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研究開発を推進するための強力な体制を整備製品の製造工程を俯瞰した課題解決を実施

DAISEN株式会社 代表取締役社長  林 彰氏(写真中央)
         副社長      幸脇 盛治氏(写真右)
         開発室 課長   楯 泰貴氏(写真左)

自社の業務としてカバー可能な領域を活かして、順序立てて課題解決を検討

研究開発を開始したきっかけを教えてください

当社は発泡プラスチックの総合メーカーとして、発泡樹脂の成形加工、発泡樹脂用の成形金型、成形機の製造を主たる事業としている。
従来の発泡樹脂の成形はエネルギーを大量に消費する生産形態であった。発泡樹脂業界は省エネに対するニーズはかねてよりあったのだが、金型への断熱材の貼付など部分的な対応にとどまっていた。当社は発泡樹脂の成形機械、金型から加工までを一貫して行っているが、発泡樹脂の製造工程に広く携わっているという強みを生かしてエネルギー消費を減らすことで、業界全体の効率化やコスト低減に寄与することができると考えた。最大のテーマは省エネだった。

サポイン事業に取組む前から関連した研究開発をされていたのですか

省エネエコ金型のイメージ

本サポイン事業は、平成21年度のものづくり助成金による研究開発に端を発している。平成21年の研究開発の際には、まずは中空金型という新しい成形システムの歩留まりを上げることに注力して研究開発を進めることに注力していた。
その後、平成23年からのサポイン事業では、中空金型の歩留まりを上げながらも多数個取りによる製造工程の開発に取組んだ。改めて振り返ると、サポイン事業の前段として取組んでいた歩留まり向上のため研究開発があったからこそ、サポイン事業期間に歩留まりと多数個取りの2つの課題を解決することができたように思う。課題解決を同時並行でやっていたとしたら、3年間では成果が出なかったのではないだろうか。
今後は、金型交換によるコスト削減効果とともに、金型交換にかかる時間等も考慮して、多数個による製造との兼ね合いを突き詰めていきたいと考えている。

社外メンバーとの協力体制を構築し、実現可能な研究開発のゴールを設定

研究開発のゴール設定はどこに置かれたのでしょうか

サポイン事業開始時点では、「実用化間近」を研究開発のゴールとして置いた。金型のライフサイクルを考えた際に、顧客は1つの金型を2年、3年は稼働させる。常に動かされ続ける過酷な利用状況に耐え抜かなければならないことを考えると、単に「新しい金型ができました」という状態で提供するわけにはいかない。
製品を世に出すことは1つの目標ではあるが、顧客の利用環境に耐えうる諸条件を踏まえた上で、世に出すことよりもまずは世に出す前の製品の原理や原則の把握を丁寧に行う必要があった。実現可能な開発目標として、実用化間近の段階を最低限のゴール設定とした。

ゴールを達成する上では、どのような体制を構築して進められたのでしょうか

研究開発上の一番の課題は、「製品の不良率を10%以内に抑える」ということであった。ただし、その目標値を達成するためには、自社内の知見だけではなく外部の知見を活用して進める必要があった。
具体的には専門家の先生がた、例えば共同研究者である岐阜大学、岐阜県工業技術研究所の他、大阪府立大学、名古屋工業大学や産業技術総合研究所のかたから専門知識を踏まえたアドバイスをいただき、川下メーカーのかたの利用の視点も取り入れた研究開発を実施するチームを編成した。

そのようなネットワークは以前から構築されていたのですか

本テーマとは異なる場ではあるが、以前よりアルミ鋳物の金型の高強度化というテーマを検討していた。テーマ検討に取組む過程で、アルミ鋳物に関する専門家の先生がたと出会うことができた。先生がたと付き合いを深めていく中で、どの分野により強いのか、どのような姿勢で研究開発に取組まれているかなど、先生がたの個性を知ることにもつながっている。
今回のサポイン事業のチーム編成は、既に何らかのお付き合いがあった先生がたに鋳造や消失模型の知見が集結していたということも大きく影響している。我々の開発や事業構想を説明し、各分野の専門的な視点から「これならいけるだろう」と参画いただくことができた。

既存技術と新技術との組み合わせを通じて新たな製品開発を実施

具体的な研究開発はどのようにして構築されたのでしょうか、進捗には問題は発生しませんでしたか

サポイン事業の研究開発を進めていく3カ年を大きく占めていたのは鋳造技術の確立であった。当社が過去に事業を継承し、本研究開発で協力を依頼した鋳造工場は、消失模型鋳造にはなじみがなく、昔ながらの鋳造を頑なに守っている。
そこに消失模型鋳造という今までとは鋳造方法が全く異なるものを持っていき、鋳造の開発を行ったので、開始当初は本開発に求められる内容や精度(例えば湯温の調整、管理)等、既存の鋳造工程との違いから生まれる認識の差や固定観念等を払拭するのに苦労した。

どのようにメンバーを巻き込んでこられたのでしょうか

開発した中空一体構造の金型

一方的に「これをやってほしい」と依頼するのではなく、今の鋳造について教えていただくと同時に「こういった方法もあるのではないか」と、双方の持っている鋳造の考え方や情報交換を丁寧に進めるように配慮した。また、技術上の考え方や情報だけではなく、技術が生まれた背景の個々の働き方や労働環境、習慣等についても理解するように心掛けた。結果、鋳造の歩留まり向上という成果を創出、共有したことで、双方がより納得感をもって研究開発を進めることができた。過去に築き上げたやり方を十分に理解するとともに、共通の目標達成のために実施していることを双方が認識した上で、コミュニケーションを進めたことが功を奏したと考えている。

自らが研究開発を引っ張ることで、周囲の協力や支援を獲得

研究開発開始当初は「実用化間近」を目標とされていましたが、実際にはさらに1個上の目標をクリアされています

目標をクリアできた背景の1つは、確固たる目標を持って研究開発に取組む過程で、様々な方々の応援や支援を得たことが大きいと考えている。中小企業単体ではなかなか解決が難しい課題は多いのではないだろうか。
ただ、周囲からの協力を得るためには、一方では自分達がどれほど頑張るかという所も大きい。待っていても何かが棚ぼたで落ちてくるようなことはないだろう。自らが積極的に周囲と関係を構築し、研究開発を推進しなければならないと思う。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

先ほどにも関係するが、まず自分がその気になるということが全ての第一歩ではないだろうか。例えばサポイン事業による金銭的な支援をいただいたとして、そのお金だけで何とかしようとしてもそれは無理な話だ。最終的に事業として確立するためには、支援としていただいている費用の何倍かは用意していないといけない。
ある意味、サポイン事業の支援を受ける2年、3年が終わってしまったらそれでおしまいというわけではないので、覚悟を持って取組む必要がある。投資をしてもらうという感覚ではなく、自分たちが自ら投資して事業化を図るという気概も必要になるのではないだろうか。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
消失模型鋳造法によるアルミニウム合金の薄肉中空鋳造技術の研究とそれを用いた発泡樹脂生産技術の確立
事業実施年度:
平成23年度~平成25年度
研究開発の目的:
新規成形金型と成形法を開発し、多量の蒸気が必要なエネルギー消費型の発泡樹脂成形を省エネ化する
事業化の状況:
サポイン事業終了時点で実用化に成功した段階
今後、顧客との共同開発を進めるとともにパイロットプラントの試作、モニタ販売を行う予定