川下企業や共同研究先との相談を通じて、量産を意識した研究開発の数値目標を設定
コア技術を活かせる今後の成長分野を模索し、最適な共同研究先とともに研究を開始
今回このテーマを選ばれた経緯を教えてください。
当社のコア技術に大気圧環境下で基材に均一な塗布膜を形成できるスリットコート技術があり、その技術を用いてテレビの液晶画面に使われているカラーフィルターの製造装置の製造・販売を行っている。本製品については既にグローバルでの市場シェアも高く、また液晶テレビ市場の環境からも今後伸びる余地が限られるため、次の技術を探していた。そのような状況の中、これまで行っていたシリコン系の半導体に代わり、フレキシブルデバイスに用いられる有機半導体で新しい塗布技術開発ができないかを検討し、低コストかつ高生産性を実現する有機半導体結晶膜の塗布技術の開発を目指した。
共同研究先はどのように探したのでしょうか。
2014年から2年間、岡山県の研究開発補助金に採択され、別の研究機関と本テーマについて共同研究を行ったが、有機半導体の性能指標の一つである電子移動度について事業化に必要となる高い目標値を実現することができなかった。このハードルを越えるため、岡山県産業振興財団に相談し、本テーマに適切な共同研究先を探していただいたところ、大阪産業技術研究所を紹介いただき、主にデバイスの評価を実施していただけることとなり、手を組んで検討を始めた。また、検討を進める中で、当社は装置メーカーであり塗布材料については専門ではないため、性能の高い塗布材料を開発している機関と手を組む必要が生じ、大阪産業技術研究所に紹介していただいて、非常に高い電子移動度の有機半導体の材料開発されている東京大学の竹谷先生に参画していただけることとなった。2016年にサポイン事業に応募して採択していただいたが、その時点で当社と大阪産業技術研究所と東京大学の3者の共同体で研究をスタートした。
アドバイザーについても、岡山県産業振興財団に幅広く紹介いただき、大阪大学の菅沼先生、RF-IDタグを製造しており実際の出口として想定されるトッパン・フォームズさん、有機半導体を使ったディスプレイや印刷パネルを製造しており本技術が役立てられる可能性のあるJOLEDさんに入っていただいた。
このテーマのために新しくお付き合いされたということですが、新しいメンバーとやるなかで工夫された点はありましたか。
3年間のサポイン事業をやっていくなかで、意識的にコミュニケーションを取りながらやっていた。通常だと年3回程度の推進委員会で関係者が集まることになるが、それ以外にも年数回、3者の中間地点である大阪に集まって、ミーティングを開催し、課題などをすり合わせた。
社内のチームはどのように編成したのでしょうか。
本事業の社内の取りまとめは開発部門で実施していた。開発部門の中では塗布装置の開発と、シミュレーションの両方を行いながら、塗布の最適化を図るという進め方をした。開発部門内は、サポイン事業の前に実施していた岡山県の研究開発補助金の際と同じ体制で進めた。通常の事業活動を進めながら、サポイン事業の研究開発テーマに取り組むのはなかなか難しい面もあるが、無理を言って、必要となるタイミングでは事業部門からも研究開発に参加してもらった。
共同研究を進めるメンバーも固まり、事業化目標が何とか達成できるのではないかという見込みが立ってきていたので、経営層も含めて本テーマの推進に向けた意思統一はできていたと思う。
量産を意識した数値目標を設定
本テーマにおける具体的な数値目標はどのように立てられたのでしょうか。
当社には有機半導体の知見が少ないので、アドバイザーのトッパン・フォームズさんや、共同研究先の東京大学や大阪産業技術研究所の先生方に相談しながら具体的な数値目標を決めた。目標を設定にあたっては、量産を意識して、デバイスに求められるのはどのくらいの性能なのか、大面積で塗布するにはどのくらいの大きさのものが必要であるかなどについてアドバイスいただいた。
塗布装置は、塗布材料に合わせていろいろな条件を最適化して完成させる必要があるので、今回は東京大学さんの塗布材料に対して最適化な塗布条件を求め、塗布性能を上げるということを目指した。塗布材料については、サポイン事業が始まる前から、トッパン・フォームズさんや東京大学の先生方もいろいろな検討を進めてこられており、そのなかのひとつの材料を提供していただいた。それだけでなく今回の研究開発の中でも新しい塗布材料を作っていただいて、それを評価するという形で研究開発を進めた。
現象把握に基づく試行錯誤や日頃の情報収集によって技術的な課題を解決
技術的に特に難しかった点を教えてください。
今回はスリットコート技術を適用するうえで、高精度に塗布が可能な加熱塗布システムを新しく開発した。これは最適な条件下で塗布ができるよう、有機半導体の塗布材料が流れるところをすべて一定の温度を保つというシステムであるが、複数個所を加熱するので温度が不安定になり、その温度によってさまざまな不具合が出てくるので、それらの課題を解決していくというのが大きなテーマだった。
課題解決にあたり、どのような工夫をされたのでしょうか。
できるだけ早く課題をみつけるため、装置のいろいろな箇所をセンシングしたり、塗布する際に高速度カメラを取り付けて塗布している様子を全部リアルタイムで見えるようにして実験を行った。それらをすることによって、どのような条件のときにどのような現象が起きるのか、ある程度はっきりするので、それに対して手を打つというのを繰り返してやっていった。
塗布材料の開発、塗布装置の開発、試作・評価について、共同体の3者がそれぞれテーマをもって進めつつ、推進委員会の時に課題をお互いに持ち寄って、アドバイザーの方を含めて、これはこうしたら良いのではないか、と助言をいただくなどして、検討を深堀しながら課題解決するときもある。自分たちだけで解決できるときは良いが、自分たちだけでは解決できないときは共同研究先やアドバイザーに意見を求める。
また、日頃からいろいろな研究会や展示会、講習会などから、情報を仕入れるようにしている。研究会やコンソーシアムにも参画しており、その活動のなかで課題解決のきっかけになるような内容や、次の取組みに参考になるような内容が手に入ることも結構ある。メンバーに対しても日々課題認識を持つように言っており、彼らも実践してくれているのかなと感じる。
事業化に向けて、先端技術分野の情報収集を実施
事業化に向けてはどのようにお考えでしょうか。
当社は装置メーカーなので、事業化する際の形としては、塗布装置の製造・販売となるが、最終的な出口として、どのようなフレキシブルデバイスの分野を狙うのか、どのような事業を行っている企業と手を組んでやるのか、というところはまだ探索中である。今までの協力先からは、ある程度の受注はあるが、量産機としての受注はまだない。さらに技術を積み上げつつ、今後、フレキシブルデバイスの市場が成熟し、この塗布装置が必要になった際に量産機を販売できるようにしたい。スリットコート技術による有機半導体の塗布装置はまだどこにもないので、そこに優位性がある。特に、本テーマで取り上げた東京大学の塗布材料は、性能として非常に優位性があるので、もう少し性能面をアピールしながら、最適な連携先を探したい。先端の技術分野については、様々な研究会や講演会にも出るなどアンテナを張っており、情報を集めて、次どうするのかを判断したいと考えている。
事業化に向けて、今後どのような支援があれば良いとお考えでしょうか。
事業化に向けた目標はサポイン事業の共同体で決めているが、その目標をクリアしたからといって、すぐに事業化できるとは限らない。実際の市場と自分たちの技術が本当にマッチしているのかは心配な点ではある。我々に不足している情報というのは、マーケティングや市場動向についての精度の高い情報であり、中小企業にとってそれらを取得するのはハードルが高いと感じている。公的な支援をしていただければ、今の目標のままで事業化を目指せるのか、それとも目標を変えたほうが良いのか、もう少し精度よく判断できるようになり、より事業化が近づくのでは、と考えている。
サポイン事業を通して認知度が向上
その他、サポイン事業を実施してよかったなと感じるところがあれば教えてください。
地元の新聞に掲載していただいたとか、それがきっかけでいろいろなところからお話をいただくとか、研究会等で発表する機会が増えて、認知していただけるというのが、サポイン事業に採択されて良かったと思う点である。お声がけいただいた研究会で、有機半導体のテーマで発表したことや、東京大学の先生に依頼されて応用物理学会で当社のメンバーから発表したこともある。
今度サポイン事業にチャレンジしようかなという企業さんに対してアドバイスがあれば教えてください。
それぞれの会社さんで持っている強み、コア技術を極めてほしいと思う。そのためにはまず公的な補助金を使うというのが取り掛かりになると思っている。また、自分たちだけではできない技術開発の場合は、研究共同体を組んで研究開発をすることになるが、共同体のメンバーとの連携というのは密にして、いろいろな情報を集めつつ、最終的にどの分野や市場で事業化を目指すのか、十分なリサーチをしていただきたいなと思う。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 低コスト・高生産性を実現する革新的有機半導体結晶膜塗布装置の開発
- 事業実施年度:
- 平成28年度~平成30年度
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