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原料供給-部品加⼯-ユニット製造のサプライチェーンにおける強固な連携のもとでの商品開発により、⾼機能化、コストダウンを達成

吉川化成株式会社 オプトカンパニー光学技術センター ⼯場技術課 副主任技師 リーダー    佐藤裕⼆⽒(写真左)
公益財団法⼈いわて産業振興センター ものづくり振興グループ 研究開発チーム総括 主幹   柳沢晴彦⽒(写真右)

差別化を意識して、サプライチェーン関係者を組み込んだ体制構築により生産工程改善、評価

研究開発の経緯、応募のきっかけをご説明ください。

平成20年より、熱硬化性樹脂によるリフローレンズ、携帯電話のカメラレンズを作りたいとの⽅針から、新⽇鉄住⾦化学(株)の熱硬化樹脂エスドリマー®について調査し、加⼯⽅法を開発しようと決めた。当社の材料加⼯⽅法とのマッチングを検討するため、材料提供の契約締結、試作を⾏った。平成24年に、JST復興促進プログラム(可能性試験)で設備の⼀部を導⼊した。今後、⾃動⾞⽤バックモニターが標準設備になり、市場が今後拡⼤する⾒通しから、JSTプログラムの結果も⾒て、平成25年に研究開発を加速しようとの考えからサポイン事業に応募し、採択された。

サポイン資⾦の活⽤についてご説明ください。

製造設備、付帯設備、特殊⾦型の作り込みに活⽤した。エスドリマー®は温度が変わると粘度変化が起きるため加⼯しにくく、精密な温度制御が求められる。市販の射出成形装置では、温度管理がなされていないので、材料供給装置を中⼼に温度管理ができる構造にカスタマイズした。

強み技術(樹脂加工製造プロセスにおける蓄積、知見に基づく工程の改善、最適化

研究開発で苦労した点をお話し下さい。

樹脂材料グレードと製造プロセスのマッチングに時間を要してしまい研究開発計画に遅れが⽣じてしまった。新⽇鉄住⾦化学(株)からも、多種類の材料を提供してもらったが、エスドリマー®の温度特性に対応するため、射出成形機を、精密温度制御が可能な成形機へと改良を⾏った。⾦型の知⾒のある社内技術者からの知⾒・情報を得て進め、成形⾦型においても温度制御ができる構造・機構を盛り込んだ。製品が硬化・架橋する部分は硬化可能温度に熱し、そこに⾄るまでの材料経路は安定した射出圧⼒を維持可能な温度を⼀定に保つことができる⾦型を製作した。また、レンズの離型や⾦型表⾯の汚れなど弊害を改善するため⾦型表⾯への耐久性をもった離型薄膜選定、ガスを除去するための洗浄機構を設置することで解決をはかった。これは、エスドリマー®は、ガス(⽔蒸気や架橋しない成分)の発⽣が多い樹脂で、通常の可塑性樹脂は0.5~0.7%であるのに対して、5~7%であることによる。ガスをどのように逃がすかに⼯夫が必要で、圧⼒をかけてガスを排出することとし、ガス化すると樹脂が収縮することも考慮した補正をして⾦型を作り込んだ。最終的に材料グレードを⼀本化し、研究開発のスピードを上げた。

研究開発の成果についてご説明下さい

製作した「L1レンズ」(左写真)とそのレンズを組込んだ
「⾞載⽤カメラモジュール:バックカメラ」(右写真)

カメラモジュールメーカーが採⽤しうるレンズの製作に成功し、従来のガラスモールドプレス加⼯によるレンズと⽐較して、表⾯硬度:6H(ガラスと同等)、⽐重:1/2(50%の軽量)、⽣産性:10倍、エネルギー効率:75%低減をなしうる⽣産プロセスの開発を達成するとともに、⾃動⾞メーカーが要求する信頼性に関するスペックをすべて満たした。また、1ショット当たりの⽣産性向上により、ガラス製品と⽐較して、20%のコスト削減を達成し、ユーザーが要求するレベルまで下げることができた。
ガラスから樹脂に置き換えることによって、⾦型の耐久性についても、通常はガラスであれば500ショットが限界であるが、樹脂であれば100,000ショットまで使⽤できる。また電⼒消費量も⼤きく削減できることが期待できる。

競合技術についてご説明下さい

競合技術では、ハイブリッドレンズ(ガラス+プラスチック)があるが、熱硬化性樹脂のみは当社だけである。今回の成果により、ガラスレンズに要求されるすべての機能と同等のレンズを作製できた。耐溶剤性も特⻑であり、環境試験や洗⾞、オイル付着でも劣化しないことが確認された。

特許出願の状況についてご説明下さい。

平成28年3⽉に、「耐熱蒸着膜」で単独出願している。審査請求するかは検討中である。

サプライチェーン関係者によって構成される研究推進委員会において、事業化に向けた開発を加速

研究推進委員会の運営は成果の創出に有効でしたか。

アドバイザーとして、エスドリマー®供給企業の新⽇鉄住⾦化学(株)、レンズを使って光学設計、ユニット化を⾏う、リコーインダストリアルソリューションズ(以下、リコーIS)が参画した。当社を含めたサプライチェ-ンを構成する3者が揃って、事業化に向けて意⾒交換を⾏った。原料供給-部品加⼯-ユニット製造のサプライチェーンにおける強固な連携ができた。リコーインダストリアルソリューションズには、⾞載⽤としての適性評価をしてもらった。
岩⼿⼤学は、市販の流動解析ソフトでシミュレーションを担当した。実際の成形条件との⽐較検証を実施し、エスドリマー®の実⽤性を広げることができた。

今後の展開についてお話し下さい。

エスドリマー®成形加⼯L1レンズ

リコーISより、カメラモジュールレンズの試作製作依頼があり、エンジニアリングサンプルの製作を実施した。事業化・実⽤化に向けた活動を加速するため、平成29年1⽉にキックオフ会議を開催し、定期的な協議を⾏っていく計画である。
現状エスドリマー®開発材料で有り、⾼価である。原料費の占める割合も⼤きく、今後需要増によって、エスドリマー®の⽣産規模が拡⼤し、コストが下がることを期待している。リコーのビジネス展開(国内、海外とも)によって⽣産拡⼤が期待できる。
社内組織も変え、専属で対応する新規⽴ち上げ部隊を組織した。研究開発が進展した証しとして認知され、営業も⼊り始めている。

技術のPR⽅法についてお話し下さい。

各種展⽰会(とうほく6県 ⾃動⾞の関連技術展⽰商談会、機械要素技術展)に出品している。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される⽅や、現在実施されている⽅にメッセージをお願いいたします。

振り返ると、サポインの資⾦がなければ、ここまで加速はできなかったと思う。設備投資に資⾦が得られたことはが⼤きかった。また、これによって⾦型のトライアンドエラーも不⾜なく検討することができた。
決められた期間内で解決していかなければならないことから、委員会におけるアドバイスをどう吸収して、どの程度まで応えるか判断が必要なる。設備購⼊する際には、研究計画をしっかりたてた上で購⼊しないと、使えない設備となってしまう恐れもあり、注意が必要である。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
屈折率可変熱硬化性材料と温度制御性に優れた金型および射出成形機を用いた超軽量『車載カメラ』レンズの開発
事業実施年度:
平成25年度~平成30年度
研究開発の目的:
従来ガラスで⽣産されていた『⾞載⽤カメラモジュール』のレンズを新規開発された熱硬化性樹脂【エスドリマー®】に置き換えることにより、「軽量化」「⾼機能化」「⽣産性向上」を実現することが出来る。【エスドリマー®】における最適な⽣産⼯法を確⽴する。
事業化の状況:
アドバイザー企業よりカメラモジュールレンズの試作製作依頼があり、エンジニアリングサンプルの製作を実施した。研究開発活動として⼀旦区切りをつけるが、引き続き事業化・実⽤化に向けた活動を加速する必要がある。