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研究レベルから歩み寄り信頼関係を構築することで大学の知見を取り入れ、事業化へ向け産学連携を加速

(左側)研究開発を実施した主要メンバー
(右側)プラスチック種類を区別して選別回収できるラマン多重選別装置(試作機)

市場環境の変化を見越して、長年の課題があったリサイクル市場への展開

「ASR*1プラスチック高度回収システムの開発」に取り組み始めたきっかけを教えてください。
 *1:ASR(Automobile Shredder Residue、自動車シュレッダーダスト)

当社では、白物家電のリサイクルで発生するシュレッダーダストに含まれるプラスチックのリサイクルに従来から取り組んでいる。シュレッダーダストのなかからプラスチックを識別する際には、ラマン散乱分光法(光と物質の相互作用を利用して物質を識別する方法)を利用している。昨今はリサイクルにあたり効率が良い家電や分別方法が全国的に広まり、家電メーカー自体が独自の方法でリサイクルの取り組みを行うようになったこともあり、白物家電のリサイクル市場は徐々に限界が見えていた。
既存市場での事業が徐々に難しくなってきていた時に、空いている市場はどこかと考えたのだが、使用済自動車のリサイクルで発生するシュレッダーダストであるASRに目をつけた。

なぜ空いている市場のなかでもこのタイミングでASRに目をつけることになったのでしょうか。

プラスチックの使用量は多いものの、まだ誰も本格的に取り組めていない代表格は自動車であったが、自動車のリサイクルは技術的な側面から非常に難しく、長年の課題とされていた。サポインが始まる前のタイミングで、大手自動車メーカーがラマン散乱光学識別機に興味をもってくださったこともあり、研究開発に必要な国の補助金などをいろいろご紹介いただくことができた。
大手自動車メーカーとはもともと接点があったわけではないのだが、当社が家電のシュレッダーダスト処理について学会等で発信していたこともあり、自動車メーカーの研究者の方が当社の取り組みを知る機会があったようだ。ラマン散乱光学識別機といえばサイムがやっていると名前が知られていた。

複数の分別・識別手法を検討し、サポイン開始前から品質向上の研究開発を実施

新しくASRからのプラスチック回収に取り組まれるなかで、どのような課題があったのでしょうか。

ASRにはプラスチックが33%含まれているが、そのほかに夾雑物(きょうざつぶつ)といわれるウレタンやゴム・木屑も含まれており、まずはそれら夾雑物を取り除くのが困難であるとされている。回収したプラスチックを販売するにはペレットに加工する必要があるが、夾雑物が多いと販売できるペレットを作ることができない。また、リサイクルの対象が白物家電から自動車に変わったことで、シュレッダーダストの色が白色から黒色に変わってしまった。白色と違って黒色は光を吸収してしまうので、夾雑物を取り除くにあたり光学式で識別するのは非常にハードルが高く、それまで使用していたラマン散乱光学識別機ではプラスチックを十分に識別できなくなってしまうという課題があった。
そこでサポイン事業の前に、平成26年度頃から平成27年度頃にかけて大学の先生たちと試行錯誤していたのが、「水を利用した比重選別」なのだが、比重選別のみでは分別後のペレットの品質が目標値に届かず、加えて夾雑物もなかなか除去できず悩んでいた。このままではペレットに価格がつかないので、プラスチックの識別精度を向上させて、ペレットの品質を向上させる方法を考えた。比重選別に加えて、ずっと取り組んできたラマン散乱光学識別機も利用してシュレッダーダストを4段階に識別し、商品化することを目指した。これがサポイン事業の始まりである。
結果的に、比重選別のみで識別していたときは、回収したシュレッダーダストのうちの40%ほどしか市場に販売できずに60%はゴミになってしまっていたのだが、ラマン分光法を用いることで、残りの60%も販売できるようになった。ラマン分光法を導入したことでペレットの品質を向上させることができたとともに、プラスチック資源の使い方もより効率的になった。サポインの前段においてこのような研究開発を実施していたことで、研究開発の成功可能性の検討やサポイン事業での適した目標設定、効率的な実施につながったと考えている。

サポイン事業の成果を活用したASRプラスチック高度回収システム

大学の先生がたのネットワーク、知見や知識を適切に取り入れ、戦略的に産学連携を加速

共同研究メンバーの先生方とはサポイン事業の前からつながりがあったのでしょうか。

近畿大学の河濟先生とは平成14年度頃から交流が続いている。当時HDPEとLDPEの識別をしようとして公益財団法人 飯塚研究開発機構に技術的な相談したところ、「近畿大学に専門の先生がいる」と言われ、コーディネーターと一緒に相談しにいったのがきっかけとなっている。現在に至るまで、HDPEとLDPEの区別、白物家電のシュレッダーダストに含まれるPS、ABSの区別、ASRに特有の黒色プラスチックの識別など、様々な共同研究に取り組んできた。このようなご縁が長く続いていることがサポインでの共同研究につながっている。
また、過去の外部会合でお会いした公益財団法人 福岡県産業・科学技術振興財団の太田コーディネーターに、プラスチックのリサイクルに取り組んでいることを紹介したところ関心を持っていただき、ちょうど黒色プラスチックの識別に取り組み始めた頃だったこともあり、「黒色の識別に挑戦したい」という話をしていたところ、研究開発助成として市村清新技術財団(リコーを創設した市村清氏が新規開発の技術支援をするために作った財団)の補助金を紹介いただいた。補助金を経てさらに実用的な研究開発を実施したいとなったときに、「サポイン事業に応募しよう」という流れにもつながった。大学の先生との多様な出会いがあったことがサポイン事業の実施やその後の研究開発に着実につながっている。
九州工業大学の西田先生は河濟先生と面識があり、プラスチックの専門家だったこともあり、研究体制に入っていただいた。北九州市立大学の大矢先生は、学会で当社の話を聞いたことがきっかけとなりつながったのだが、機械の専門家ということもあり、装置を組み上げる上での知見やアドバイスをいただくことができた。

大学の先生と共同研究するうえでのコツは何だとお考えですか。

産学連携は、企業側・アカデミック側の人間がともに産学連携の方法論や進め方を勉強することでうまくいくと考える。企業側とアカデミック側の技術的な知識の幅はかなり差があるので、差を埋めるためには大学の先生に寄り添っていただく必要がある。一方で、企業側がなかなか理解できずアドバイス通りにうまく実行できない場合もあるので、「できない」ということを指摘するだけではなく、「これをこうしたら良いのでは」とできるようになるための面倒を見てくださるような協力関係が重要である。
また、良い研究をどのように事業化につなげていくかという視点も必要になるだろう。論文に限らず、「装置が世の中に出ていくことで意味がある」という目的のもとで大学の先生に参画いただいているので、装置を完成させたいと思う気持ちが一致していたことが大きい。双方が目的レベルから歩み寄ることが重要であり、そのための信頼関係の構築がカギになる。

過去の研究開発を踏まえて確度高く研究目標レベルを置き、川下企業のアドバイスを通じて的確にブラッシュアップ

研究の最終的な目標はどのように決められたのでしょうか。

研究開発がスタートしたときは、過去の研究成果の蓄積があったこともあり、経験則からある程度の目標レベルを想定していた。研究が2年目くらいに差し掛かった頃に、家電のプラスチックのリサイクルの先駆者である大手メーカー出身の方にアドバイザーとして参画いただいたが、その方から「ここまできたらこのレベルまで高めることが必要」と評価をいただき、最終的な目標が見えてきた。アドバイザーを通じてシュレッダーダストを実用化するにはどのレベルの精度のものが必要か、現実的なご意見をいただくことができた。

実際に製品の材料の判断をされていた方とどのように出会われたのでしょうか。

平成22年度頃に家電のシュレッダーダストに取り組んでいた際に、経済産業省の補助金を利用して大阪で実証事業をさせてもらったことがある。アドバイザーとはそのときに接点を構築した。学会のつながりもあったので個別にアドバイスをいただくことができた。

リサイクル材料の機能やプロセスノウハウをいかす多様なビジネスモデルの検討に挑戦

リサイクル後の事業化の1つの手段として、ペレットの用途としてはどのようなものを想定していたのでしょうか。

サポイン事業開始時は、ペレットの用途として「Car-to-Car」を想定していた。自動車のシュレッダーダストをリサイクルして、再び自動車の材料として使ってもらう構想を持っており、結果としてベース材にはならないとしても、添加剤として使える品質までは向上させることができた。リサイクル資源を今までなかった市場や用途として一から使ってもらうのはハードルが高いので、他の分野でも使ってもらうためにはまず自動車で使ってもらうのが必要不可欠だと考えていた。
用途への提供に向けて、リサイクルプラスチックを供給している事業者にアドバイザーとして参画いただき、品質や物性についてアドバイスいただいた。品質の誤差に対して、我々の感覚として「よくできた」という誤差ではなく、実際に自動車会社の厳しい品質チェックに耐える製品を販売するにあたって必要な誤差など、具体的な基準を教えていただくことができた。

今では自動車以外の用途も考えられているのでしょうか。

自動車以外の出口としては、すでに包装資材メーカーやパレットメーカーでの出荷実績がある。
次のステップとしては、新材料の開発に取り組んでいる。ASRに含まれている素材の機能を生かして、ペレットに新たな材料を混ぜることでプラスアルファの機能を付与し、付加価値をつけるべく追加研究を実施している。ASRに含まれる樹脂以外の物質は通常の用途であれば邪魔な成分なのだが、ピュアな材料として供給するには限界もあり市場側のメリットも少ないので、いかにして分離するかではなく、いかにして活かすかという方向性で研究開発を進めている。
新しい取り組みにも興味を持っている。大手の業者でも様々な形で新しいジャンルを模索しているような環境なので、ビジネスプランを一緒に作るようなことにも挑戦したい。ASRを回収しようとする会社が数社出てきているので、そのような企業と連携・アドバイザーとして入る場合や、ライセンス供与によるビジネスモデル検討もあるだろう。
経験則的に製造装置は売らない方が良いと思っている。売ってしまった場合、メンテナンスが当社にしかできないという強みはあるが、販売先で製造した商品の売り上げは当社には入らないし、製造装置が分解されてしまう恐れがある。より安く再現されてビジネス機会を失うことがないよう、装置販売からノウハウ提供へと、今後もビジネスモデルを変化させる必要がある。

詳細な課題整理や研究開発段階での柔軟な目標設定が成果創出に必要

サポイン事業の中で成果を出すのにあたり重要なことは何でしょうか。

改めて振り返ってみてもサポインは難易度が高い補助金であり、今回のような研究開発の蓄積がある場合はよかったが、ぱっと思いついたような課題では応募できるような補助金ではない。応募者が課題を明確に整理し、解決課題を特定できている段階で採択されないと、おそらく事業化にはつながらないだろう。今回の研究開発のように、サポイン事業が始まる前に研究課題が整理できていたのは、サポイン期間中に成果を出す上でスタート地点を高めることにつながった。試行錯誤して歩んでくる時間が必要だと考える。
また、このサポイン事業では、途中でいただいたアドバイスを参考にして可能な限りフレキシブルに目標を変更し、結果的に必要性がなくなったサブテーマは実施を見合わせた。最初に定めた目標の達成は求められるとは思うが、「ASRからプラスチックをリサイクルする」という当初の目的を達成するためには、3年間の研究を通じて最初の想定から変更が生じる部分が出てくるので、研究開発のプロセスにおいて柔軟に対応できると非常にありがたいと改めて感じている。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
精密夾雑物除去及び高精度光学選別技術によるASRプラスチック高度回収システムの開発
事業実施年度:
平成28年度~平成30年度