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強固なネットワークを築き、市場へ出す製品の着地点を見定めて研究開発を行う

柏木鉄工株式会社代表取締役          柏木 淳司氏(写真左)
         業務企画部 営業企画課   周 暁尭氏(写真右)

自社独自の視点で開発テーマを設定

研究開発のきっかけを教えてください

当社の事業として新日鉄住金との接点が多い中、従来と比べてハイエンドを意識した業務依頼を受けることが多くなってきたことが背景にある。当社としても、大きなマーケットよりはハイエンドマーケットを目指していたこともあり、基本的な方向性が合致した。
その中でシームレスパイプ(継ぎ目のない鋼管)に関わっていけないだろうかと考えるようになった。シームレスパイプの領域で、当社でしかできない仕事が何かないだろうかと考えたときにテストピースとの出会いがあった。

最初からシームレスパイプのテストピースの研究開発で、サポイン事業への応募を考えておられたのでしょうか

当初、サポイン事業への応募が念頭にあったものではなく、大学の先生からのアドバイスを通じて応募へと繋がった。
大量の品質検査用のテストピースを必要とする中で、テストピースのキャパシティが足りないため、どこかで対応ができないかというニーズがあった。ただし、既にテストピース自体の市場はあったため、当社が後発として入る以上は何らかのアドバンテージが必要になるだろうと考えていた。テストピースの現状を学んでいる中で、シームレスパイプのテストピースは精度が非常に重要であることが分かり、当社としてアドバンテージを出すことができる領域が残っているのではなかろうかと考えた。
ただし、テストピースの加工自体はどうにか目途が立つにしても、製品の精度保証が最大の問題点だった。通常、テストピースは3分割したものを1本に加工するのだが、それを2ピースで1本にしよう、という話があったことで、2分割でできることをアドバンテージとして手を挙げることになった。
従来、短いパイプ(3分割)は内部が測定しやすいが、長いパイプになると内部が測りにくくなるので、どうしたものかと考えていた。和歌山大学の藤垣元治先生とその話をしていたところ、それがサポイン事業のきっかけになった。

キーマンとの出会いをきっかけとして、研究開発を開始

藤垣先生との出会いがサポイン事業へと踏み出す大きなターニングポイントだったようですね

今回のサポイン事業で中心的に研究開発を実施した周氏は、和歌山大学でシステム工学を専攻していた。当社が参加した合同就職説明会での出会いをきっかけに、周氏が所属する研究室を往訪したところ、たまたま藤垣先生が指導教員だった。当初から先生との接点があったわけではなく、たまたまお会いし、その場で相談をしたところ様々なアドバイスを受けたことをきっかけとして、今回のサポイン事業に関する研究開発を開始することになった。

テストピースの研究に事前に取組んでおられたからこその出会いですね

研究開発の開始はたまたまタイミングが良かったように思われる。学生の採用挨拶が目的で先生に話を聞きに行ったのだが、それが今のサポイン事業に繋がっている。

時期が重なったのはたまたまかもしれませんが、開発へのアンテナを張り、課題をその場で発進したことによって、藤垣先生との出会いをうまく活用されたように思われます

藤垣先生はシステム工学の専攻でおられるので、測定への技術的なノウハウをお持ちであることは知っていたが、これから先生が成長させていかれる研究の中で、我々が投げかけた事業化の視点が方向性とうまくマッチしたのではなかろうか。

技術の実現可能性と市場が求めているレベルの接点をゴールに設定

サポイン事業を始めるに当たり、ターゲット市場はどのようにして決められたのでしょうか

狙っていたのは当初からテストピース1本だった。
一般的に、機械加工においては大きな機械では大きなものを削り、小さな機械では小さな製品を削ることが多い。そこで、大きな機械で大きな製品に微細加工するようなことがあってもいいのではないか、できれば面白いのではないかと思っていた。
それがどのようにして売れるのかという話はあるにしても、今ある市場に対して新製品を提供するというよりは、新しい市場を作っていこうとしていた側面が大きい。

御社にとって新しい研究開発分野になりますが、研究開発はどのようにして進めてこられたのでしょうか

パイプの加工自体はなんとかなるとは思っていたが、パイプ内面の測定方法がないということだったので、測定方法を開発するために2つの開発目標を置いていた。
1つは、内面の傷の有無やその深さをパイプの外側から超音波を当てて測るのではなく内側から測るということ、もう1つは、測定結果の再現性を考え、測定しながら加工することができるようにする必要があった。
テストピースの傷は深くて幅が狭いため、その傷をきちんと測ることができるかどうかがカギであり、この点は一から開発する必要があった。
具体的な目標設定は、現実的な実現レベルと市場が求めているレベルを共にゴール設定として置いた。テストピースに求められる傷の深さのニーズがたまたま1ミリだったのが当社にとっては都合がよかった。幅0.8ミリ×深さ5ミリだと、傷の測定が極めて難しくなる。そういった意味では、テストピースに求められる数値は技術レベルとして適正だった点も影響した。
将来的には創意工夫をしてより深い傷を測ることができるようになるとは思うが、まずは市場が求めているニーズを見定めて、それの少し上(オーバースペック)をゴール設定として置くというアプローチがよかったように思われる。

3次元形状計測装置

想定外の問題は環境の変化に伴って顕在化する

実際の研究開発を進められる中で、どのような問題が発生しましたか

例えば「測定しながら加工する」という点では、加工の刃物が非常に繊細なため、再現性が低いという点が難点だった。機械自身にもだれや撓みがあるため、現実的には同じような加工を繰り返し実施するのは再現性が低く、現実的ではない。
それであればエンドミルを抜くことなく加工をしてみようと考えた。ただし、現実的にその加工が実現できないのは、加工工程において油が飛ぶ等、外的な環境が影響することが想定された。

多くの問題が発生することを事前に想定されておられたかと思いますが、想定していた以上の問題は発生しましたか

想定外の問題も多かったが、特に問題として影響が大きかったのは、ラボレベルの機器と比較して、現場では計測の精度がどの程度になるかが分からない、計測の精度が環境に左右されるということであった。果たして油などの影響はどの程度か、仮にそれらを除去したところでどのようになるか、サンプルを計測するのと、開発現場に移行して測るのとでは全然違うということを改めて感じた。
現場では既にノイズが発生している。温度はその典型的な事例の1つだろう。光源が熱くなると温度が上がって作業環境が変化し、効果が減ってしまう。逆に温度が上がらない場合もあるので、研究室で機械を使用するのとでは大きく異なる。

本筋の研究開発に必要な周辺技術の進化を視野に入れる

開発した技術本来の性能を発揮するには、周囲の環境を制御するような技術も同時に必要だということですね

昔の光源や投影プロジェクタは大きく、利用の段取りをしないといけなかった。今はLEDが発達しているので、光源によって派生する問題はなくなってきた。計測機器もだんだん進化してきた。当社の技術が開発できたから結果として成果が上がったのではなく、周辺領域の研究開発も十分な進化をしてきたところが大きい。
当社の技術だけではなく他に必要な技術が同じレベルで進化してこなければ、今回のサポイン事業はうまくいかなかったように思う。当時よりLEDが進化しているので、そういった技術が反映されていくうちに計測装置が出来てきたように思う。大昔はハロゲンランプを使っていたので、ランプや測定機器が熱を持ってしまい、とてもじゃないが実用的ではなかった。それがLEDに技術が進化したことによって、組み合わせてできることが増えてきたように思われる。
当初から他の領域の研究開発の動向を気にかけていたということではないが、なんとか解決方法はあるように思われる。

計測のイメージ

メンバーで強固な体制を構築するとともに、役割分担を明確にし、コミュニケーションを密に行う

サポイン事業の研究開発成果や構築したネットワークはどのようにして活用されたのでしょうか

当社は和歌山大学のシステム工学部と既存の付き合いがあったが、当社自身がソフトやシステムを開発していたということではないので、単独でその領域を勉強しにいっても結果を出すのは難しい。となると、その部分は外部に任せる必要が出てくる。また、LEDの基盤が必要だということになっても、当社が一から作りだすことは難しいからどこかに任せることになる。藤垣先生の師匠である森本吉春先生が、研究分野への多くの知見をお持ちだったことが大きかった。
裏を返せば、このような研究開発を実施する上で、当社がコアになって進めていかないと難しい側面があるだろう。当社がコアになることによって、ある程度の知識を持って触れ、行っていくことが可能になる。目的に適した先生とそのネットワークを確保したことが大きい。

ネットワークをうまく活用してこられたのですね

研究開発成果が実を結んだのは、先生や協力者に対してタイミングよく報告を行い、次の段取りを取って頻繁に顔を合わせて会議していったことが強く影響している。一度何かを決めたら、アウトプットを出すまで任せているのではなく、適宜報告する中で進めてきたことが功を奏した。
今回のプロジェクトでは、研究会議を継続して月1回開催し、その都度締切を設定した。締切があると人間は頑張ることが分かった。何かを進めないとならない、といった適度なプレッシャーになっていたように思う。
問題に対して、当社と大学の先生では解決できなくても、別会社では解決できるといった話は、密にコミュニケーションを取ったからこそできたものだ。地理的に大学が近かったのもよかった。適度なコミュニケーションが必要だと思う。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

当社はグループ親会社との関係が強い仕事を中心として実施していた。本事業はサポートインダストリーであり、基盤的な技術をより発展させることが目的であるが、グループ会社との位置づけの中で、トップとして新しい研究開発を実施することに対して強くコミットメントし、現場を知ってニーズを直に聞いたのが、事業を開始する時点のスタンスとしてよかったと思う。
サポイン事業を実施する上でも、実務に突っ込んで、さまざまな声を拾って聞くことが大切になるだろう。
また、このような事業の推進はNO.1の立場だからこそできることもあるように思われる。会社としてのコミットメントを持って実施することが大切だ、会社としてそういったコミットメントがあるほうが、従業員は安心して動くことができる。そのためには、社長の立場からも密にコミュニケーションを取っていくのが大切だと思われる。
今から振り返ると、さまざまな企業や大学間をネットワークでつなぐ役を果たしてきた中で、もっと協力会社に対して顔を出すことがあってもよかったかもしれない。先方の知識も必要だが、具体的にどのような専門で何を研究しているか、明確に理解するには時間がかかるにしても、積極的に関係を作り出したほうがよい。
リーダーが目標を決める中で、次はこうする、次はこうするといった形で次へ次へとアクションを起こし対応し続けることが将来的にも大切になるのではないだろうか。

サポイン技術情報
プロジェクト名:
オンサイト形状計測機付き長尺鋼管の精密加工装置の開発
事業実施年度:
平成22年度~平成24年度
研究開発の目的:
溝形状を計測しながら加工可能な長尺鋼管用精密加工装置の開発
事業化の状況:
サポイン事業終了時点では実用化間近の状況汎用性を持たせる為計測範囲を広げられるよう、引き続き和歌山大学と協力しながら研究を続けて行く予定である