表面処理
自動車の窓ガラスは最後に残された軽量化の課題:「自動車窓ガラスのプラスチック化」
愛知県
株式会社動研
2021年2月19日更新
プロジェクトの基本情報
プロジェクト名 | 自動車のプラスチック窓などに高耐擦傷性機能などを付与する高硬度被覆膜材料、及び高硬度被覆膜形成技術の研究開発と実用化 |
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基盤技術分野 | 表面処理 |
対象となる産業分野 | 防災・安全、鉄道車両、建設機械、農業機械、船舶クルーザー |
産業分野でのニーズ対応 | 高性能化(ヨーロッパ製品安全基準の自動車ウインドウに関するECE-43Rの認証取得、アメリカ自動車安全基準ANSIの認証取得) |
キーワード | プラスチック窓のハードコート、自動車の樹脂窓ガラス、高硬度プラスチック窓、耐擦傷性プラスチック窓、耐衝撃性プラスチック窓 |
事業化状況 | 研究実施中 |
事業実施年度 | 平成29年度~令和1年度 |
プロジェクトの詳細
事業概要
自動車分野では軽量化のために窓ガラスのプラスチック化が進んでいる。屋外で使用されるプラスチック表面には、傷付きや劣化などを防ぐ表面処理が必要であるが、現状では十分ではない。本事業は、耐擦傷性や耐候性などに優れたシリカ化合物のシルセスキオキサンナノ粒子積層の高機能界面材料の研究開発と、被覆膜形成技術の研究開発及び最適化により、高機能表面を備えた自動車のプラスチック窓の実用化を目指す。
開発した技術のポイント
・ナノ粒子形成からハードコート形成までのメカニズム
3官能アルコキシシランを適正条件でゾルゲル反応することで、硬いナノ粒子のシルセスキオキサンを形成し、かつ表面に官能基を保持したナノ粒子凝集体が作られ、凝集ナノ粒子間で架橋反応のキセロゲルを形成し徐々にシリカ(ハード相)へと変化する。
・シルセスキオキサンナノ粒子ゾル溶液の多重積層による高硬度ハードコートの形成
シルセスキオキサンナノ粒子ゾル溶液を塗布し適正条件で熱処理乾燥してミドルコート層を形成し、同様にシルセスキオキサンナノ粒子ゾル溶液にシリカナノ粒子を添加したゾル溶液を上層として多重積層塗布し熱処理乾燥することで、高硬度で耐擦傷性に優れた多重積層のハードコートが得られる。
・キャッピングプライマー層によりガラスに匹敵する鉛筆硬度のハードコート層を形成
ポリカーボネート基板の表面物性のみを他のポリマー物性で置き換えるキャッピングプライマー層を形成し、シルセスキオキサンナノ粒子ゾル溶液のハードコート層を設けることで、今まで不可能とされていたガラスに匹敵するような鉛筆硬度のハードコートが得られる。
具体的な成果
・高硬度ナノ粒子ゾル溶液、ハードコート形成技術の開発
シルセスキオキサンナノ粒子ゾル溶液からハードコートを形成し、技術的物性の目標の密度1.3グラム/立方センチメートルと目標の弾性率10ギガパスカル及び目標の凝集ナノ粒子径 50から100ナノメートルに対しては、ハードコートの被覆膜小片を浮沈法で測定し密度1.35グラム/立方センチメートルの達成、曲げ試験から弾性率37ギガパスカルの達成、及びゾルゲル反応のナノ粒子ゾル溶液形成の初期過程を、静的・動的光散乱測定により見かけ上の流体力学的粒子半径60から80ナノメートルの粒子成長を確認した。
高硬度ナノ粒子ゾル溶液及びハードコート形成技術の開発、リコート性の悪いハードコートの多重積層の開発、高硬度のハードコートを可能とするキャッピングプライマーの開発などで、従来のハードコートの鉛筆硬度がHであったのに対し6Hから8Hの高硬度を達成、耐擦傷性のテーバー摩耗試験において自動車フロントウインドウに使用可能な曇化率2.0パーセント以下を達成、スーパーキセノン促進耐候性試験において3,000時間の 8から10年耐候性を達成した。
・自動車などの大型プラスチック窓のハードコート形成装置の開発
1,200×2,400サイズの実用化サンプル品まで製作可能なフローコート方式のハードコート形成装置を開発した。
知財出願や広報活動等の状況
■知的財産権
基礎出願番号:特願2019-88750 特許出願番号:特願2020-083109(審査請求中)
「表面硬度及び耐擦傷性に優れた被覆ポリカーボネート基板及びその製造方法」
■ジャーナル投稿・掲載の論文
“Characterization of Colloidal Particles Formed in Plastic Coating Solution at Room Temperature“
Yasuhiro Matsuda, Ryo Akao, Masaki Nakazawa, Hideyo Ando, Shigeru Tasaka,
Journal of Coatings Technology and Research 17 (5) 1343-1349 (2020)
■学会などでの発表
・「有機シラン化合物を用いたハードコート液中の構造の時間変化」
2019年度高分子基礎物性研究会・高分子計算機科学研究会 合同討論会 2019年12月19日
・「有機シラン化合物を用いたハードコート液中でのレオロジー特性の経時変化」
第67回レオロジー討論会 2019年10月16日
・「架橋剤添加によるプラスチックハードコート膜の積層化」
第169回東海高分子研究会講演会 2019年8月30日
・「プラスチックハードコート液の反応初期における構造形成」
第68回高分子学会年次大会 2019年5月29日
・「プラスチック表面ハードコート剤中の構造と分子運動性」
第66回レオロジー討論会 2018年10月17日
・「メチルトリメトキキシランを用いたハードコート剤中での微粒子形成過程」
第165回東海高分子研究会講演会 2018年8月24日
・「プラスチックハードコート剤の溶液中、硬化初期の構造」
高分子基礎研究会2017 2017年11月
研究開発成果の利用シーン
新技術の硬いシルセスキオキサンナノ粒子の凝集ナノ粒子間での架橋反応で得られるハードコート形成を基に、多重積層などによる高硬度ハードコートの形成や、キャッピングプライマー層による高硬度のハードコートの形成などの技術の開発の結果、ポリカーボネートのプラスチック窓に高硬度、高耐擦傷性、高耐候性などの機能性を付与することができる。
これらにより、ヨーロッパ製品安全基準の自動車フロントウインドウに規定する認証取得、及びアメリカ製品安全機関の自動車ウインドウ安全基準の認証取得を可能とし、川下自動車メーカーなどに売り込むことができ、軽量化された自動車のプラスチック窓を実現することができる。
実用化・事業化の状況
事業化状況の詳細
自動車業界ではEVの自動運転車両などの要求が急速に進んでおり、本事業で取り組んできた技術を生かしたプラスチック窓の製作が進んでいる。東京2020オリンピック・パラリンピック会場及び選手村で用いられる自動運転車両e-Paletteや、パラリンピックで車椅子のまま乗車できるEVのモビリティー「APM(Accessible People Mover)」において、当事業会社でプラスチック窓を受注し成形加工及びハードコート処理を行い、実績の一部とした。
製品・サービスのPRポイント
自動車のプラスチック窓は自由なデザイン性を持ち、例えばボデー、ライト、センサー、サイネージなどを含めた機能一体型の成形加工ができ、ガラス窓をプラスチック窓に置き換えただけでなく、車体構造まで考えたトータル的な軽量化を図ることができる。またEVでの走行距離はバッテリー容量に依存し、容量を増せばバッテリー大きくする必要があり、重量が増せば走行距離が減ることになり、車両自体の重量を減らさなければならない。その中で、ガラス窓は最後に残された軽量化の課題だと言われている。
自動車のプラスチック窓には、透明で耐衝撃性に優れたポリカーボネートが使用されるが、傷が付き易く、耐候性などに劣る欠点がある。自動車の窓には運転手の視界を妨げる様な傷や曇があってはならず、安全基準で厳しく定められていて、これらの欠点の克服をハードコートに求められている。現状では自動車のプラスチック窓の様な大きな製品の成形加工やハードコート処理加工を施すことができる企業は少なく、当社はこれらを設計から認証取得、生産、品質保証、製品化まで一貫してでき、国内的にも世界的に見ても寡占状態の中の1社である。
今後の実用化・事業化の見通し
東京2020オリンピック・パラリンピック以後、自動運転バスe-Paletteを北京冬季オリンピック、大阪万博、アジア競技大会にも導入する計画がある。また、静岡県御殿場市に計画されている未来構想の実証都市「コネクテッド・シティ」への導入も計画されている。2023年頃からはe-Paletteの試験的な量産計画もある。これらにより、当事業者においては自動車プラスチック窓の売り上げ規模が数十億円に広がると予想される。
今後は、当事業者がプラスチック窓の開発と生産の依頼を受け、試作品などを作製して試験・検査を実施し、アメリカ自動車安全基準やヨーロッパ製品安全基準などの安全認証を取得し、製品の品質保証をした上で製品を川下メーカーに納品する事業化を計画している。
実用化・事業化にあたっての課題
安全基準の認証取得可能な性能を十分に有しているものの、全部の性能を同時に最大限満足ものではない。例えばハードコートを硬くすれば割れ易くなり耐候性に劣る。耐候性を向上すれば耐摩耗性に劣り傷が付き易くなるなどである。使われる窓の部分によりハードコートを使い分ける必要がある。例えばフロントウインドウなどワイパーを使用する箇所では耐摩耗性を最重要視したハードコートを選び、サンルーフなど直射日光が強くあたる部分には耐候性を最重要視したハードコートを選ぶことなどが必要である。
2027年に大きな量産が計画されている案件があるが、本格的な量産事業化には設備投資の多額な資金を必要とし、当社程度の中小企業の自己資金や有利子借入金だけでは実現が難しいと思われる。
事業化に向けた提携や連携の希望
・多額の公的な補助金や助成金などを期待している。例えば、NEDOの大きな助成金を期待したい。
・大手の川下メーカーや、部品メーカーなどとの提携や連携、あるいは投資を期待したい。
プロジェクトの実施体制
主たる研究等実施機関 | 株式会社動研 |
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事業管理機関 | 公益財団法人名古屋産業科学研究所 |
研究等実施機関 | 国立大学法人静岡大学 |
アドバイザー | 国立大学法人静岡大学 |
参考情報
主たる研究等実施機関 企業情報
企業名 | 株式会社動研(法人番号:9180301024390) |
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事業内容 | 樹脂成形製造業、塗膜加工業 |
社員数 | 57 名 |
生産拠点 | 本社工場:愛知県企業団地(新城市南部企業団地)、 海外子会社:DOKEN EU S.L. スペイン バルセロナ(現在休眠状態) |
本社所在地 | 〒441-1338 愛知県新城市一鍬田字道目記1番地21 |
ホームページ | www.doken.biz |
連絡先窓口 | 株式会社動研 代表取締役 安藤 英世 |
メールアドレス | ando@doken.biz |
電話番号 | 0536-24-5100 |
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