
プロジェクトの実施体制
主たる研究等実施機関 | 株式会社フジックス |
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事業管理機関 | 公益財団法人滋賀県産業支援プラザ |
研究等実施機関 | 公立大学法人大阪(大阪府立大学) 滋賀県東北部工業技術センター |
アドバイザー | 株式会社デサント 国立大学法人福井大学 公立大学法人大阪 |
参考情報
主たる研究等実施機関 企業情報
企業名 | 株式会社フジックス(法人番号:5130001005385) |
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事業内容 | 各種繊維による縫い糸の製造及び販売 編み糸、刺しゅう糸など各種繊維製品の製造及び販売 生糸、撚糸その他各種繊維及び中間製品の販売 服飾雑貨製品の製造及び販売 太陽光発電等による電気の供給・販売 前各号に付帯する業務 |
社員数 | 130 名 |
生産拠点 | 滋賀事業所(滋賀県) |
本社所在地 | 〒603-8322 京都府京都市北区平野宮本町5番地 |
ホームページ | https://www.fjx.co.jp/ |
連絡先窓口 | 株式会社フジックス 生産部 研究開発室 室長 伴野 統哉 |
メールアドレス | banno.to@fjx.jp |
電話番号 | 0748-36-3356 |
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