文字サイズ
標準
色の変更

研究開発好事例を探す

  1. トップ
  2. 研究開発好事例を探す
  3. 事前の研究開発を通じてプロセスで発生する課題に着目全社的に知見を結集させて新製品の開発を実施

事前の研究開発を通じてプロセスで発生する課題に着目全社的に知見を結集させて新製品の開発を実施

株式会社ピュアロンジャパン 技術開発部  三浦 寿夫氏

利用プロセスで発生しうる複数の課題解決につながる製品を設計

研究開発を開始したきっかけを教えてください

当社はフィルターや圧力計等を作る専門メーカーである。研究開発のきっかけは2010年頃、(独)産業技術総合研究所(以下、産総研)より「任意のガスを流れにくくする(微小流量)フィルターを作ることができないか」との相談があったことに由来する。当社は「任意のガスを流れやすくする」フィルター作りのノウハウがあったので、流れやすくするのとは真逆のプロセスで流れにくさを実現できると考え、何とか微小流量フィルターの開発を実現することができた。
ただし、当時はフィルターの微小流量を利用環境では測定することができなかった。また生産現場や開発・試験現場では、希望する任意の気体を使って、電離真空計や分圧真空計を利用環境下で校正できず、取り外して校正する手間が生じていた。今後の市場のニーズを考えた際に、単に微小流量フィルターだけではなく、「データの測定から保証まで全て提供できるシステム」として製品を提供することがインパクトが強いと考え、産総研からの後押しもあって研究開発を開始した。

協力メンバーの能力やノウハウをフルに活用して新製品の市場を開拓

自社にとって新しい領域での取組みになったかと思いますが、事業化までどのようにして進められたのでしょうか

研究開発は期間ごとに役割を明確にして実施した。 製品づくりそのものは当社に一任いただき、産総研には製品のデータ測定や、測定データを必要とする用途や市場のアドバイスをいただいた。
また産総研には、当社では測定できないさまざまな製品データの計測や学会発表へと対応いただいた。産総研という日本のトップ機関が製品の使い方やデータの有用性を発表することで、世の中に初めての製品でも「こういうものがあるのか」と関心を持ってもらうことにつながったと考えている。
また、当社だけではアプローチが利かない分析機器メーカー等に対しては、産総研より技術や製品データを事前に紹介いただき、その後当社がデモ機を用いて実証することで、初めて世に出す機器の信頼性を担保することができた。
一方で今後の課題にもなるが、当社の技術エンジニアだけでは製品の難しい説明に対応しきれないところがあるのもまた事実だ。当面は、産総研の協力を得てデモに同行していただき納得感を持ったデータの紹介を行うが、いずれは当社として、今までの取組みの蓄積を活用して市場の開拓を行いたいと考えている。

定量ガス流量導入装置:分子フローコントローラー

原理原則を押さえた研究開発の実施

貴社にとって新しい分野の研究開発だったと思いますが、従来と比べてどのような点に配慮したのでしょうか

本研究開発では、世の中に新しいものを出すことを目的としていたので、競合他社の動きや技術的な動向を把握するため、技術論文や特許に広く目を通すことを心掛けた。読むべき論文については産総研からも紹介いただき、研究開発を進める上でより多くの情報に当たることができたと感じている。

同様のプロセスは通常の研究開発でも積むのでしょうか

従来ができていなかったということではないが、論理的にデータを調べ、モノを作り、PDCAを上手く回しながら進める研究開発がより浸透してきたように思われる。
当社として今まで何十年も研究開発を行ってきた蓄積がある中で、物事の調べ方や研究開発の進め方には一定の知識はある。それでも、「過去はこうだった」という知識ばかりではなく、世の中にはあるもっと新しい知識があるのではないかという見方は、今回のサポイン事業の実施を通じてより社内に浸透したのではないだろうか。

社長の理解とリーダーシップのもと、全社的に研究開発を推進

研究開発を進める上で、社内では体制上の整備や配慮として何か工夫をされたのでしょうか

参加メンバーは相当の時間をサポイン業務に費やした。時間を費やすことができた背景には、当社の社長がリーダーシップを発揮し、「何としてでもこの事業を成功させたい、会社の次の柱にしたい」と強い決意を持っていたことが強く影響しているように思われる。結果、メカ設計、ソフトの設計やモノの加工など、開発に必要な知見を持つスペシャリストを集めて進めることができた。

兼務で入られたメンバーは多いのですか

研究開発には主に5名携わったのだが、もちろん現業もある程度はやりながらではあるが、多くの時間をサポイン事業に費やした。また、5人が隅のほうで研究開発を行うのではなく、会社として成功させる、そのためには他の社員がきちんとバックアップを行う必要があるということを社長が強く発信した。そのことによってほかの社員も、「成功させるために我々も頑張ろう」と協力する姿勢を取ることへとつながった。

社内の様々な知見を活用して研究開発を実践

具体的な研究開発上の課題はどのようにして解決をされてこられたのでしょうか

改めて振りかえると、難易度が高い研究開発を進める中で、進捗の遅れなどありがちな問題が発生しなかった背景には、密な進捗管理とともに、メンバー以外の社員から知恵を得たことが大きい。研究開発で問題が発生した際には、メンバーの5人だけで悩んでいても問題は解決しない。社内にもっといろいろな知恵がある方がいるかもしれないと考え、社内の別の部門の方にも積極的に相談をするように
心掛けた。

開発した標準コンダクタンスエレメント

さまざまな方から知見を得るメリットは何でしょうか

自分たちだけでは出てこない発想やアイディアを得ることができることではないだろうか。具体的な製品化のプロセスにおいても、筐体の設計や配管の設計には実際に社内で携わっている別部門の方にアドバイスを仰ぎ、実際に形にする上での様々なアドバイスをいただいた。必要な機能や形についても多くの意見をいただき、それらをもとにして絞り込むことができた。
結果として、何かに取組む際に仮説を事前に持って、より確度が高いものからアプローチをしていくことが可能になったと思う。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

まずは、サポイン事業の前に産総研と共同で研究をしていたことが強くプラスに影響している。サポイン事業を開始する前に事前の研究をしていたことによって、単にフィルターの提供だけではなく、検査装置の必要性に気が付き、開発へとつなげることができた。
また、サポイン事業が開始してからは、会社として一丸となって研究開発を進め、サポイン事業の主要メンバーに対して丸投げをすることなく、メンバーをいかにして全社的に支援するかという点での工夫が大きく影響したように思われる。メンバーの進捗管理やフォローにはさまざまな問題が発生しうる。会社として相互に信頼関係を持ち、進捗を補填しあうことが大切ではないだろうか。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
標準コンダクタンスエレメントを用いた基準微小ガス流量導入装置の開発
事業実施年度:
平成23年度~平成25年度
研究開発の目的:
ユーザ自らが、任意の気体を使って、任意の基準流量を、自分の装置に導入することが可能で、かつ、操作に専門的な知識と習熟を必要としない「基準微小ガス流量導入装置」を実現する
事業化の状況:
サポイン事業終了時点で事業化に向けた開発の実施段階
今後は、各分野の検査・分析メーカと連携することで製品の実用化・事業化を目指す