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ケミカル加工技術のさらなる高度化に挑戦し
ガラス有機ELパネルの湾曲性と信頼性を両立する新技術を開発

株式会社NSC
(左から)
管理部経理グループ 課長 小松 敏 様
事業開発本部プロセス技術部 係長 冨家 夏樹 様
製造本部技術統括部生産技術部 副参事 梅木 岳志 様
監査役 竹内 一馬 様
技師長 田村 達彦 様

ベンチャーマインドが不可能を可能にする

サポイン事業を行うことになったきっかけを教えてください。

当社は液晶パネルのケミカル研磨加工のリーディングカンパニーとして、大判ガラス基板の薄型化量産技術など、独自のケミカル加工技術を持つ。
おもにモバイル向けの液晶パネルを薄くするケミカル研磨加工をメインとするが、近年はハイエンドのスマホやテレビに有機ELパネルが採用されるようになってきたため、液晶だけでなく有機ELについても、先行開発として挑戦しようという機運が高まった。というのも、現在当社は国内の液晶パネルの薄型化加工をほぼ独占している状態にあり、将来的なことを考えると、有機ELパネルの加工にも手を打っておく必要があるからだ。
スマホ・テレビ分野においては後発となるため、参入が難しい。そこで今後伸びていく分野として、車載分野に目を付けた。車載製品は信頼性と供給体制の面で非常に厳しい規格があるため、スマホに採用されているような曲面ディスプレイの搭載はまだ実現していない。かつ、パネルメーカーが開発しはじめたところでもあり、そこには参入の余地があると考えた。
そういった事情から、当社のケミカル加工技術を高度化し、形状自由度の高いガラス基板の超薄型化と封止構造の最適化を行うことを目的に、有機EL開発で先端の技術を持っている山形大学の硯里研究室にご協力いただき、サポイン事業を行うことにした。

開発の目標値は、どのように設定しましたか。

ケミカル加工の高度化装置

まずはどれだけの曲げが必要かを確認するため、事前にパネルメーカーと電装部品メーカーにヒアリングしたところ、想像していたほど大きな曲げを望んでいるわけではないということがわかった。しかし、「この場所に付けるならば」といった具体的な質問を投げかけてみると「その場合なら、このぐらいは欲しい」という答えが返ってきた。つまり、最初の答えは、そもそも曲げられないものという意識から出たと思われる。しかし、そこには潜在的なニーズが隠れているのではないかと考えた。曲面形状が求められる自動車の内装デザインに合うような有機EL曲面ディスプレイができたら、それを発端にニーズやデザインも大きく変わるに違いない。
そこで今回の開発では「曲げられるガラス」を大きくアピールするため、実際はそこまで要求されていないレベルの「曲率半径R100㎜」を目標値として設定することにした。「本当にできるの?」と驚かれるレベルだが、ほどほどの目標値を設定してクリアできても、少し経てば全体の技術革新が進み、さらに上のレベルを要求されて開発することになる。そして、ほどほどを目指す開発は「つまらない」という思いがあった。
曲げられるということは、さらに薄くすることを意味する。厚い紙では無理でも薄い紙なら曲がるのと同じように、これまでの加工精度以上のものを実現しないといけない。薄型化と曲げの限界を見極めるために、専用装置の開発も行ったのだが、これも苦労の末、これまでとは全く違う構造による革新的なものに仕上げることができた。

これまでにないものを生み出すだけでなく、究極のレベルを設定するとは、驚きですね。
技術者の意識が非常に高いという印象を受けました。

確かに技術者たちは、自分たちの技術で誰も見たことのない新しい世界を見たいというベンチャーマインド(挑戦する心)が強い。当然社内全体としても、その思いがあるので、無謀のような究極の挑戦に対しても全面的に応援してくれたと思う。
当社の開発精神を表すものとして、よく使われるのが「ものづくりは人まねをするな」という言葉。例えば、装置は社内で作るのが前提であり、もし他社の機械を導入しても、必ず自分たちでカスタマイズしてレベルアップしてから使う。常にそういった土壌があるため、今回の開発についても、数多くの新しいアイデアが出された。装置開発において3Dプリンターを使って何度も試作し、失敗し、さらに違う方法を試したが、ギリギリまで満足いく結果が出ず、とにかく粘り強さが試される毎日だった。あまりのハードさに、技術者はみんな年末年始の記憶がないほど。無事まとまったときは、メンバー一同、ホッと胸をなでおろした。

常に「できること」を考えて動く

プロジェクトを推進する社内チームは、どのような人選を行いましたか。

社内での中心メンバーは8名。ケミカル加工技術のスペシャリストや設備に詳しい技術者、そして経理関係の責任者など、プロセス・設備・管理の面からメンバーを選んだ。補助金を活用しての開発は、はじめてに近く(過去にはあったが、それを経験している社員がいない)、すべてが分からないことばかり。事業管理機関は他で行う方法もあると聞いたが、人任せにしない社風のため、管理もすべて社内でやろうということになった。ちょうど社内システムが電子化に切り替わるタイミングだったこともあり、そのシステムを活用できたこともうまく働いた。確かに非常に苦労はしたが、この貴重な経験によって、他の補助金事業などでも、うまく進めていける自信ができたと思う。

プロジェクトを推進するにあたって心がけたことはありますか。

ベテラン・若手、上司・部下関係なく、多くの会話をした。新規の仕様のため、思った通りにならないのは当然。しかしその中で「できない」という言葉は、できない理由を並べることになるので、絶対に言ってはならない。これは開発における社内のルールだ。
反対に「できることは何か」という会話は、物事を前に進ませるものである。結果の出ない時ほど、これを意識することが非常に大切だ。
また、サポインは通常業務に加えて行われるものなので、個々の動きが見えづらい。そのため、どちらの業務もうまく両立できるように、経営トップやメンバーの上司である部門長に開発の進度等を伝え、スケジュールの調整をお願いしながら働きやすい環境作りも行った。

開発検証用サンプルを活用して情報公開を急ぐ

サポインを終了しての感想をお聞かせください。

実質2年ちょっとの開発期間のうち、初年度は期間が短く、かつ割り当てられる金額が高く、その後少なくなっていくという仕組み(※当時)だったため、開発および予算の割り振りが難しかった。後半1年ぐらいはとてもタイトなスケジュールになってしまい、メンバーはそれぞれ厳しかったはずだ。そういう意味では開発期間はとても短く感じたが、企業としては逆にこれ以上かけていられないとも思う。
当社は「加工メーカー」のため、直接関わるのは「パネルメーカー」になる。しかしその上には「電装部品メーカー」「自動車メーカー」があり、こういった川下企業にアピールするためには、開発の内容をいち早く認知してもらう必要がある。そこでネックとなったのは開発中の内容については公開してはいけないという原則だ。そのため経済産業局に事前に相談して、ご理解をいただいたうえで、想定顧客にも提示できるサンプルを作ることにした。これはデモサンプルではなく、あくまで要素技術の開発検証用サンプルとして、である。自動車メーカー、電装部品メーカー、パネルメーカーを訪問したが、書面だけでなくサンプルがあったことで、積極的に考えてもらうことができたと思う。また山形大学と連携して展示会出展、学会発表およびWebプレスリリースを積極的に行ったため、多くの問い合わせや試作依頼、相談などが寄せられた。メディアへの露出が増えただけでなく、専門誌から掲載依頼もあったのは非常にうれしいことだった。これからは、事業化に向けて開発試作が動き出す予定だ。有機ELパネルだけでなく、液晶パネルやカバーガラスなど、まずはこれまでの開発を活かせる事業展開から進めていきたい。

ガラス製曲面有機EL実証パネル

サポインについてアドバイスをお願いします。

独自技術へのチャレンジは企業の生命線であり、特に補助金を活用できるのならば、「改善」レベルではなく、思い切って「革新」レベルの開発を行うべきだ。そのために目標値は高く設定し、成し遂げようとするマインドと思い切ったアイデアやプロセスで勝負しよう。
自社だけではできないことも当然あるため、他の知見も借りられるのが、サポインの良いところだ。もちろん大変には違いないが、せっかくのチャンスを大いに活かしてほしい。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
車載・屋外フレキシブル有機ELパネル用大型・高強度ケミカル加工と封止構造の開発
事業実施年度:
平成29年度~令和1年度