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事業化可能性の見極めと強い連携体制の構築で、研究開発の実施及び成果のPRの両面から事業化までの時間軸を短縮

株式会社垣内 代表取締役 社長                      安岡 和彦氏(写真中央右)
       開発部 主任                        秦泉寺 雄三氏(写真中央左)
公益財団法人高知県産業振興センター  産業連携推進部 産業連携課長     益井 康浩氏(写真左)
                   産業連携推進部 産業連携課 チーフ  三宮 英嗣氏(写真右)

製品化の可能性と市場ニーズを確信して研究開発を開始

サポイン事業を通じた研究開発を開始したきっかけを教えてください

凍結濃縮システムのフロー図

当社はこれまでユズ等柑橘類の搾汁機を製品化・販売していたが、より高付加価値な食品関連機器を開発する必要性を感じていた。
同じ時期、大学の技術シーズの収集及び大学と企業のマッチングを行う一般社団法人高知県工業会(以下、工業会)に、高知工科大(以下、工科大)の松本先生を紹介いただいた。松本先生は、高知県内の企業と共同で開発・事業化に成功した、魚の鮮度を保持するシャーベット状の氷「スラリーアイス」の技術が果汁等の高品質な濃縮に応用可能と考え、共同研究、開発を行う企業を探していた。一方当社においても、より濃度が高く、利用価値の高い柑橘類果汁を作り出す濃縮装置は、高付加価値製品の製造にもつながると考えていた。
協議を進めるなかで、松本先生が装置の製品化可能性について強い情熱をお持ちであるだけではなく、その実現可能性が高いことも確認でき、凍結濃縮装置を共同開発すべくサポイン事業への応募を決意した。
氷となった果汁中の水分を遠心分離機で分離して取り除くプロセスの基礎研究を先生が既に進められていたことを受け、サポイン事業ではそのプロセスの自動化と製氷メカニズムの解明を研究開発の目標とした。

サポイン事業への応募にあたり、他に準備されたことはありますか

サポイン事業への応募にあたり、製品化の可能性とともに、高品質の濃縮装置に対する市場のニーズも直接把握する必要があると考えた。そこで当社がユズの搾汁装置を納入している複数の業者等にヒアリングを行いニーズの有無を確かめたところ、ユズが豊作になるとユズ果汁の在庫を多く抱えることにもなり、在庫の維持管理費がかさむ等の課題があることが分かった。凍結濃縮装置で果汁を濃縮することで、品質向上を図ることに加え、維持管理費の削減に貢献できるという高い評価をいただいた。
凍結濃縮へのニーズ及び製品化可能性の両方を確認できたことにより、サポイン事業への応募を決定した。

綿密な情報共有により構築した連携体制が迅速な課題解決を実現

研究開発の実施中はどのようなことに注意していましたか

サポイン事業期間中は、当社を核としながら、工科大等と情報共有を密に行った。
サポイン事業1、2年目は、当社の専任担当者(秦泉寺氏)が先生のもとに頻繁に通って打合せを行い研究開発を進めた。また、事業管理機関の高知県産業振興センターが中心となって、共同研究体制内での連絡、メール等のやり取りをタイムリーに行うとともに、各機関の代表者と研究の実務担当者が集まる「全体会」を月に1回ずつ開催した。
高い頻度で集まり意見を交換する機会を持ったことで、研究開発の進捗状況等の情報共有を綿密に行うことにもつながり、連携を深められた。

改めて振り返って「研究開発の山場」はありましたか

サポイン事業が始まって2年目の終わり頃、液状食品中の成分が製氷に影響を与えたのか、氷粒子が小さくなり、当初想定していた遠心分離機では分離が難しいことが分かった。
その原因を探るためには氷粒子径に関する原理原則を明らかにする必要があると考え、基礎的な研究を突き詰めて実施した。その結果、液状食品の濃度が高くなると徐々に氷粒子が小さくなり、一般的な遠心分離機では分離が困難になることが判明したため、氷粒子を保持できる遠心分離機を新たに開発した。現象の原理・原則に立ち返ったことが根本的な問題解決に繋がった。
また、氷粒子径の基礎研究を行う過程では工科大の学生にも協力していただいたが、こうした研究支援は非常に大きな力となった。工科大との強い連携を通じて、双方の信頼関係が構築されていたことが、難しい局面において上手く機能していたように思う。

連携体制を活かした広いPRが新規市場、新規顧客獲得の機会を創出

共同研究先機関と連携して創出した研究開発成果を、どのような形でPRされたのでしょうか

企業としては、人員や資金を費やした研究成果の製品化及び販売が目的であり、サポイン事業期間中から研究開発と並行して販売先となる食品関連企業の要望を積極的に収集した。
サポイン事業期間中、展示会出展や学会発表を研究開発に参画した各機関がそれぞれ行った。例えば当社と工科大は、サポイン事業での取り組みを産学連携学会や食品工学会等の学会で発表した。また、共同研究先機関である高知県工業技術センターの職員や高知工業高等専門学校の先生も、所属する学会等で発表を行った。研究開発だけではなく成果のPRについても共同研究機関で連携して実施したことは、早い段階からの成果認知、拡大につながったと思う。
その結果、幅広い分野の方々から、様々なニーズを把握することができた。例えば、事業開始時点で想定していた食品産業市場以外にも、バイオテクノロジ―市場、環境・エネルギー市場等進出可能な市場があることが分かった。実際に、凍結濃縮装置の利用方法として当初想定していた柑橘類の果汁だけでなく、サプリメントの生産や排水処理にも利用できないか等の問合せを数多くいただいた。
興味を持った企業等に、サンプルを当社に持ち込んでもらい、濃縮液を試作する実験等を通じ、凍結濃縮装置に求められる処理量や濃縮後に維持されることが望ましい栄養素等の要望を日頃から収集できた。
こうした活動を通じて、研究開発内容の見直し等も適宜実施し、より市場のニーズにあった製品の開発に繋げることができたと考えている。

凍結濃縮システム

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業への応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

研究開発を行うには、人員や時間等の資源を投入することが必要になる。資源を投入した結果として十分な成果が得られない場合、企業の経営にも影響を与えることを予め考慮しておく必要がある。
また、共同研究先機関との連携が成果に大きく影響を与える。今回のサポイン事業では、当社と松本先生が核となった「全体会」を頻繁に開催することで、研究開発の進捗状況や課題を共有し、進捗の遅れが発生した場合でもうまく対応することができた。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
懸濁結晶法による凍結濃縮システムの開発
事業実施年度:
平成24年度~平成26年度
研究開発の目的:
液状食品の成分を安定的に濃縮でき、かつ自動で濃縮する凍結濃縮システムの開発を行う
事業化の状況:
サポイン事業終了後、現在は製品化に向けた段階にある。今後は減容化による保管、輸送のコスト低減に加え、付加価値の高い製品を生産できるシステムが実現できるよう開発を進める予定である