自らの研究フェーズを見極め、市場を具体的に設定することにより事業化の可能性は高まる
製造した装置のみではなく、最終製品まで製造・販売し、ノウハウの蓄積を狙う
研究開発のきっかけを教えてください
2004年頃広島大学の長沼毅准教授が来社され、マイクロ波励起の液中プラズマによる水の改質、殺菌を提案されたことが発端であった。2005年に大気圧下でのマイクロ波液中プラズマ発生に成功したが、プラズマの熱で30秒ほどで装置が破壊し、実用に耐えるものではなかった。当社のような中小企業では、自己資金でのこれ以上の展開は無理であったため、補助金の申請を検討し始めた。
2007年頃、東京大学の米澤徹准教授(現北海道大学教授)から、ナノ粒子製造に使えるのではということで、材料を提供していただき、金及び銀のナノ粒子の合成を試みたところ、わずか30秒ほどの液中プラズマ発生でナノ粒子が生成した。
その後いくつかの補助金を頂き、金属棒からナノ粒子を直接製造するというアイデアを実現できることがわかり、2010年に「金属担持触媒製造のための新しいめっき技術および担持触媒ペースト」のテーマでサポイン事業に応募した。
サポイン事業開始前より基礎的な原理研究を積み重ねてこられたようにお見受けします
基本的な研究は行っていたが、サポイン事業開始後に多くの問題が噴出した。この研究開発がどのフェーズにあるのかを見誤っていた。さらに、マイクロ波液中プラズマを用いたナノ粒子製造装置が需要のある、売れる装置だと思い込んでいた。
研究開発当初はどのようにゴール設定をされましたか
当社は装置メーカーである。これに対し、金属担持触媒製造は装置で作る製品であり、プロセスのノウハウの部分が大きい。よって、ここで2つのゴールを考えた。
ひとつは、担持触媒の製造装置を作り販売する。もうひとつは、担持触媒そのものを販売する。当初考えていたゴールは後者である。装置は販売してしまえば、販売先でどのようなレシピで使われるかは当社にはわからず、ノウハウが残らない。しかし、プロセスまで手がければノウハウが手元に残り、その次の展開が可能になると考えた。この時点で、5年間の収支計算書を作成し、採算ベースの月産生産量を算出し、目標となる装置1台1時間あたりの生産量を算出した。達成可能な数値が出てきたので、構想を具体化し、研究開発推進のために補助金を申請することとした。
研究チームの経験的アドバイスと仮説・実験の繰返しにより発生した問題を解決
研究開発の過程で、どのような点に注意・配慮されていましたか、またそうした中で問題は発生しましたか
自社開発であれば、途中での変更、そして最悪の事態では、中止、断念するという選択肢もあり得る。しかし、補助金をいただいての研究開発は、大きな資金が動かせるので研究開発を大きく前進させることが出来る一方、結果が公開され外部機関の評価を受け、それが会社への評価にもなるので、ゴールの縛りは大きい。
研究開発では、予想もしなかったことが起きる可能性がある。このとき、それなりのゴールにたどり着く方策は、安全確実な方法から、理想的な方法まで、何通りも用意しておかねばならない。このことは常に頭の中にあったし、大きなプレッシャーであった。
マイクロ波液中プラズマによるプロセスは、実用化はもちろんのこと、研究例も少ない。サポイン事業の開始前に基本的な事象は確認していたが、それでも始まってみると、トラブルの連続であった。しかし、研究開発とは元来そういうものであるから、あきらめずに乗り越えるしかない。
実際、どのような問題が発生したのでしょうか
最も苦労したのは、粗大粒子の発生であった。研究中盤で数μmの大きさの白金粒子が多量に発生したのである。触媒反応は表面反応であり表面積が効くため、ナノ粒子化し重量あたりの表面積を最大にする。その中にμmクラスの粗大粒子が混じれば、ナノ粒子化する意味が失われることになり実用化できない。
どのようにその問題を解決されたのですか
結果的にこの解決には1年間かかった。仮説を立てて実験を試みることを何度も繰り返した。その実験結果、及びアドバイザーをお願いした九州大学の辻剛志先生の経験的アドバイスから、液中レーザーアブレーションのドロップレットと同じ現象ではないかとの仮説が出てきた。すなわち、高温となった金属棒表面が液に接触し急冷する際に粗大粒子が発生するというメカニズムである。
そこで、高温となった電極先端が、常に気泡内に維持されるよう、マイクロ波電力の制御を試みたところ、粗大粒子の発生を抑制できた。さらに、気泡の制御で生産量を制御できることもわかった。
これによって、何とかゴールに到達できる見通しを付けることができた。
研究を始める前、または前半で仮説を構築する際にその問題は予想できたでしょうか
液中レーザーアブレーションは知っていたが、大きく異なる技術のため、当初は想定できなかった。
今回の発見は本当に偶然だった。研究開発を進めるには問題を深堀りしなければいけないが、そうすると周りの他のものが見えにくくなる。アドバイスできる人を確保し、視野を広くすることが大切であると痛感した。
今振り返って、事前に準備をしておけばよかったと考えられることはありますか
事前に準備できないかもしれないが、自分の研究がどのフェーズにあるのかを把握できると良かった。
研究対象は自然現象であるため、物理・化学の原則に則っているはずだが、液中プラズマの様々な現象は既存研究では必ずしも明らかではない。今もまだ解明できていない現象があるが、これらは今後の研究課題である。
事業開始時点で市場を見据え、複数の選択肢を用意しておくことが必要
サポイン事業終了時点の状況はいかがでしたか
サポイン事業での課題は、マイクロ波液中プラズマによって、金属担持触媒を作ることであったので、結果的に装置改良を大幅に進めることが出来た。
特に電極の寿命については当初の1~2日に対し、終了時に1ヶ月以上の寿命を得ることが出来た。マイクロ波液中プラズマは、ナノ粒子生成や水質改善にも応用できると考えられ、この方面への展開も容易となり、現在は装置そのものに対する引き合いも数多く来ている。
また、粗大粒子の発生などで、液中プラズマそのものの解析を進める必要が出てきて、その解析の過程で、結果的にマイクロ波やプラズマに対する多くのノウハウや知見を得ることが出来た。これらは、他の製品開発へも既に生かしている。
しかしながら、当初の予定ではサポイン事業終了時までに金属担持触媒の売り先を見つけ、事業化する見通しを立てていたが、結果的に売り先を確保するところまで至らなかった。現在も、プロセス開発と装置販売の模索を続けている。
技術者は「良いものを作り、宣伝すれば売れる」と考えているが、そういった考えをときほぐす必要がある。マーケットが実在するかどうかが鍵だと考える。
今後どのように新しい市場を開拓しようと考えていますか
現状では、新技術というシーズ指向で市場を創成するのは難しいと考えている。そのため、当面はニーズ指向で事業化を進めており、サンプル供給、共同研究先を探す、実験用装置販売といった面での展開を考えている。
サポイン事業を通して知見を拡大できたことは、大変いい機会であった。中小企業は客からオーダーがあってそれを納品するとそこで終わりであることが多い。そうすると装置の使用用途等が分からないが、今回装置を自分で動かしてみていろいろと分かった。
バイオーダーで装置を売るだけではなく、今後は「ソリューション発信・提案型」で価値をつけて売ることを考えていきたい。
もし、サポイン事業開始段階で客の顔が浮かぶような市場がはっきりしている状態で始めていたら、事業化まで進んでいたでしょうか
市場がまだできていないが、できたら打ち込める状態にするというパターンも考えられます。
技術開発がある段階まで進んでいれば、確かに市場ができてからのスタートダッシュは早いかもしれない。しかし、中小企業は、将来の市場という不確定要素にかけられる人的費用的資源は大きくない。いくつか出口を作っておいて、選択肢を複数用意する、横展開することを可能にする制度作りが必要だと思う。
サポイン事業を活用したことにより、どのような効果があったでしょうか
今回は、北海道大学との共同研究開発を行ったので、当社拠点として中小企業基盤整備機構のインキュベーション施設を借りた。そのこともあり、事業化に向けて同機構および中小企業支援センターなどから、ビジネスマッチング、展示会出展などの多くの支援を受けた。また、北海道大学産学連携本部にもいろいろとご助力を頂いた。これらは、今後のビジネス展開を考える上で非常に有用であったし、視野が広がり、広告宣伝効果も大きかった。
また、当社の場合、研究にかけられる自己資金は100万円程度であるが、今回は投入する金額が大きかったため、基礎的な原理をしっかり押さえるところから出来た。解明できたことが多く、人脈も広がり、意見交換をしたり客の情報も入ってくるようになった。情報のインプットとアウトプットの量・密度が変わってきた。大企業にはかなわないかもしれないが、原理原則の部分で近づけたような気がする。
本成果は、学会において口頭発表を行っている。また、期間中に関連特許も含めて、液中プラズマ関連で3件の特許を申請した。今後、本成果を英語論文にまとめて発表する予定である。技術の一部は当社ホームページでも公開しており、宣伝活動にも役立っている。
サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします
うまく研究開発を進めるためには、原理を自分の中に落とし込めている必要がある。
また、マーケティングも重要である。市場規模がどれくらいあるかは調べたら分かることかもしれないが、その需要が顕在化することが重要である。研究開発を始める段階でどこの誰に売るかが見えている状態でないとサポイン事業終了時の販売達成は難しいだろう。
サポイン事業などで実用化させようとしている技術が、現在どのフェーズにあるかを見極めることが最も重要であると思われる。新しい技術では、その判断は非常に難しい。研究開発の過程は、スケジュールで区切れるものではなく、到達点も当初予想とは異なってくる。このように技術開発は、不確定要素が多い。ならば、いくつものシナリオを用意しておき、その時々によって、迅速かつ柔軟な意志決定を可能にしておくことが必要であろう。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 金属担持触媒製造のための新しいめっき技術および担持触媒ペースト
- 事業実施年度:
- 平成22年度~平成24年度
- 研究開発の目的:
- 白金等希少金属の使用量削減のためのめっき技術の改良及び向上並びに当該白金等希少金属に代替する材料によるめっき技術の開発
- 事業化の状況:
- サポイン事業終了時点では実用化間近の状況
共同研究あるいは技術ライセンス供与先を募集している
研究開発好事例を探す