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ニーズに基づいたシーズ開発とチームの結束力を高めることで、高度かつ需要の高い技術を市場へより早く提供できる

株式会社リプス・ワークス 代表取締役 COO             井ノ原 忠彦氏(写真中央)
芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科
       エンジニアリングデザイン領域 生産システム分野 教授 相澤 龍彦氏(写真左)
宇都宮大学 オプティクス教育研究センター 教授           早崎 芳夫氏(写真右)

シーズとニーズをもとにして大学主体で研究開発の目標を設定

研究開発のきっかけを教えてください

レーザー加工による複雑形状の微細加工例

サポイン事業の開始前より、(株)リプス・ワークスではレーザーを用いた微細加工を行っていた。ピコ秒レーザーを用いて熱の影響が少ない微細加工技術を試みたもののうまくいかず悩んでいたときに、当社の所在地である大田区の産業振興協会から相澤教授を紹介いただいた。まずは平成22年度のサポイン事業の研究加速枠にて申請を行い、相澤教授との共同研究の形で、ピコ秒レーザーの加工機械開発を開始した。
申請書類の記入にあたっては、相澤教授に文章の添削をはじめ丁寧な指導をいただいた。当時は日本でもまだ半導体産業が盛んな時代であったため、市場の規模や将来性を踏まえて、①半導体の検査装置に使うプローブカードの生産、②ガラス金型の製造にレーザー加工を用いることをサポイン事業の最終目的にし、①は概ね達成できた。一方、②のガラス金型の製造という相澤教授の発想を実現することはできなかったため、是非成功させたいという想いがあった。また、国内における半導体の検査装置への需要が減ってしまったことから、当社で開発していた技術への需要も減ってしまい、別のビジネスへと展開する必要が生じた。
そこで、前述の金型技術や、金属の表面に微細な構造を作り金属の表面状態を変える、という相澤教授が研究されてきたテーマ(摩擦係数の低減に関する研究開発)を組み合わせた研究開発を、当社と相澤教授の共同研究という形で本事業を通じて開始した。大田区の展示会をきっかけに知り合った早崎教授には光学系の扱いに関する指導をいただき、研究をより加速することができた。

対象となる川下産業はどのようにして絞ったのでしょうか

摩擦係数を減らす表面加工の技術が特に活かせる川下産業の絞り込みは芝浦工業大学が主体で行った。中小企業が主体になると思い込みで対象となる川下産業を決めてしまうこともあるが、大学のアドバイスを受けて技術の持つ価値を活かすことができる市場に絞り込むことができた。

チーム内での大学教授の役割を教えてください

中小企業は優れた技術を有しているものの、市場のニーズを捉え、自社の技術を用いてそのニーズを満たす製品を開発することが苦手なようにも思う。また、中小企業の社員の指導にあたる大学の先生は多いが、技術面だけでなく市場のニーズまで見据えた大学の先生は少ない。本事業の場合、相澤教授も早崎教授も市場のニーズを満たすことを意識して研究をされており、シーズの開発とニーズが直結しており、事業化をスムーズに進めることができた。
また、本事業のアドバイザーは「この技術はこういったことにも応用できる可能性がある」と積極的かつ幅広くアイデアを出してくださったため、特定の産業にばかり注視して事業化を進めるような事態は起こらなかった。また、ブレインストーミングがチーム内で盛んに行われたことも、特定の産業にばかり注視して事業化を進めるような事態を避けることに大きく貢献した。

メンバーの結束力で活発な意見交換と綿密な情報共有を実現

ブレインストーミングが盛んだったとのことですが、チームメンバーはどのようにコミュニケーションを取ったのですか

本案件の関係メンバーの仲は非常によく、闊達な議論を交わして研究開発を進めることができた。サポイン事業を通じた研究開発を自身の研究と同様に気にかけていただき、チームメンバー全員が「自分は研究開発の当事者である」という強い意識を共有していた。
また、メンバー間には「お互いを知ろう」という雰囲気が作られていた。サポイン事業では、事業期間中に外部有識者を招いた委員会の開催が義務付けられているが、本案件では委員会の開催場所を決定する際、各々の研究拠点を見に行きたいという要望が挙がり、第1回委員会は宇都宮大学、第2回委員会は芝浦工業大学、と毎回場所を変えて開催した。様々な場所で委員会を実施したことは、互いの研究環境や制約等を理解することにもつながった。

チームメンバーのコミュニケーションや結束の強さは、研究開発を進めるうえでどのように役立ちましたか

アドバイザーも含めたメンバーが、問題の発生に備えて事前の対策案を自発的かつ頻繁に出してくれたことが研究開発を進めるうえでプラスに働いた。
中小企業は社員数が少ないため、通常業務を優先せざるを得ない場合も多く、サポイン事業に関する業務が後回しになってしまいがちである。また、問題を解決するためのアイディアや対応にも限界がある。社内外のメンバー同士が密にコミュニケーションを取る中で研究開発の進捗状況を共有するとともに、当事者意識を持って研究開発に携わっていたからこそ、自発的かつ頻繁なコミュニケーションや意見交換が可能だった。
また、研究開発に関する意見を両教授やアドバイザー等の社外の方々からいただくと、その意見を取り入れるためにサポイン事業により注力をするようになる。社外のメンバーからの刺激が研究開発を進めるための後押しをしてくれた。

事業管理機関の適切な対応で外注先業者との想定外のトラブルを解決

事業期間中に発生した想定外の問題とその解決方法について教えてください

開発したフェムト秒加工機

製品の枠組みの外注先となっていた装置組み込み業者が、なかなか要求水準を満たすものを用意できず、当社とその業者との関係が悪くなったことがあった。従来にない高い精度を要求していることをその業者に向けた仕様書に書いたものの、仕様書通りに捉えられておらず、双方の研究開発の前提や意思疎通には齟齬が生じていることが明らかになった。
そこで、事業管理機関を通じて両社関係者の話し合いの場を設けるとともに、サポイン事業の位置づけや、サポイン事業に関するルールについて説明をしたうえで、国の重要な事業の一端を担っているという意識で業務に取り組んで欲しい旨を伝える機会を設け、改めて意思疎通を行った。その結果、業者との大きなトラブルの発生が未然に防がれ、外注先の変更をする必要も無くなった。外注をする際は、お互いの要求やお互いができること・できないことを綿密に共有する必要がある。

試作品の提供段階から、将来の想定顧客へと効率的なアプローチを開始

新規の顧客開拓にはどのような点で工夫が必要でしょうか

当社では、例え提供するものが試作品であっても有料で
提供している。将来の顧客となる可能性は試作品を提供す
る段階から判断できる。顧客が本当に重要視している事業には、必ず予算がつくはずである。
開発した技術がありきたりな技術であれば対価をもらうのは難しいが、当社がサポイン事業で開発したレーザー加工によるマイクロテクスチュア技術は、摩擦係数の低減だけでなく、放熱や、複雑な形状をしたガラス製レンズの成形金型加工といったことも可能になっており、バリが出る、形状が崩れる、スピードが遅い、といった従来の課題に応える技術であることから、相応の価値を試作品段階で認める相手は将来の顧客となる可能性が高い。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

チームの結束力が重要である。本案件では、相澤教授や早崎教授をはじめ社外メンバーが積極的に研究開発にコミットしてくださったことで、当社での研究開発を円滑に進められた。「この人と一緒に仕事がしたい」と心から思えるような社外の方にメンバーに加わっていただくことで、研究開発及び事業化がスムーズに進められるのではないだろうか。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
空間位相制御レーザー加工によるマイクロテクスチュア技術の開発
事業実施年度:
平成24年度~平成25年度
研究開発の目的:
短時間・高精度での多次元・複雑形状創成が可能なレーザー加工技術の開発
事業化の状況:
サポイン事業終了時点では事業化に向けた開発の実施段階
空間光位相変調装置でのビーム形成において計算値通りの形状を確保できている