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将来的なニーズ発生を予測して研究開発目標を設定し、社外の関係者と密に連携を取りながら課題を解決

九州電通株式会社   取締役 技術部長  山田浩氏
          技術部 技術課  小篠一義氏
          総務部 経理課  小宮秀彰氏

将来的な製品の姿から想定されるニーズを読み取り、開発目標を設定

研究開発を開始したきっかけを教えてください

当社では水晶デバイスの製造・開発を行っているが、平成に入った頃から光通信の基地局等で高周波対応のニーズが出始めていた。高周波を実現するためには、水晶板の厚みを10ミクロン程度まで薄くする必要があり、従来の機械研磨では30ミクロン程度までしか実現できなかったため、薬品を用いた方法等の検討を通じ、最終的にプラズマ技術を用いたエッチング処理の手法で行うこととした。プラズマ技術の開発は平成8年~10年度科学技術振興調整費による地域先導研究の一環として行った。
今回のサポイン事業では、時代のニーズとして高周波製品を小型化した水晶デバイスが求められていることを踏まえて、小型水晶板の薄板化のための加工技術の開発と小型化に合った形状測定技術の開発を行うこととした。

サポイン事業に応募したきっかけを教えてください。

実はサポイン事業開始前は事業や制度について知らなかった。近年、長崎県内でサポイン制度に採用された企業がなかったこともあり、九州経済産業局と長崎県工業技術センターがサポイン制度の対象となり得る企業を訪問、開拓していたのだが、その過程で当社に往訪があり、サポイン制度を知った。応募期限までかなりタイトなスケジュールであったが何とか間に合わせて申請書を提出し、採択に至った。

高周波小型水晶板の外観及び断面形状写真

市場のニーズが小型化に移行しているとのことですが、小型化のニーズはどのように把握しましたか

まず水晶デバイスはセラミックスパッケージによる表面実装型製品の開発により、時代とともに小型化が進んできた。
また、ネットワーク速度も時代を経るにつれ高速化され、高周波の水晶デバイスが基地局やサーバーに必要とされてきた。
端末機器であるスマートフォンやパソコン等にも水晶デバイスは使用されているため、端末機器の水晶デバイスも将来的にはより高周波かつ小型な水晶デバイスが必要になると考え、先を見越して開発を行った。

明確な目標を設定、過去のデータの蓄積も活用して研究開発を実施

研究開発の目標はどのようにして設定されましたか

高周波で小型化を行うことが大前提であり、開発後、量産体制を整えるまでを開発目標としていた。既存の顧客からも小型水晶デバイスの高周波化の話が出ていたことや、アドバイザーとしてサポイン事業に入ってもらっていた(株)ニッポンインダストリーズからも要求が出ていたことを踏まえて、高周波と小型化という2点を実現することがインパクトがあると捉えて目標とした。

小型化に向けた研究開発で発生した課題はありましたか

プラズマ技術による高周波小型化を行うに当たり、周波数の安定性に関わる水晶板の形状を測定する技術がなかった。従来製品は干渉縞で厚みの安定性を確認できるが、小型製品は干渉縞では確認できないため、長崎県工業技術センターに形状測定を行ってもらい、その結果を見ながら加工条件の精査を行っていった。従来製品では誤差で済むレベルのものが、小型製品では大きく性能に影響するため、加工条件の仮説検証を繰り返し、試行錯誤しながら条件を詰めていった。
平成8年から9年にかけて、エッチング技術や真空条件等の基礎データを習得していたこともあり、それらのデータも使いながら開発を進めていた。当時に蓄積した基礎データがなければもっと開発に時間を要していたと思う。基礎データがあったからこそ、必要な加工条件の検討を行うことができたと思う。

小型化とも関連しますが、開発した製品の顧客はどのような産業を考えていたのでしょうか

サポイン事業開始時と比較して、ロボット産業等も高度化していることもあり、高周波かつ小型の水晶デバイスの展開可能性が出てきていると感じていた。展開しやすいのは「情報通信・情報家電・事務機器」、「電気機器・家電」だと考えている。
開発した製品はこれから市場で必要になることが予想され、現状はサンプルを各企業に納入し、性能評価を行って頂いている段階であるため売り上げはまだ上がっていない。

想定顧客以外のニーズを収集する必要性をサポイン事業を通じて認識

サポイン事業を振り返り、注力すべきだった点はありましたでしょうか

今回のサポイン事業では、アドバイザーとして(株)ニッポンインダストリーズに加わってもらい、成果を上げることができた。成果を多様な業界に活用してもらうことを考えると、さらに多方面の業界の方にアドバイザーとして入っていただくことで、サポイン事業終了後の顧客開拓をより広く進めることができるのではないか。自社の営業部門や他業界の方を体制に加え、多様な製品の展開先を用意しておくことで、より広範なニーズ把握・対応につながる。

成果の発信についてどのようにお考えになられますか

開発したプラズマエッチング装置システム

サポイン事業を通じて想定顧客以外のニーズを収集する必要性を感じた。例えば、自動車関連の企業から通常85℃までの水晶デバイスの仕様温度を、125℃までにしてほしいとの要望があった。また、海外医療機器メーカーから水晶板の特性を味覚センサーに用い、薬品が吸着すると周波数が変化する用途で高周波水晶板を使用したいとホームページを通じて問い合わせがあった。
このようなニーズや利用状況は、実際に成果を発信をすることによって把握することができたものだ。

サポイン事業を振り返り、そのほか苦労された点についてはどのようにした対応されましたか

当社は事業管理機関と研究開発機関を兼ねていたため、再委託先との書類等の作成には一定の時間を要した。研究開発の2年目からは長崎大学との共同研究等に工夫を凝らし、より進めやすい形で研究開発を進められるようになった。
九州経済産業局の方には、最初の頃からよく相談を行い、アドバイスを丁寧にして頂いた。サポイン事業では推進会議を年2回行っていたが、推進会議の要綱を作成する必要があったため、そのアドバイスも頂いた。推進会議には九州経済産業局の方も同席いただいた。長崎大学、長崎県工業技術センターとも距離が近いので、推進会議以外でも個別に直接打合せ等を行い、連携して進めることができた。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

サポイン事業を開始するに当たり、初めにしっかりと計画を立ててから研究開発を行った方が良いと考える。特に、潜在的な顧客ニーズを拾った研究開発の場合は、どの時点でニーズが出てくるかもわからないことから、いつまでに何を達成するか等の計画策定が必要ではないだろうか。開発ゴールをしっかりと意識し、それを達成するための計画を経年で整理し、サポイン事業を活用するとより良い成果に結びつくように思われる。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
モバイル機器の小型高性能化に対応したドライエッチング加工を用いた小型水晶振動子の製作技術の開発
事業実施年度:
平成24年度~平成26年度
研究開発の目的:
モバイル機器などの小型高速大容量通信機器に用いられる高性能高周波発振回路の基準発振源となりうる基本波による高周波小型水晶振動子の設計とドライエッチング加工の高度化開発を行う
事業化の状況:
サンプル品への対応を随時行い、既存顧客である情報通信機器業界や電子部品販売業者からの仕様問い合わせへの対応を行う