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役割分担を明確にした研究開発を実施、製品の開発・顧客開拓を並行して実施することで市場投入までの時間軸を短縮

株式会社精工技研 精機事業部 精機開発グループ リーダー  柿沼 憲宏氏(写真左)
         応用成形技術開発主任           尾池 真氏(写真右)

自社技術が持つ価値を活かした市場を選定して研究開発に着手

研究開発を開始したきっかけを教えてください

当社の主力事業の1つであった光ディスク金型に関する事業が、ここ数年は収益が上がりにくくなってきていたため、新たな事業を創出する必要があった。新たな事業を創出する上で製品の研究開発や事業化に際して資金面での援助を受けられる事業を探していた。そういった背景の中で、以前から存在を知ってはいたものの実際に活用したことは無かったサポイン事業の活用へと踏み切った。

新たな事業の対象として医療関係の市場を選んだ理由は何でしょうか

光ディスク製造のコア技術は、厚み0.3mmの薄肉成形やサブミクロンの微細構造を射出成形で成形品に転写する技術があげられる。新事業の立ち上げに際して、そのような「薄肉製品、微細構造製品」という光ディスクの技術的特徴を生かせる製品を模索し、将来的にも国内での製造が残る可能性の高い医療・バイオ製品をターゲットとした。当初の開発製品である微細構造を持つマイクロプレートは、従来では射出成形とは別工法で製造されており生産性に課題があった。そこで、弊社特有の技術により射出成形による生産をする事で、従来工法よりも高い生産性が可能となり課題解決につながると考えた。また、微細構造を持つマイクロプレートを射出成形により量産している事例はなく、技術的特徴を生かし市場参入できるのではないかと考えていた。
当社は医療分野での経験が無く、また事前の調査から医療分野での事業の立ち上げには時間がかかることを掴んではいたが、微細構造を持つマイクロプレートの具体的なイメージが描けていたため、サポイン事業への採択を機に医療分野への進出を決意した。

微細構造を持つ製品と製品を活用した細胞培養効果

目的を達成するため、役割分担を明確にした研究開発体制を構築

研究開発体制はどのように築き上げてきたのでしょうか

サポイン事業の活用が初めてだったこともあり、事業管理機関としての役割を他の機関に依頼できることは知らなかった。そのため、研究開発と事業管理の両方を当社が主導する形で開始した。
研究開発体制に加わる機関には、各機関が担う役割や分担を明確にしたうえで協力を依頼した。医療分野という新たな市場を見据えて自社製品に付加すべき要素を把握し、微細転写・加工技術等の研究を行っている研究室がある東京大学、開発した製品を用いて細胞培養や評価を行うテラ(株)に協力を依頼した。
また、アドバイザーには製品を開発する立場よりも、製品を使う立場に近い方に就いていただいた。当社は製品開発の主体となり、アドバイザーには製品を使う側の視点からの助言を依頼する、といった形でアドバイザーと当社との役割分担を明確にして研究開発を実施した。

多様な知的ネットワークを活用して研究開発上の課題を解決

役割分担を明確にした体制を取りまとめ、研究開発を円滑に進めるために何か工夫をされましたか

サポイン事業期間中に開催する必要があった研究開発推進委員会を当社が主導となって運営した。開催時期をあらかじめ明確に示していたことで、研究開発の進捗のマイルストーンとして意識して活用することができた。これにより研究開発の進捗管理を効果的に行うことができたと思う。

研究開発過程で発生した課題にはどう対処したのでしょうか

研究開発過程で発生する問題に対応するために、アドバイザーに相談先を紹介していただくだけではなく、当社がサポイン事業開始以前から関係を築いている企業にも意見を求めた。研究開発過程で発生する問題を事前に想定して解決策を調べていたものの、想定するにも限界があった。培養容器に細胞が付着しやすくするための容器の表面処理、容器内の細胞を容器の底側から顕微鏡で観察可能にするための容器の光学特性の向上等、実際に製品の開発に着手して初めて明らかになった問題も次々に発生した。
想定外の問題が発生した際に、アドバイザーから紹介いただいた相談先や既存の関係があった企業には、問題の解決へのヒントを教示いただくだけでなく、当社では実施が難しい製品の評価も行っていただいた。外部の知見やネットワークの活用により、製品の開発とテストを同時に進められたのだと思う。

販売代理店を活用し、製品改良と販路開拓を同時並行で実施

製品開発と販路開拓が同時並行した背景を教えてください

サポイン事業を開始してから2年目に開発製品で従来品と同等の細胞培養が可能であることが分かり、とりあえずのサンプルができた。顧客を探すべく、当社と関係のある医療分野の製品を扱っている販売代理店やアドバイザーから紹介いただいた販売代理店に製品サンプルを持って訪問を開始した。
いくつかの販売代理店に製品サンプルの紹介を行ったところ、販売代理店のうち販売のみを行う代理店では、製品と同時に製品の特徴を示すデータを求められた。十分な細胞培養結果や商品の強みを示す根拠となるデータを示さないと、無償サンプルであっても取り扱ってもらえなかった。とりあえずのサンプルができた段階では販売のみを行う代理店に対して販路を求めても厳しい反応だった。
一方で、製品の開発と販売の両方を行う代理店は、とりあえずのサンプルでも興味を持っていただき、サンプルを評価いただいただけではなく、製品に求める改善点の指摘もいただいた。販売代理店からは色々な指摘を受けたが、指摘事項を改良したことで製品の性能を高めることができた。
製品の完成度がある程度高まった3年目に、アジア最大級のバイオ・医療分野関係製品の展示会である「国際バイオテクノロジー展(BIOtech2013)」に出展した。その際に当社の展示物を見に来た顧客や販売代理店との出会いが、さらなる販路を見出す結果へとつながった。
医療分野への進出は初めてではあったが、販売代理店の特性を踏まえて、代理店が持つ機能を活用して製品の改良と販路の開拓を行ったことで、現場のユーザーの声を製品に反映することができた。

射出圧縮成形金型とその成形品

サポイン事業を通じてどのような成果が上がりましたか

当初開発を目指していた微細構造を持つマイクロプレートの派生品である薄肉シャーレについて、月に500~1,000個程度だが定期的に大学や研究機関から発注がある。
また、サポイン事業での研究成果を通じて、当社が精密金型やディスク金型の開発だけでなく、微細転写技術や薄肉成形技術も扱っているということを世間に認知していただくことができたと感じている。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

自社でできることとできないことを、詳しくかつはっきりと見極めるとよいのではないだろうか。自社でできることが詳しく分かれば、その特徴を生かすことができる用途や市場を見つけやすくなる。また、自社でできないことが詳しく分かれば、協力先として適切な他機関を見つけることができる。自社でできることの範囲を詳しく見定めることで、研究開発成果の市場投入までの時間軸を短縮することができる。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
射出成形における、超薄肉、超微細転写技術の開発
事業実施年度:
平成23年度~平成25年度
研究開発の目的:
高精細化が求められる医療・細胞培養の分野のニーズに対し、超精密射出成形技術によりナノレベルの形状を形成し、微細構造が必要な完成品を安価で市場に提供できる製造方法を確立する
事業化の状況:
サポイン事業終了時点では事業化に向けた開発の実施段階
今後は国内の医療関係市場へ参入する準備をさらに進めていく予定である