市場ニーズの的確な把握、既存研究の応用により事業化実現可能性は高まる
顕在化していた市場のニーズに応える機器の事業化のため、サポイン事業を活用
研究開発のきっかけを教えてください
事業そのものは、(独)産業技術総合研究所(つくば)(以下、産総研)との共同研究技術開発を実施しており、自社として新しい物に対する習得をやっていかなければならないだろうということが経緯としてあった。
産総研の北海道センターでは、大学等の出資で幅広く研究を行っていた。北海道センターのコーディネーターの方が当社の知り合いにいたのだが、その方からサポイン事業への応募はどうだろうかというアドバイスが社長に対してあったようだ。
当社では氷を24時間かけて作ってはいたが、氷は船に積む際に溶けてしまうので、船の上で氷を作ることができれば積む工程の短縮になり、より効率的に業務ができると考えていた。また、獲った魚の鮮度保持について元々関心があり研究を行っており、獲ってすぐに冷やすことによって鮮度を保つことができるが、その鮮度をどのように維持するかが問題であった。
そのような環境が重なり、サポイン事業の研究開発が開始された。
今回のサポイン事業で開発された製品は、もともと御社として構想されていたものを事業化したのでしょうか
今回開発したものは新たな製品にはなったが、一から研究開発を行って開発したという位置付けではない。前々から考えていた研究開発の成果を市場に出すためのアクセルとして、サポイン事業を活用した。
船上で海水から氷を作るというニーズは市場から既にあった。
事業化の時期は、当初想定されていた時期と比較し、どの程度前倒しされたのでしょうか
サポイン事業の期間内で終わらせることを当初から目標にしていたが、開発した機器を船に積むところについて、スケジュールは前倒ししている。
製氷機を船に積むニーズは既に見えていたので、サポイン事業期間で何とか早く終わらせるように努めた。12月に松前さくら漁協組合に陸上タイプの開発機器を導入した。
既存の技術・研究成果を活用し、研究のスピードアップを図る
サポイン事業開始時点では、どの程度のゴールをどこに設定されていたのでしょうか
製品に対しては、様々な試験や要望があった。試験は船に乗せてからも実施しているが、その前に会社としては陸上にある間でもずっと連続的に耐久試験を実施する必要があったと考える。実際に機械を船に乗せた際に、データを取ることができる仕組みは作っていた。
また、産総研に検討委員として入るだけではなくアドバイザーとして入っていただき、何らかの形で研究開発体制に入れることでゴールに対処していった。アドバイザーの方は、当社が進めている研究開発内容に対し、遠慮なくコメントを述べてくれるため、要求に対して十分には答えられていないところもあるのだが、非常に助かった。
研究開発体制に大学を入れる発想は、当初よりお持ちでしたか
当初より大学を入れようという発想はあった。開発した製品の実用化をより考えていく上で、研究段階で大学の先生の知見が必要になることもあると考える。しかし、より市場に近い方と組んでやってきたのが今回のサポイン事業である。
当社では、モノ造りを30数年やってきていることもあり、市場が求めている一定以上の製品は出すことができる。知見の蓄積も既に持っている。特に蓄積として一番大きかったのは、データトラッキングの部分だろう。それは魚を切る際の様々なベースとなっている。例えば一口に魚を切るといっても、魚を3次元で計測し、計測データに基づきカットしていくことになるが、それをどれくらいのスピードで切るというのも、どのような切り口で切ればよいか等の計算が可能になる。それはデータを積み重ねて検証し、その結果をフィードバックして繰り返してやっていく。
今回も新たな要素として海水が入ってくる。海水がどのくらい入ってきて、どのくらいの連動が必要になるか、どのくらいの連動が必要で最適化していくか、という点がデータの積み重ねになっていた。
過去にやっていた研究開発や技術内容を今回の研究開発に対して使えたところが、進捗をより早める上で大きかったように思われる。
目標値や性能の設定はどのようにして決定されたのでしょうか
目標である塩分濃度等は、製品の研究開発の目標として設定はしているが、製品としてはそれを達成しなくても十分なものもある。
ただ、最終的な製品としての目標は高いが、そこまでして目標値を達成しなくても、十分に市場で使うことができる製品になるものはあった。
もちろん製品として大きな目標は持っていたが、ただそこには至らなかったこともあった。そこまでやるには時間がかかることが想定された。
今後は量産化対応の生産体制が課題
最も注意されていたのは技術の高度化についてかと存じますが、研究開発を進めていく上でその他どのような点に注意・配慮されていたのでしょうか
当初の予定よりも早く製品が完成したため、今後の研究開発上では量産化について配慮していくだろうと思われる。今回のサポイン事業で開発した機器は、もちろん量産も見据えているのだが、量産化に対応することができる設計思想までにはなっていない。
限られた期間にやることを考えると、製品を市場に出すことを優先的に考える必要がある。しかし、仮に量産化することまでを視野に入れるとなると、そもそもの機器の設計思想も変わってくる上、設計思想が変わってくることによって、機械の価格も変わってくる。これらの点は今後の課題として対応する必要がある。
今振り返ると、なぜ研究開発期間を短縮できたとお考えでしょうか
まずは自社の技術の蓄積とノウハウ、それらがベースになっていることが大きい。事前に持っていた資源を利用することができれば開発までの時間を短縮化できる。あとは、研究開発の目的がはっきりとしており、目指すべきアウトプットがはっきりとしていた。目標がはっきりとしていたのでどう市場に出していくかを考え、導きだしていた。
また、加工機の中に入ってくるものは分かっており、形として出るのが決まっている。そうすると、研究開発を行う上では、何をすればどのようなアウトプットが出るのか、ということを中心に考えればよかった。
それは数値の中で見えることになる。科学的な部分とは違った形で、入口と出口が見えていた。入口と出口、プロセスが明確化していたという点が肝になる。
Webアンケートの回答によると、研究開発中に発生した問題は想定内であったとなっていますが、具体的にお聞かせいただけますでしょうか
結果的に考えると、出すものが決まっていたため、大きく想定を外れるような問題は少なかった。想定内の問題として事前に考えることができていたように思う。
想定外の問題は発生したといえば発生した。ただし、一度考えてトライしてみて、それでもだめだったらまた別の手段でトライするという繰り返しになる。その時の思考回路は、何らかの形で改善できるという意味合いがあるからやるのであって、そこでなぜできないのかというと、袋小路になったのであれば、改めて分岐点に戻って改めて考えて進めていけばよい。
研究開発中に、あのときこうしておけば良かった、とお考えのことはありますか
生産体制を視野に入れておけばよかったと考える。海上で利用可能な機械を市場に出すことを想定していたため、利用するシーンや用途を考えると、量産体制を視野に入れればよかったようにも思う。ただ、そうなると時間がかかったかもしれない。海上で使いやすいデザインを追求する必要もある。
ものはどこに出すからこんなものでいいんだ、というものではなく、デザインも含めて機能的でありたいというところが求められる。 そういったことを考え始めると様々な制約が出てくるため、一度に盛り込むことは必ずしも必須ではないが、いずれは検討する必要がある要素だと思う。
(工場で実証試験実施)
時代、国により市場ニーズは変化する変化に適応した価値の提供が重要
顧客について、新規顧客の開拓にどの程度力を入れていらっしゃいますか
顧客については、新たな開拓をしないと既存の顧客のみでやっていくのは難しい。会社の事業として新市場を創造しなければならない。なぜなら、時代が変わると求められるものも変わる。
鮭を切ってからの加工は、腹を裂いて、内臓を取る。その後3枚におろしてという工程になるが、今は、3枚におろしたものを切り身にしてとなる。それは最初からあったわけではなく、形状は時代の変化による。だいたいは加工されているが、そこは時代の変革と消費者の食べ方の変化による。
よって、時代によって同じものが売れるかというと売れない時代になってくる。何か加工するとなると、消費者が何を求めているかという点、そこがぶれなければ開発もぶれないだろう。
もちろん性能は大切だ、性能の良し悪しは口コミで広がる。食料品は、いいぞとなると広がるのは早いがつぶれるのも早い。
消費者ニーズを先読みするということでしょうか
とはいっても中小企業が単独で消費者ニーズを先読みするには難しい。
時代が必要とする物を決めることもあり、一概に消費者ニーズがあるわけではない。ただ、いままでは技術が先に開拓されてこんなものができれば、というところもあった。より新しい技術は必要だが、高度な技術がイコール価値ということではない。テレビがない市場にはいくら高度な技術を活用したテレビを提供しても意味がない。高度化のレベルは日々変わってくる。時代感覚は大切だろう。
日本が海外へと進出しようと思っても売れないものは多い。既存技術はカスタマイズして売れる技術になるものもあるので、意図的に高度化しないということもある。
サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします
サポイン事業があるから初めてやってみようということではなく、日常から会社の事業として、今後やっていきたい事を川下産業のニーズやマーケットと組み合わせ、日常から積み上げておく必要があるだろう。
こんな新しいものがあるぞ、サポイン事業があるからやってみよう、ということでは、考えもなく技術的に繋がりないので成功する可能性は低い。日頃から何をやっていきたいのか、こういったものがあるといいといったことを考え、サポイン事業を例えば事業化へのアクセルとして利用するほうが事業化しやすいのではないだろうか。
また、自社だけでは新たな技術としての開発が難しいのが正直なところだ。事業管理機関等はどの企業がどのような技術を持っているかを把握している。事業管理機関と密にコミュニケーションを取ることで、自分たちの方向性及びどのような技術がマッチングするか、事前の共同研究として何を進めておくか、等欲しい技術を考えるようになるのではないだろうか。そうすると事業化へのスピードも加速するだろう。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- データトラッキング制御による漁獲物高鮮度保持用オンサイト型海水氷製氷機の開発
- 事業実施年度:
- 平成22年度~平成24年度
- 研究開発の目的:
- 海水氷を瞬時に且連続的に生成する「漁船搭載用オンサイト型シャーベット状海水氷製氷機」の開発
- 事業化の状況:
- サポイン事業終了時点では事業化間近の状況
陸上設置型について、小型装置の開発、量産化、価格の低廉化を図っている
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