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独⾃開発の⾼速双ロール鋳造技術による⾼品質のマグネシウム合⾦板のコスト半減

権⽥⾦属⼯業株式会社 代表取締役社⻑            権⽥源太郎⽒(写真中央左)
権⽥⾦属⼯業株式会社 取締役総務部⻑            ⼭本周平⽒(写真左)
権⽥⾦属⼯業株式会社 製造部部⻑              櫻井淳⼀⽒(写真中央右)
権⽥⾦属⼯業株式会社 マグネシウム部マグネシウム課 主任   ⽚桐隼⼈⽒(写真右)

自社内での技術蓄積、失敗体験に基づき解決すべき課題を明確化して、サポイン事業に取り組む

研究開発の経緯、応募のきっかけをご説明ください。

マグネシウム合⾦の⾼速ロール鋳造は、2003〜2005年にかけて、⾃社研究で基礎技術を固めた。⼤阪⼯⼤、東海⼤には、2004年からお世話になり、アドバイスもいただいていた。2008年に、神奈川県や相模原市の助成⾦を活⽤して、⼯場が完成し、⽣産を開始した。⽣産しているうちに、圧延機、加熱炉などシステム上の不具合が顕在化し、均⼀な鋳造板ができない等の課題が浮かび上がり、量産化は⾒えてこない状況であった。世界初の技術であり、外部にも指導できる⼈がいなかった。これでは改善が必要と考えたが、資⾦が必要となり、サポイン事業に応募し、4回⽬で採択された。補助⾦が得られた事により、資⾦的には⼤いに助かった。量産化の問題は現れたが、開始前の期間での試⾏錯誤による技術蓄積は、解決すべき課題の明確化、それに基づく研究計画の策定、双ロール鋳造装置の運転特性に対する習熟など、本事業の成功に繋がった。

サポイン資⾦の活⽤についてご説明ください。

サポイン事業の費⽤は、鋳造ロール、圧延ロール、保熱⽤の加熱炉の改善に使われた。温度の影響、熱膨張の違い、冷却能の均⼀化によって制御ができると考え、熱膨張によるロールの樽形化を抑制する鋳造ロールの製造を⾏い、熱がかかっても、ほぼ均⼀に伸びることで均⼀な鋳造板を造ることができた。

産学連携の成果の活用、重点的なマンパワー投入により、直面した課題を解決

実施期間中に直⾯した課題はありましたか。

2年⽬の圧延ロール搬⼊が、計画より1ヶ⽉、後倒しとなり、試験数、試験⽚(東海⼤、産総研にサンプル供給する)のN数を確保するための期間が短縮され、集中的にマンパワーを投⼊した。これによって、最終委員会に報告できるデータを集積し、当該年度の計画を達成することができた。
遅れた要因としては、ロール設備メーカーの特許やノウハウに対しての設計データが不⾜していたため、弊社からの製造⽇程のコントロールが難しかったこと、製造メーカーにとっても初めての⼯作物であったことが考えられる。実質2年半の研究開発期間の中で、発注後の納期遅延は影響が⼤きかったが、克服できた。仕様は詰めていたので、年度ごとの発注でなく初年度から発注ができれば、もっと余裕を持って実施できた。ロールの樽形化を抑制ため今までに得た知⾒を基に、鋳造ロールの設計を⾏った。具体的には、温度の影響が⼤きく、温度の不均⼀な分布を防ぐロール設計、温度管理をどうするか等の知⾒を活⽤した。鋳造ロールは温度が⾼く、ラボと量産設備の差異が⼤きいため、熱の制御が難しい。
⼤学、産総研には、製造されたMg合⾦の品質評価、特に機械特性評価を担当いただき、アドバイスもいただいた。

研究推進委員会における審議の状況をお話しください。

リバース圧延の改善前後⽐較

実⽤化技術が完成後直ちに事業化できるように、アドバイザ―にはこれまでの付き合いのある情報家電、⾃動⾞、建材分野の企業にお願いした。それぞれの事業分野における、マグネシウム合⾦板に要求される性能、⾃動⾞では難燃化、⾼強度化、OA・家電では薄板化、耐⾷性、建材分野では難燃化、耐⾷性等を把握することができ、困っている課題、ニーズ等の貴重な意⾒を聞くことができた。また⼤学の先⽣⽅からも品質⾯での貴重な意⾒を得る事が出来た。 委員会は3〜4 回/年開催したが、進捗状況のスケジュール管理に⼤いに役⽴った。また本⾳のトークができ、忌憚のない意⾒、厳しい意⾒をいただいた。結果として、軽量性を維持し、特性を向上し、⼤幅なコスト低減を達成することができた。

産業界のニーズに応える多様な品揃え、コストを可能とする量産化技術を確立

成果について、ご説明下さい。

通常30回の圧延⼯程が、15回の⼯程となり、半分に削減できた。これによって作業時間が半分となった。コストダウンに効果があったのは、①⼯数削減、②歩留まり、③品質向上の順であった。最終価格は⽣産量によって影響を受けるが、1,800円/kgまでコストダウンができ、アドバイザーが求める業界のコスト要求満たすことができる⽬標達成ができた。
200kg/ロット以上が可能となった。量産設備として、⼗分であり、量産可能な状況になった。⼀般にCaが⼊ると難燃性となるが、割れやクラックが⼊りやすくなり、⼀般的には造り勝⼿が悪くなる。トレードオフの最適解を求めることができて、難燃性を確保できたことは⼤きかった。

今後の⽅向性についてご説明ください。

200kg鋳造コイルを可能とする鋳造条件探索

3つの分野の中では、建材向けの事業化が最も早いと想定している。アルミと⽐較して⽐重は2/3で、⾼強度のため同じ強度を出すのに半分の重量で済み、⼀⼈で施⼯が可能である。⾃動⾞は慎重、⾃動⾞メーカーの検証に最低5年はかかることから、もう少し先になる。試算結果も出ているが、⾃動⾞軽量化に繋がれば、C02削減効果がかなり⼤きい。
事業中1年⽬の成果として、耐⾷性が向上し品質が向上した。横展開のシーズとして、現在検討中である。実⽤化から事業化への課題として、板の提供だけでなく、加⼯技術も加えて⾏きたい。特許については、既に双ロール鋳造の基本特許を取っており、今回の成果は、ロールの改良型という位置けであり、装置としての特許化は考えていない。
双ロールにも何通りもあり、韓国の製造⽅法では⽣産できる合⾦が限られる。中国ではケークから圧延をして作るものもあるが、これも合⾦種が限られる。当社の製法は、世界初の⾼速双ロール鋳造の量産技術を完成させた。この製法は多種の合⾦に対応可能である。

企業戦略上の効果についてお聞かせください。

補助⾦が得られ資⾦的には⼤いに助かった。製法に特⾊があり、他社との差別化となる。⾊々なMg合⾦ができるようになり、求めるニーズが異なる業界毎に、あるいは企業毎にカスタマイズして、マグネシウム合⾦板を提供できる。⽤途展開のバリエーションの幅を広げることができた。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される⽅や、現在実施されている⽅にメッセージをお願いいたします。

サポイン事業のメリットは、企業戦略に合致した研究開発ができる。採択されなかった場合でも、⾃社独⾃に取り組む予定であったが、資⾦の問題もあり、より時間がかかったと思われる。サポイン事業は研究開発の加速に効果があった。
4回⽬のトライで採択されたが、それまでとの違いは、成果の活⽤⽤途をはっきりさせたこと、ユーザーを含めたアドバイザーの体制を構築したこと、コストダウンや⽬標達成の道筋を明確に記述したことであった。特に、研究開発のストーリ-、シナリオ(例:●●をやると○○の結果が予想され、次に△△を⾏う)を応募書類に明確に記述することが重要と思われる。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
高品質マグネシウム合金板のコスト半減を実現する高速双ロール鋳造・圧延技術の開発
事業実施年度:
平成25年度~平成27年度
研究開発の目的:
マグネシウム合⾦板の製造⼯程において、溶解時の溶湯清浄化技術及び⾼速双ロール鋳造と圧延⼯程での凝固・加⼯・熱処理に関する制御技術を開発し、従来材に⽐べて不純物が少なく、製品⽋陥の少ないマグネシウム合⾦板のコスト半減を実現する。
事業化の状況:
アドバイザー各位へのサンプル提出を⾏い、本事業成果である製品群の実⽤化を確実なものにしようと考えている。事業化はサポイン終了後1年以内に実現したいと考えている。そのために現サポインのアドバイザーの⽅々と量産・商品化へ向けての検討を継続的に⾏っている。各種展⽰会に精⼒的に参加しており,それに加えて地道な営業活動を⾏い,具体的に事業化に向けた話も数社から来ている。