文字サイズ
標準
色の変更

研究開発好事例を探す

  1. トップ
  2. 研究開発好事例を探す
  3. 産学連携で当初から事業化に向けた出口戦略を計画し、容易に真似されない高付加価値材料の開発を達成

産学連携で当初から事業化に向けた出口戦略を計画し、容易に真似されない高付加価値材料の開発を達成

岩見沢鋳物株式会社 代表取締役社長 白井雅人氏(写真右)
株式会社北海道特殊鋳鋼 営業課長 原宏哉氏(写真左)
室蘭工業大学 大学院工学研究科 教授 清水一道氏(写真中央)

室蘭工業大学との共同研究によりサポイン事業を実施

今回のサポイン事業に応募するまでの経緯を教えてください。

当社は昭和15 年に創業し、長年北海道道内で農機具や排水桝等といった各種鋳鉄品を製造してきたが、近年は海外品との競争もあり、将来を見据えて付加価値の高い「鋳鋼品」も事業メニューに加えたいと考えていた。だが鋳鋼は、鋳鉄に比べて炭素量が少ないため熔解温度が高く、凝固収縮が大きいことから設備も不足し技術的面からも取り扱いが難しい。そうしたことを以前から技術指導を受けるなど交流のあった室蘭工業大学に相談した。
一方、室蘭工業大学は同じく道内のリサイクル企業からの依頼で、ガラス破砕機に使う固定刃の耐摩耗金属材料の研究を行っていたが、それを商品化してくれる企業を模索していた時期だった。
そうしたニーズを大学が取り持ち、岩見沢鋳物とリサイクル企業との合弁企業として、特殊鋳鋼品を主要製品とした北海道特殊鋳鋼を設立した。
道内としては実に何十年ぶりという新たな材料企業が誕生した。
こうして岩見沢鋳物-北海道特殊鋳鋼-室蘭工業大学という研究開発体制の受け皿が整ったが、研究開発資金を当社だけで賄うのは厳しい。そうした時に大学からサポイン事業への応募を勧められトライすることとなった。その際、大学には研究開発の支援だけでなく、事業管理機関としても参画して頂くことなった。

大学としてサポイン事業に参画する意義は?

室蘭工業大学は今までもサポイン事業をはじめ、研究室を持てない中小企業に対し積極的に共同研究を行うなどして協力してきた。地域貢献、産業支援という面もあるが、大学自身も稼ぐことを考えないといけない。また大学の学生・研究者にとっても共同研究は自らの研究テーマとして直結し論文を書き学位を得ることもできる。つまり企業との共同研究はお互いWin-Win の関係にある。
岩見沢鋳物とのサポイン事業もサブリーダーと事業管理機関としての立場で参画した。

ユーザーニーズを見据えて、新たな材料開発に取り組む

研究開発のゴールをどのように設定しましたか。

大型ブロック切断面

従来の耐熱・耐摩耗材では 2~3 ヶ月しかなかった材料寿命を 2~3 倍に延ばし、部品交換頻度を減らすことが出来る材料開発を目指した。そのためには耐熱・耐摩耗性の両面を持った材料の開発に必要となる元素の配合と熱処理条件を確定する必要があった。
また開発した材料をどこで、どのように使うのか、ということも予め考えており、提供先の川下産業も具体的な企業を想定していた。製造現場では設備の保守点検や交換にかける時間をより短くして生産性を高めることに繋がる製品を提供することは顧客ニーズに合致する。サポイン事業の前後から、大学の仲介によって顧客に伺い、新たな材料開発の可能性に関心を持って頂いた。

サポイン事業を実施する中で、ノウハウ蓄積

研究開発の体制、研究開発中の苦労した点について教えてください。

耐熱・耐摩耗性に優れるメゾスコピック多合金の制御技術の確立には複数の元素を添加し温度管理も重要となる。添加材にはクロム炭化物やバナジウム化合物、ニオブ炭化物ほか多くの元素を用いるが、添加していく順番や配合も試行錯誤した。添加の順番を間違えて、現場で大失敗を起こしたこともあったが、大学に相談してすぐに軌道修正したりした。結果的には、そうした失敗を経験してノウハウを身についたともいえる。また大学で成分評価をするための検体も何種類も作り、目標に近づける努力を行った。
その後も製品に近い実機の試作品を製作する段階では、鋳造方案に問題があり、溶湯がうまく流れないという経験もした。そうした時に大学が保有する鋳造シミュレーションソフトを用いて湯流れを確認し、シミュレーション上でも実機上でも成功するのか、検証して頂いた。中小企業ではそうした評価や試験を行うための装置類、器具等について簡単に揃えられないが、大学ではより高度な機器が揃う上、そうした機器に精通した要員が揃っている。
こうして得られたデータを大学側が評価分析を行い、それらの結果を企業の製造技術に落とし込んで製品に具現化することを繰り返し、本事業の目標を達成した。
実際、同事業で得られた研究開発データは膨大なものとなった。

事業化は目の前。質的な目標だけでなく、量的な要求にも対応できる体制づくりを実現

事業化に向けた活動について教えてください。

開発品実用化例

既に試作品を川下産業に試験的に導入してもらい、実機試験中である。また川下産業から量的な要求にも応えられるように同業者間で組合をつくり、本事業で得られた材料組成の情報を共有化できるようにして、生産体制を整えた。よく技術情報の漏洩も心配されるが、経済産業省の営業秘密管理指針に則って守秘義務契約を結び、また社内で知財管理も進めている。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。

まず、経営者自身が新たな領域に取り組む「熱意」と、研究開発をやり遂げ事業化に繋げるという強い「意志」を持つことが重要だろう。そして事業開始前から出口戦略を描くのも必要だ。また中小企業が研究室を持つのは要員面からも設備面からも非常に困難であることから外部の力を活用することは必須であり、大学や公設試の力は非常に有用だ。当社は大学の研究者との出会いによって、技術的な課題解決だけでなく、事業化への有効なアドバイスや仲介も得ることも出来た。
今後サポイン事業を活用する中小企業に対しては、大学等の外部の力を活用できる体制づくりと共に、サポインで得られる資金を基に設備や人に積極投資して新しい取り組みに挑戦して欲しい。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
大型特殊鋳物用メゾスコピック耐熱耐摩耗多合金鋳鉄材料の開発
事業実施年度:
平成27年度~平成29年度
研究開発の目的:
長寿命化に資する技術の向上を高度化目標とし、その実施方法として、耐摩耗性の向上耐熱性及び体焼付き性の向上に沿った高機能化に対応した材料技術開発の実施を目的とする。
事業化の状況:
既に試作品を川下産業に導入し、実環境下での実機試験を行っており、近い将来、事業化に至る見込み。また川下産業の発注要求に対応するため、大学の協力を得て全国に広がる鋳物関連企業のネットワークを構築し、生産体制の構築を準備中。