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測定計測

三ッ星レストランのソムリエが、数あるワインを管理選定するように、多くの切削工具をシステム的に管理する

岡山県

モリマシナリー株式会社

2025年1月30日更新

プロジェクトの基本情報

プロジェクト名 熟練者の経験知からスマート工場化を実現する切削工具管理システム(AIツールソムリエ)の開発
基盤技術分野 測定計測
対象となる産業分野 工作機械
産業分野でのニーズ対応 高機能化(新たな機能の付与・追加)、高性能化(既存機能の性能向上)、高性能化(信頼性・安全性向上)、高性能化(精度向上)、高効率化(同じ生産量に対するリソースの削減)、高効率化(工程短縮)、高効率化(人件費削減)、高効率化(使用機器削減)、高効率化(生産性増加)、デザイン性・意匠性の向上
キーワード ツールソムリエ,ツールコラージュ,切削工具管理
事業化状況 事業化に成功
事業実施年度 令和2年度~令和4年度

プロジェクトの詳細

事業概要

複合加工機の進展と多品種少量生産、無人運転化の要求に対応するため、「AIツールソムリエ」の開発を進めた。2,000本以上の切削工具を管理する必要のある加工現場では、工具の摩耗状態や寿命を正確に予測できる管理システムが求められていた。実際の加工現場では、多種類かつ多数の切削工具を管理する必要があるが、工具の欠陥判断については、機械加工技能士資格者(熟練技能者)が、マイクロスコープやルーペなど使用して行っており、また属人的な管理による重複購入や汚損、探す手間など、企業にとって時間・コストの損失となっている。このため、切削工具の一元管理を可能とする切削工具管理システム「ツールソムリエ」を基盤技術として、データマイニングやAI技術を活用した切削工具の刃先における異常検出、加工初期の情報から工具寿命を予測するシステムの開発に着手した。

属人的に管理される多くの切削工具
開発した技術のポイント

【推進1】多品種・少量データにおいても工具摩耗を高精度に判定するAI方式の高度化
【1-1】サイズ・形状が異なる工具摩耗、欠けレベルの高精度検出方式開発
【1-2】少量工具データを工場間連携によりビッグデータ化する分散学習方式の開発
【推進2】多種多様な工具においても熟練者判断を実現する最適工具選定システムの開発
【2-1】熟練者同等の加工性能劣化状態判断に向けた工具磨耗メカニズムの解析
【2-2】持続可能なものづくりを実現するデータマイニング方式の開発
【推進3】熟練者ノウハウを伝承するAIツールソムリエ実証機開発
【3-1】工具摩耗を高精度に可視化する撮像システムの構築
【3-2】最適工具選定システムとAIツールソムリエ実証機の融合

プロジェクトの概要図
プロジェクトのイメージ図
具体的な成果

【推進1】多品種・少量データにおける高精度な工具摩耗判定のAI方式の高度化
・様々なサイズ・形状の工具の摩耗や欠けを検出するために、工具画像のデータ収集とアノテーションを行い、Deep Learningモデルを作成した。このモデルは多様な工具データを学習し、高精度に工具の状態を検出する。
・工場間で少量の工具データを共有し、ビッグデータとして利用するための分散学習方式を設計・実装した。これにより通信量を大幅に削減し、従来手法よりも高速に学習できることが実証された。
【推進2】最適工具選定システムの開発
・工具摩耗に関する実験データを基に、消費電流データ内にある摩耗の特徴量を明らかにした。これにより、データ解析の基礎が整えられた。
・勾配ブースティングと時系列データマイニング手法を組み合わせ、切削の初期段階から将来的な摩耗の発生時期を予測するシステムを構築した。
【推進3】AIツールソムリエの実証機開発
・撮像カメラや照明などのシステム構成をテスト・改良し、工具摩耗を高精度に可視化する撮像システム「ツールコラージュ」を完成させた。
・最適工具選定システムとAIツールソムリエ実証機の統合を実現するため、実証機の開発製作を行った。併せて、研究に必要となるデータ通信環境の強化も行った。また、ユーザーニーズを予測し遠隔から工具の状態を確認できるビューアソフトも開発した。その他、市場調査やPR活動を行った。

事業期間における達成度
実証機 ツールソムリエ 及び ツールコラージュ
知財出願や広報活動等の状況

本研究の基盤技術となった「ツールソムリエ」については、既に特許・意匠・商標が登録されている。事業期間中には撮像システム「ツールコラージュ」の名称を商標登録し、登録査定を取得した。事業後には、工具異常検出AIの開発についても、株式会社両備システムズと共同で特許出願し登録査定を取得、商品化に向けて準備した。また、プレスリリースを行いマスメディアを通じて広くPRを行った。その他、業界専門誌に記事・広告を継続的に掲載している。インターネットではYouTubeを活用し、装置の特徴を分かり易く説明した動画を数本公開している。また、展示会ではパンフレット・リーフレットも製作してPR活動をしながら、市場調査も積極的に行い、ユーザーからの要望を収集して改良を加えつつ事業化を推進している。

知財権利化①
知財権利化②
研究開発成果の利用シーン

複数のマシニングセンタを稼働させている加工現場では、2000本以上の切削工具が日々運用されている。近年では、複合加工機の進展と、多品種少量生産、連続無人運転への要求により、増え続ける工具の有効活用と、管理業務の効率化を目的に、工場全体の工具一元管理が必要とされている。機械加工現場では多種類かつ多数の切削工具を管理する必要がある。多くの工具の中から、刃先状態を確認して加工条件に合う工具を見極めるには、経験からなる高い知見が必要となる。各社、測定機器、管理ソフト等による工具情報・状態管理を進めてはいるが、「工具選定・欠陥判定」は未だ人による判断で行っている。そこで、工具刃先を鮮明に映し出す撮像システム「ツールコラージュ」と、工具情報と撮像した画像をデータベース化して工具マガジンと一体化し、工具状態可視化・個別管理を可能とするシステム「ツールソムリエ」を開発した。「工具状態可視化・個別管理」が一体で行われるシステムは従来なかった。また、このシステムをベースに、AIによる工具刃先の異常検出機能を付加し、熟練技能者の経験値をシステム化することで、技術を継承し技術者育成も支援することが可能となった。本研究の開発成果は、製造現場において多品種の工具を一元管理し、AIを活用して切削工具の異常検出や寿命予測が可能となることである。特に、多品種少量生産や連続無人運転化が求められる生産ラインで効果を発揮する。また、刃先状態を頻繁に観察することが求められる切削工具製作の開発部門や、部品の試作検証部門のものづくり企業担当者からも評価を得ている。

開発成果の利用イメージ

実用化・事業化の状況

事業化状況の詳細

AIを活用した工具管理システム「AIツールソムリエ」を開発し、その事業化に向けた取組みを進めている。既に国内の展示会で実証機を公開し、アンケートを通じてユーザーの意見を収集。現在は、システムの精度向上やコスト削減に取り組みながら市場ニーズに応じた製品化を目指している。また、岡山大学と連携し、より多くの工具情報を活用するための遠隔地間での実証実験を進め、ビッグデータ化と分散学習方式を構築中である。その他にも、切削工具の将来的な寿命を予測するシステムの構築についても、予測精度の向上を目的とし、サイズ・形状の異なる工具で追加の切削実験を行っている。実験から得られるデータを拡充し、その特徴量を利用してシステムの予測精度を安定的に80%以上に高める手法を構築中である。

提携可能な製品・サービス内容

試験・分析・評価

製品・サービスのPRポイント

日本のものづくり現場、特に切削工具を扱う加工現場では解決しなければならない難しい課題がある。多品種少量生産では、使用する工具も多品種必要になり、連続無人運転では、量産に伴い同じ工具が沢山必要になる。沢山ある切削工具は管理が必要となる。また、工具には寿命があるが工具の刃先状態を見極めるためには高い知見が求められる。しかし、熟練技能者が減少している今、このような人材が不足している。このことが大きな問題となっている。我々は、ものづくり現場の課題を解決するために、沢山あるツーリング情報をデータベース化。更には、工具の刃先状態から異常を検出しながら一元管理が可能となるシステムを作った。それが「AIツールソムリエ」である。「AIツールソムリエ」は、多くの工具の状態までも自動で記録し情報を共有することができる工具管理システムである。他にも、熟練者の技術伝承をAIが人に代わって行う点が大きな特徴である。システムは、工具の摩耗状態を高精度に可視化することが可能で、ビューアによって遠隔地からでも工具の所在や状態を確認できるため、必要な工具を探したり、誤って重複購入してしまうという、無駄な工数や経費の削減にも寄与する。

開発成果が解決する ものづくり現場の課題①
開発成果が解決する ものづくり現場の課題②
今後の実用化・事業化の見通し

本研究開発は3年間にわたり、各プロジェクトが堅実に遂行された。各推進担当の成果は実証機「ツールソムリエ」・「ツールコラージュ」に実装され、実用化への道を着実に進んでいる。切削工具管理システム「ツールソムリエ」は、撮像システム「ツールコラージュ」と連動する事で、データベース化した画像情報を共有し、明確な保管状況の把握が可能となる。但し、「ツールソムリエ」単体でも簡単な工具管理は可能であり、切削工具管理システムとして、工具メーカーへ660本収納・470本収納・660本収納・508本収納の計4台と、樹脂加工会社へ180本収納1台の合計5台(2024年9月現在)の出荷実績が有る。工具刃先の欠陥検出AIを搭載した「ツールコラージュ」は、2024年11月開催の第32回日本国際工作機械見本市 JIMTOF2024に出展し、これを機に本格的な販売を計画している。展示会ではデモンストレーションや市場調査を通じてユーザーの意見を収集、今後もさらなる改良を検討する。このように、ユーザーのニーズに基づいた事業化が視野に入っており、特にAIを搭載した「ツールソムリエ」や「ツールコラージュ」の開発が事業展開に大きく寄与することが期待されている。

事業化に向けたマーケティング戦略
実用化・事業化にあたっての課題

①切削工具の異常検出を可能とするAIモデル
株式会社両備システムズと協力して完成させたAIモデルについては、様々な種類・サイズの切削工具にも対応できるようニーズの高いものを優先的にバリエーションを拡充することが課題である。
②加工時の消費電流データを用いた最適工具の選定システム
岡山大学の協力を得て、工作機械の消費電流に着目した工具の摩耗予測の手法の研究を進めている。AIに切削加工時に得られる様々なデータを学習させる手法によって、消費電流データと工具摩耗の進展具合の関連性を明らかにし、将来的な工具寿命を予測する技術の開発を進めている。現在、工具寿命の予測精度は約70%を達成しており、実用化に向けて調整している。工具寿命が正確に予測できれば、ものづくり企業はコスト面で大きなメリットが生まれる。
③分散学習の効率化
岡山大学と協力し、複数拠点のAIが工具データの秘匿性を保ちながら同じように分散的に学習することで、正答率を向上させる研究にも取り組んでいる。本研究は、効率良くAIをインテリジェント化させる技術である。各拠点で管理する工具はそれぞれでは少量であったとしても、複数拠点のデータをAIに集約することでビックデータとして活用することができ、工具状態の判定をより高度化させる可能性を秘めている。この研究過程で、通信量低減手法(分散的全域木生成分散学習手法)を、LANに接続された3台の計算機に実装し、これまでに検証した分散学習手法の1/8以下の通信量で分散学習が実行できることを確認しており、実用化に向けてより現実的な研究を継続して行っている。また、パラメータ値を暗号化する技術の研究も併せて行っている。

プロジェクトの実施体制

主たる研究等実施機関 モリマシナリー株式会社 FA事業部
事業管理機関 公益財団法人岡山県産業振興財団
研究等実施機関 株式会社両備システムズ 共創ビジネスカンパニー
国立大学法人岡山大学 学術研究院 環境生命自然科学学域
アドバイザー 芝浦機械株式会社
岡山県工業技術センター

参考情報

主たる研究等実施機関 企業情報

企業名 モリマシナリー株式会社(法人番号:8260001009809)
事業内容 機械器具製造業
社員数 465 名
生産拠点 本社工場、美作工場、岡山工場(すべて岡山県)
本社所在地 〒701-2434 岡山県赤磐市仁堀東1383
ホームページ https://mori-machinery.com
連絡先窓口 モリマシナリー株式会社 FA事業部
メールアドレス tool_sommelier@mori-atc.jp
電話番号 086-958-2326