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潜在ニーズを読み取りサポイン事業開始前から研究開発を開始研究開発以外のシーンも活用して課題解決の着想を得る

株式会社川上鉄工所    営業購買部 部長  林 祥次氏(写真左)
                                   社長付   部長  内田 清氏(写真中央)
広島工業大学 大学院工学系研究科 教授  日野 実氏(写真右

サポイン事業の開始前から準備を行い、サポイン事業を通じて研究を加速

研究開発が開始したきっかけを教えてください

当社が取扱う鍛造製品の70%は自動車部品であり、そのほとんどは異形状な動力伝達用のシャフトである。鍛造製品には「削りやすさ」と「熱処理の施しやすさ」が要求されるが、これらの性能を出す上で従来の鍛造プロセスでは二度の加熱を行う必要があり、熱効率やコストの面から非効率であった。この二回の加熱を一回で済ませることができれば非常に効率的な鍛造ができると考え、スマート鍛造の研究開発を開始した。
スマート鍛造プロセスへのニーズは随分と前からあったのだが、当社が取扱う異形状での動力伝達用シャフトでは冷却や加工が難しかったこともあり、なかなか本格的な研究開発へ踏み切ることができなかった。サポイン事業を受ける5~6年前から、まずは自社でお手製の製造設備を作って実験を繰り返し行った。出来上がった試作の鍛造品を見て「スマート鍛造はいけそうだ」という見通しは得られたのだが、完成品には程遠かった。スマート鍛造プロセスを実現させたいという強い気持ちはあったが、当社の設備だけでは自動車メーカーのように高品質を求めるエンドユーザーにとって満足のいく鍛造品の実現は難しいと判断し、研究開発を開始するチャンスが来るのを待つことにした。

どのような経緯でサポイン事業へと応募されたのでしょうか

サポイン事業の存在は最初から知っていたわけではない。以前より当社と付き合いがあった岡山県工業技術センターの藤井先生より広島工業大学の日野先生をご紹介いただき、日野先生から様々なアドバイスを受ける中でサポイン事業の存在を知り、応募を決意した。

日野先生はなぜサポイン事業を紹介されたのでしょうか、研究開発の可能性を感じておられたのですか

川上鉄工所は、サポイン事業を始める前からかなりの成果を自社で実現されていた。これまで幾つかサポイン事業案件に携わってきたが、予備実験でしっかりとデータを取っている会社はなかなかない。このデータがあれば実用化まで到達することが可能だろうと考え、サポイン事業への応募を推薦した。

顧客の要求を満たす開発目標を設定

研究開発の目標はどのようにして設定されましたか

自動車製品には高い安心・安全が求められる。従来の鍛造プロセスを顧客の承認なくして変更するわけにはいかないため、スマート鍛造が従来の鍛造プロセスと同等の品質であることを示し、安心してもらう必要があった。そのためには基礎的なデータの積み重ねが必要であることから、結晶粒の微細化などの技術的な課題解決を図る上で、「実用化に向けた開発」をゴールに設定した。

研究開発に専任を置き、必要に応じてメンバーを補強

研究開発にはどのような体制で臨まれたのでしょうか

研究開発は会社の了解を得て、内田氏が専任で取組んだ。実験などは必要に応じて研究員を投入していたが、実験以降のデータ分析等は内田氏が主に実施することで知見を蓄積、集約していった。
その後、研究開発には林氏も加わり、時間をかけて周囲の方と情報共有を行い、研究開発データの蓄積と結果を生み出していった。日常業務とサポイン業務とを担当者が併任で対応するのではなく、会社がサポイン事業の実施に理解を示して専任を置き、自社の強みを生みだすために一丸となって実施したことが成果につながったと考えている。

社外の関係者とはどのようなコミュニケーションを行ったのでしょうか

サポイン事業を開始した当初、今まで接点がなかった大学の先生方に本研究開発にどのくらい協力していただけるかは未知数だった。定期的な会合で顔を合わせても、当初は発言も遠慮していたように思う。しかし、一緒に実験を行う中で双方の立ち位置や実情を理解することができ、遠慮なく円滑なコミュニケーションが進められるようになった。中小企業の発展に本気で力を貸していただけることを実感した。もっと早い段階から関係構築ができていればよかったと思う。

情報の共有が新たな着想を生み、研究開発上の課題を克服

改めて振り返って「研究開発の山場」はありましたか

鍛造品の部分冷却技術の開発は大変だった。鍛造品内部の温度分布を明確にし、温度差が小さくなるように工夫をする必要があったのだが、冷えにくい部分が多く冷却されるように、鍛造品を回転しながら冷却する装置を林氏が設計した。回転を売りに説明をしたところ、顧客からは良い反応が返ってくるようになった。

回転という着想はどこから得られたのでしょうか

新鍛造プロセスを支える独自の制御冷却設備

解決策を日々考えていたところ、ちくわを焼く装置の動きからふと閃いた。鍛造品を回転させながら冷やし、送りをかけることで良い結果が出るのではないかというのが元々の発想だった。その後は試験機を独自に開発して検証し、うまく進めることができることが分かった。当初は「転がる方向に回す」方が効果的だと思っていたのだが、加速度の問題で反対方向に回したほうが良いことが分かったのも、試験機を作って開発を行った結果だと思う。何回もの試行錯誤を繰り返した結果、最終的には満足いくものが完成した。 林氏と内田氏と研究員との間で、研究開発の問題点や課題を日々共有していたことで、一人では生むことができない着想が生まれ、課題解決につながった。

その後、想定外に発生した課題はありましたか、その課題はどのようにして解決されたのでしょうか

生産設備となる連続炉の製造が可能な炉メーカーを何社か当たっていたところ、当初は予算を聞かれただけで断られるなどしたのだが、最終的に良い炉メーカーと巡り合うことができた。通常の連続炉は一本ものであるが、我々の構想としては二段恒温処理という温度に三段階の変化を加える炉を実現したかった。炉メーカーに構想と予算を伝えたところ、炉体へのアドバイスを頂いたうえに、費用面やブローワーやエアー配管などの設備も一部提供いただいた。炉メーカーには5社当たったが、従来の付き合いがあった先だけではなく、可能性を広げるために様々な炉メーカーと当たったことで、最終的に非常に良い炉メーカーに巡り会うことができたと考えている。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

当社のように小さな企業の場合でも、「本当にやりたい」研究テーマがあれば、勇気を出してサポイン事業に挑戦するべきではないだろうか。サポイン事業が無ければ、大学の協力を得ることもできなかったし、アドバイザーから有益な情報も得られなかった。将来的に自社の事業を立ち上げるためには、勇気を出して挑戦することをお勧めしたい。
しかし、躊躇してしまう気持ちも理解できる。当社の場合、日野先生のような研究開発成果の事業化に熱心な方の後押しがあったからこそ挑戦できたという背景がある。自社の事業を後押しする協力者は必要である。大学との連携は非常に重要であるが、遠慮せずに「こんなことで困っている」という気持ちを素直に伝えていくことで、良い結果が出るのではないだろうか。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
被削性およびコスト低減を可能にするスマート鍛造プロセスの開発
事業実施年度:
平成23年度~平成26年度
研究開発の目的:
鍛造の加工と保有熱を活用制御することにより、良好な被削性、耐歪性が鍛造品に兼備でき、低コスト・短納期で需要変動にも対応できるスマート鍛造プロセスを開発する
事業化の状況:
サポイン事業終了時点で実用化に向けた開発の実施段階であり、今後はスマート鍛造プロセスを同業他社や川下事業者へと導入を進める予定である