複合・新機能材料
高価なパラジウムを用いないシリカ系分離膜を高度化しオンサイトで利用できる水素分離膜モジュールを開発
京都府
イーセップ株式会社
2025年1月27日更新
プロジェクトの基本情報
プロジェクト名 | パラジウム代替新規シリカ複合膜によるオンサイト型水素分離膜モジュールの開発 |
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基盤技術分野 | 複合・新機能材料 |
対象となる産業分野 | 自動車、スマート家電、化学品製造 |
産業分野でのニーズ対応 | 高機能化(新たな機能の付与・追加)、高性能化(既存機能の性能向上)、高性能化(耐久性向上)、高性能化(信頼性・安全性向上)、高効率化(同じ生産量に対するリソースの削減)、高効率化(生産性増加)、環境配慮、低コスト化 |
キーワード | 水素分離膜,ナノ多孔性セラミック分離膜,カーボンニュートラル,化学溶剤リサイクル,メタノール合成 |
事業化状況 | 実用化間近 |
事業実施年度 | 令和3年度~令和5年度 |
プロジェクトの詳細
事業概要
水素社会においてオンサイトで水素を分離・精製できる小型システムが求められているが、搭載させる最適な分離膜の開発がボトルネックとなっている。高価な貴金属であるパラジウムを用いないシリカ系分離膜において、炭素、フッ素、あるいはチタンと複合化し、従来の課題だった膜安定性を向上させることに成功した。本研究では、当該新規シリカ複合膜をさらに高度化し、オンサイトで利用可能な水素分離膜モジュールの事業化開発を行った。この新規シリカ複合膜を用いてオンサイトでの水素抽出・精製が可能なモジュールを開発し、将来的には燃料電池や水素ステーションなどの用途に適応させることを目標としている。
開発した技術のポイント
すでに製品化しているオルガノシリカ膜にて膜モジュール化・システム化を進め、搭載させる分離膜の高度化により、開発するオンサイト型水素分離膜モジュールの更なる競争力強化を図る必要がある。研究開発の高度化目標及び技術的目標値は次のとおり。
【1】膜モジュール化・システム化
1)水素分離膜モジュール化
供給水素キャリア(3.3x10-3 mol/s)からワンパスで水素収率≧95%
2)水素分離膜システム化〔修正目標〕
水素/トルエン混合ガスからワンパスでトルエン500ppm以下の高純度水素90%以上回収
3)高度化分離膜による水素分離膜モジュールの小型化実証
水素/トルエン混合ガスからワンパスでトルエン200ppm以下の高純度水素90%以上回収
【2】搭載させる分離膜の高度化(担当:神戸大学)
1)チタニア-シリカ複合膜透過性の倍増
水素透過度≧2x10-6 [mol/(m2 s Pa)]、水素分離性能≧1,000
2)チタニア-シリカ複合膜安定性の向上
暴露加速試験で、上記所定の膜透過分離性能を発揮すること
3)高度化分離膜の長尺化に向けた膜製造条件の高度化
・実用サイズを想定した膜合成の再現性向上(ラボレベル膜製造歩留≧6割、最終目標:歩留≧9割)
・H2/SF6透過分離性能とH2/トルエン透過分離性能の相関関係の解明
具体的な成果
ニーズの高まる水素分離膜に関する製造技術と評価・検査技術を大きく向上させることができた。特に、従来測定が困難だった水素中のトルエン濃度を正確に測定出来る評価装置が導入でき、開発を加速することができた。その結果、当初目標としていた実用サイズを想定した膜合成の再現性向上についても、今後、最終目標である歩留9割以上は達成できそうな見込みである。
常温では凝縮し易い液体であり透過度の低い分子であるトルエンの透過度の精密測定のために、透過装置本体としては蒸気透過装置を利用し、さらに保温型の自動ガスサンプラーと透過ガス分析用のガスクロマトグラフ一式を導入することによって、微量トルエンの透過度の測定が可能となった。分離性能の異なる複数の開発膜においてH2, SF6, トルエンの透過実験を行い、SF6とトルエンの透過性の違いにもとづくH2/SF6およびH2/トルエン選択性の相関を調査し、これまで代替ガスとしてSF6の透過度を評価し、それに対するH2の透過度を膜性能の指標としていたが、膜性能によってSF6とトルエンの透過度に違いがあることが明らかとなり、真の分離対象であるトルエンの透過度を評価する手法の確立を達成した。
知財出願や広報活動等の状況
・チタニア-シリカ複合膜の開発技術に関して特許出願を検討。
・国内外の市場ニーズを踏まえ、エネルギー関連イベントで技術の広報活動を展開。
・水素関連市場において、次世代分離膜技術の認知度向上を図る広報活動を展開。
・大手企業との連携を強化。
・エンドユーザーからのフィードバックを反映した開発を推進。
研究開発成果の利用シーン
水素燃料関連の2030年頃の市場規模は、国内で 4,000 億円程度、世界では 40 兆円との試算もある。「注目部品・技術」として、我々が開発を目指す「水素分離膜モジュール(オンサイト)」が明記されていることから、本事業での開発成果は次代利用ニーズに合致するものと考える。
例えば、エネファーム(家庭用燃料電池)に関して、その燃料改質部における水素供給源を、CO2の排出が必至である従来の都市ガスや LPガスなどから当該開発水素分離膜で得られる水素に置き換えることが期待されている。また、水素社会の実現には、水素を安全に大規模で「貯める」、「運ぶ」技術の実用化が必須である。MCH(メチルシクロヘキサン)から水素を生成する際、触媒を用いる脱水素反応により MCHから水素を分離しているが、この工程に、当該開発水素分離膜を提供することにより、水素をさらに低エネルギーで生成するシステムに置換することが期待される。
実用化・事業化の状況
事業化状況の詳細
本事業では、パラジウムに依存しないシリカ系分離膜技術を開発し、これを用いた水素分離膜モジュールの事業化が進行している。特に国内外の化学企業やエネルギー関連企業との連携により、実用化に向けた諸検討を進めている。当初顕在化していた技術課題である分離膜の水蒸気安定性を改善し、膜開発の指標としていた水素透過度及び水素/SF6分離性能に優れる分離膜を開発することに成功した。一方で、本事業の進展とともにシリカ系分離膜の場合、トルエンはSF6の10倍程度膜透過しやすく、非常に分離の難易度が高いという新たな課題が顕在化した。エンドユーザー企業からのフィードバックを基に、目標とするトルエン200 ppm以下の高純度水素を回収できる膜モジュール・システムを開発することができたものの、実用化を見据えると水素/トルエンの更なる分離性能の向上が必要である。本事業にて導入した評価設備を活用し、引き続き膜改良開発を進めている。
提携可能な製品・サービス内容
設計・製作、加工・組立・処理、素材・部品製造、製品製造、試験・分析・評価、共同研究・共同開発、技術ライセンス、技術コンサルティング
製品・サービスのPRポイント
・パラジウムを使用しない低コストの分離膜
貴金属であるパラジウムを使用せず、コスト効率の良い水素分離膜を提供できる。
・高性能で安定性の高いシリカ系分離膜
炭素、フッ素、チタンを複合化したシリカ膜により、高い水素透過性能と耐久性を実現できる。
・小型化と高効率化を両立する水素分離膜モジュール
小型化されたモジュールにより、省スペースでエネルギー効率の良い水素分離を実現できる。
・CO2排出削減に貢献
水素社会の実現に向けた技術であり、持続可能なエネルギー供給を支援する。
・多様な用途での導入が可能
水素ステーション、燃料電池、エネファーム、化学工場など、幅広い分野での活用が期待される。
今後の実用化・事業化の見通し
当初顕在化していた技術課題である分離膜の水蒸気安定性を改善し、膜開発の指標としていた水素透過度及び水素/SF6分離性能に優れる分離膜を開発することに成功した。エンドユーザー企業からのフィードバックを基に、目標とするトルエン200 ppm以下の高純度水素を回収できる膜モジュール・システムを開発することができたが、実用化を見据えると水素/トルエンの更なる分離性能の向上が必要であり、本事業にて導入した評価設備を活用し、引き続き膜改良開発を進めている。今後の実用化・事業化について、次の諸局面のニーズに対応することを期待されている。
・ 家庭用燃料電池(エネファーム)の水素供給システムとしての実用化が進む。
・高純度水素を供給する技術として、燃料電池(SOFC)の発電システムへの適用が進む。
・国際的な水素サプライチェーンにおける技術利用が見込まれ、水素輸送効率の向上に貢献する。
・水素関連市場の成長に伴い、国内外での技術導入と市場拡大が進む。
プロジェクトの実施体制
主たる研究等実施機関 | イーセップ株式会社 |
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事業管理機関 | 国立大学法人神戸大学 |
研究等実施機関 | 国立大学法人神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科 膜分離プロセス研究室 教授 吉岡 朋久 |
主たる研究等実施機関 企業情報
企業名 | イーセップ株式会社(法人番号:3130001051910) |
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事業内容 | ナノセラミック分離膜技術の開発およびその関連機器・システム等の提供 |
社員数 | 25 名 |
本社所在地 | 〒619-0238 京都府相楽郡精華町精華台七丁目5番地1 けいはんなオープンイノベーションセンター(KICK) |
ホームページ | https://esep.kyoto/ |
連絡先窓口 | 事業部 営業・製造統括グループ コーディネーター 竹島康志 |
メールアドレス | takeshima@esep.co.jp |
電話番号 | 0774-66-7196 |
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