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「学の理論」と「患者の立場に立った要求仕様」の差異を埋めて製品の上市化を目指す

山科精器株式会社 代表取締役社長                                 大日陽一郎氏(写真中央左)
                         常務取締役                                       藤原卓也氏(写真中央右)
                         執行役員 中央研究所 所長                   保坂誠氏(写真右から二番目)
                        メディカルアドバンサーズ 企画担当       伴菜美子氏(写真右)
滋賀県工業技術総合センター  専門員                              山下誠児氏(写真左)
公益財団法人滋賀県産業支援プラザ ものづくり支援課長   篠原弘美氏(写真左から二番目)

公的資金による研究開発成果は必ず上市するという会社方針に沿ったサポイン事業への応募

サポイン事業による研究開発のきっかけや経緯を教えてください。

当社では2013年から医療機器を手掛けており、いろいろな産官学連携の実績の中で東京医科歯科大学の儀武先生に巡り会った。東京大学TLOから紹介され、先生もご自分の研究テーマを具現化したいとのことから、様々な企業を調べていた。当社も儀武先生の理論が理解でき、当社に実際に来て頂いて先生も考えていることが実現できるとの判断から、サポイン事業で研究開発を行うことになった。
当社としては、サポイン事業で研究開発を実施するからには必ず上市することにしており、これまでも公的資金で研究開発を行った際も必ず製品化、上市を行ってきています。今回もそのような判断をした。
サポイン事業へ応募するまでの半年の間に、当社で製品化に取り組むべきかの判断を先生と話合いをしながら、並行して応募に向けた作業を進めてきた。

上市ありきのための体制作りと未知未踏にチャレンジする企業ポリシーによる最終判断

研究開発の体制構築、事前調査について教えてください。

一番の懸念は製品化しても上市できないことであり、医療機器の販売会社である小西医療器殿に、アドバイザーに入っていただいき、マーケットを睨んだ体制とした。医療機器製品の発売を開始した当時のマーケティングが出来ていなかったことや、「製品はできたものの、・・・」といった苦い経験を活かして、あくまで上市ありきのための体制作りを行った。
応募までの半年間で、儀武先生からの患者数の情報や、アドバイザーの意見も聞いたが、実際にどこまで市場があるかを見極めることは難しかった。当社は、未知未踏にチャレンジする企業ポリシーがあり、お客様に喜んでいただき、自社の技術レベルのアップにも繋がることから、最終判断した。

「学の理論」と「患者の立場に立った要求仕様」の差異を埋める

サポイン事業での研究開発の概要とポイントを教えてください。

儀武先生からは、顎関節症は訓練器と診断器の両方で診断と治療をしていかないと今より良い治療ができないと伺い、両方の開発を進めた。要求仕様が考慮された形状ではなかったため、コンセプトモデルに対してスペックを加味する必要が出てきた。当初理論の前後の動きと上下のスライド、滑りながら開く原理を今回のサポイン事業で具現化できた。
工業技術総合センターの3Dプリンターも活用した。 理想設計と現実設計の差異を埋め、理想的な形になっている。形ができても、患者の治療の原理に合っているかが一番の問題である。現在、実際に患者に施療されており、改善されている方がいて効果が上がっていると聞いている。

開口訓練器(左)、開口度測定器(右)の開発品

共同体制で測定器、訓練機の問題点を解決

研究開発で苦労した点を教えてください。

測定器の目盛りの印字には苦労した。印字のずれや字が不明瞭なことが問題になり、滋賀県産業支援プラザに相談し、発泡印字技術をもっている企業を紹介してもらって印字ができるようになった。測定器は顎関節だけでなく、手術で麻酔に関して使用出来るなど幅広い用途が期待できる。
訓練器については、何度も3Dプリンターで試作したが、握り心地の設計に苦労した。大まかな形は変わっていないが、くぼみをつけること等の細かいところで修正を行った。また、人・性別によっても顎の大きさが異なり、口に関するデータ等も参考にしながら、最適なサイズに合わせ込んでいった。

患者への施療データ蓄積と展示会への出展による瀬品の浸透を目指す

サポイン事業による研究開発品の事業化の状況について教えてください。

開発品は、実際に患者の方に使っていただく以外に、展示会への出展も行っており、徐々に国内外の先生方に興味を持っていただいている。これまでも医療機器の開発品である内視鏡や外科用器具等は、展示会での展示を繰り返してきており、経験を積んで洗練してきている。サポイン事業の中では、1つの開発品で幅広く対応していくことで考えていたが、実際に使っていくとサイズの大小が必要になる可能性もあり、今後も継続的に検討していく。また、訓練器については、当初想定してなかった開口障害の方にも適用できるように改良を加えていくことで考えている。

解剖学的に正しい開口軌道の実現

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

今後サポイン事業を活用する事業者へアドバイスをお願いします。

医療機器のマーケットに関しては、専門ではないことから、産業支援プラザ等の外部の力を借りた。さらに今回は実務的な立場から、アドバイザーとして小西医療器殿のお力をお借りした。サポイン事業では進捗会議を行ったが、必ず専門の方からアドバイスをいただき、提案時から体制に入っていただいてよかったと思っている。
企業を立ち上げて成功している方は、ニーズ、改良、ニーズ、改良を繰り返していることをお聞きしており、医療機器も変化をしていることから、その変化に対応していくことが必要となっている。
地域の方の力をお借りしながら、世の中にないものでも、1品ものでも、作り出せる力を失わないことが重要であると考えている。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
国民病「顎関節症」の治療に最適な革新的次世代型開口訓練システムの開発
事業実施年度:
平成26年度~平成28年度
研究開発の目的:
顎関節症治療、特に開口障害(有痛、無痛)の治療に用いられる器具は、十分な機能を有さないまま、長年、技術革新がされておらず、顎関節症の専門医は治療効果が高い訓練器具や的確な診断の役に立つ測定器具を切望している。
事業化の状況:
補助事業期間内に製造販売届出を完了した後、実際の患者様に使用し一定の有効性を臨床にて確認できた。また、事業化に向けた体制を整えており、平成29年5月から「ヤセック開口訓練器」及び「ヤセック開口度測定器」として国内の販売を開始した。