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異物除去装置メーカーが独自の研磨加工技術を応用し
熱交換器の機能向上・省エネ化に挑む!

ダイカテック株式会社
代表取締役社長 大西 賢治 様

開発型ものづくり企業の新たな挑戦

今回の研究開発のベースになっているF研磨技術について教えてください。

「F研磨技術」とは、粉体付着を防止するために開発した特殊研磨技術である。鋼材の表面にミクロン単位の凹凸を設けるもので、これによって粉体の剥離性や滑落性を向上させることができる。
例えば天ぷら粉を袋に詰める工程の場合、大きな漏斗ssのようなホッパーという機械に粉を投入するが、それがうまく移動せず滞留し(=粉体付着)、詰まりを起こす(=ブリッジ)という現象が頻繁に起こる。その対処として、ホッパーの外側から打撃や振動を起こしたり、内側に攪拌装置を付けたり、という方法がとられているが、これらは騒音や異物混入の危険性があるため、当社では新しい研磨加工技術を開発したのである。
どんなものを流すか、つまり流す粉体の特性によって、粉の落ち方はそれぞれ違ってくるため、研磨方法も1種類だけでなく、11種類用意している。導入の際は、流すものの粒径の重量加積曲線・粒径写真・単位体積重量・含水率などを測定し、過去の実績データと照らし合わせて仕様を決定している。
ちなみに、徳島大学とともに開発したビアカップ「Fカップ」という商品もF研磨の特長を活かしたものである。これは内側にF研磨を施したもので、空気が触れる表面積を増やしているために、細かい泡が均一に現れる。クリーミーな泡とキレの良さを楽しめるビアカップとして、大きく取り上げられた。
F研磨は、食品産業をはじめ、医薬品業界、素材産業などから毎年100件ほどの引き合いがある技術であり、今後もその可能性が広がっていくと期待している。

どのようなことがきっかけで、サポインに応募したのですか。

あるとき、F研磨した金属板に液体を乗せ熱して沸騰させると、無加工の金属板に比べ、温度上昇が早く細かい気泡が出るのを確認した。徳島大学で、この現象は面白いねと話していたら、熱交換器への応用はできないかという話となり、あれよあれよという間に、サポインを活用して研究開発することになってしまった。なってしまった、というのは、当社ではこれまで国の補助金を活用して開発をしたことがなかったためである。
当社は開発型のものづくり企業であり、普段は取引先のニーズを理解して、つねにそれ以上の品質を目指し、オーダーメイドでの開発を行っている。しかしサポインは、実際の取引先の具体的な事例がない中で、具体的な目標値やその方法を細かく設定していかなくてはならず、前例のないことの連続で非常に頭を悩ませた。そもそも熱交換器について、基本的な知識は持っているものの、その当時、専門的なレベルには及ばないものだったため、本当に進められるのか、その考え方が正しいのかといったところから、難しさを感じていた。

熱交換器に着目したのはなぜですか。

プレート式熱交換器

生産現場では、冷却や廃熱などの熱源を有効利用するために、多くのプレート式熱交換器が利用されている。プレート式熱交換器は、積層した複数のプレートの間に作った流路に高温流体と低温流体を交互に流すことによって熱交換を行うものである。一般に熱交換器は、プレス加工でプレートを凹凸や波型にすることによって伝熱性を向上させているが、このプレスのみでは技術的な限界に達していると推測する。この形式に当社のF研磨処理を施せば、さらに表面積を増やすことが可能であり、伝熱性能のさらなる向上、そして省エネが期待できると考えた。予備実験では水の気化条件では伝熱性が6倍向上することが確認できた。また、多くのメーカーから要望が高いのは、汚れの抑制と洗浄性である。粉体の剥離性が良いF研磨は、汚れが付着しにくく、かつ落としやすいという特徴があることも、優位点であると考えた。

最大の難関・メカニズムの解明は次回に持ち越し

研究開発において難しかったのはどんな点ですか。また、サポインを通じて感じたことや、次に活かしたいと思うことはありましたか。

自動研磨装置の試作機

とにかく困難を極めたのは、メカニズムの解明である。伝熱性能と表面状態の関係性を明らかにするため、様々な研究に取り組んだが、条件が変わると結果も大きく変わってしまう。そもそもドイツ発祥のプレート式熱交換器の波型構造自体も、明確なデータがあって決められたものではないことが判明し、根幹が大きく揺らいでしまう結果となった。
このようなことから研究テーマとして大きくなりすぎてしまい、進めるのが難しくなってきたため、汚れに対する付着抑制と洗浄性に絞って研究を進めていった。
正直申し上げると現状では、条件によってその効果の幅が異なることによって、効果を確約できないという歯がゆい状態にある。前例のない研究開発ということもあり、3年、実質2年ちょっとのサポイン期間内では、満足のいく結論を得ることができなかったが、次に予定している補助金を活用した開発では、ステンレスをアルミに変えて、さらなる研究開発に励むつもりである。
さらにこの開発では、これまで手作業で行っていた加工を精度と速度の改善のために自動化することにも挑戦したが、これも非常に難しかった。人間の手というのは非常に有能で、様々なことを一瞬の判断で行うことができるが、それと同じレベルを機械にやらせることは極めて難解なことである。これもまた、今後の課題である。ただ、この時、不確定要素の影響を受けないように小さなテスト機ではなく、実機で行うことにしたのだが、それについては効果が出たため、非常に良かったと思う。
サポインで取り組んだことで、なぜ熱交換器メーカーがやらないのか、という理由がわかった。テーマは面白いが、そもそも不確定要素の高いものであり、データベース化が極めて難しいのだ。この点においては、流体工学などを考え合わせ、整理していこうと考えている。難しいことだらけの今回の挑戦であったが、そういったことも含めて、非常に多くの経験をした。明確な結論ではないが、傾向はつかむことができた。今後シビアなものを扱う時に、必要な材料となると思っているため、蓄積していきたい。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
表面テクスチャリングによる環境負荷低減型熱交換器用プレートの開発
事業実施年度:
平成29年度~令和1年度