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モノづくりのポリシー、「ユーザーの悩み・要望を聞き、ユーザーと共に考える」に沿って、蓄積された技術・ノウハウに基づく材料開発や鋳物技術で貢献

有限会社渡辺鋳造所 代表取締役                 渡辺利隆氏(写真左)
山形県工業技術センター 精密機械金属技術部 主任専門研究員   松木俊朗氏(写真右)

第1回の戦略的基盤技術高度化支援事業で行った材料開発をベースに研究開発を実施

今回のサポイン事業に応募するまでの経緯を教えてください

昭和63年に鋳鉄分野における鉄系鋳造材として、耐摩耗性および強度=肉厚感受性に優れた全パーライト系芋虫状黒鉛鋳材(特許取得品:当社規格FCVP400–FCVP700)を開発した。この成果を滑車に採用したが、ユーザーにおいてコストの3 割方低下に貢献したことから、これ以降、ユーザーからの問い合わせ、要望に関する情報が集まるようになり、ユーザーの悩み・要望を聞き、材料開発や鋳物の分野で対応してきた。なお滑車については、平成23年に東京スカイツリー向け「大型滑車」を4台納入している。
平成16年に地域新生コンソーシアム研究開発事業において、「金型用次世代鋳造材料の開発と応用」、平成18年に戦略的基盤技術高度化支援事業において、「新規鋳造材料を用いた金型技術の高度化」に取り組んだ。この成果は、平成21年に「鋳造できる金型材」で日経BP技術賞機械システム部門を受賞している。
第1回の戦略的基盤技術高度化支援事業で材料開発がある程度できていたことから、今回は、エレベータ用シーブ(綱車)や高張力鋼板(ハイテン材)の曲げ加工に用いるホットプレス用鋳物製金型を実用化対象とした研究開発に取り組んだ。弊社のエレベータシーブは、これまでに国内市場80万台中14万台に使用されてきている。従来は一般的な鋳鉄材料が用いられてきているが、耐摩耗性に問題があり、ビルの高層化、高速化(300m/分)、大容量化(40人)に対応することができない。ワイヤロープの面からは、素線強度(ロープ重量当たりの強度)を上げる取り組みが行われている。

最終製品は、エレベータ用シーブや高張力鋼板の曲げ加工に用いるホットプレス用金型

研究開発のゴールをどのように設定しましたか。

試作エレベータシーブ

マルテンサイト球状黒鉛鋳鉄の硬さに及ぼす化学組成、熱処理の効果を明らかにするとともに付帯技術を確立することとした。エレベータ用シーブや高張力鋼板の曲げ加工に用いるホットプレス用金型の材料として、高い硬さを有する大型の鋳鉄部材が求められている。エレベータのロープは高層階用対応で長くなると自重で切れることを防ぐため、素線強度を高めること、具体的には断面積を小さくする一方で強度は高める方向に向かっているが、ロープと接触するシーブについては既存の鋳鉄材料では軟らかくて持たない。
これらの部材には耐摩耗性が求められ、必要な硬さと確保および硬さのばらつき低減(偏摩耗を防ぐため部位によらず均一な硬さであること等、ユーザーのスペックを満たすことが求められる)が重要であり、金属組織の均質化とともに、硬さを向上させるための技術を開発することが必要である。
ハイテン用ホットプレス金型では、金型内に設けた流路に冷却水を流して温度調節(温調)をする必要があるが、従来の金型では機械加工による直線的な流路しか設けることができないため、温度分布の不均一に起因する割れや欠けが生じやすい。一方、耐摩耗性に優れたマルテンサイト球状黒鉛鋳鉄を金型に適用することができれば、予め曲げ加工を施した三次元的な流路(配管)を「鋳ぐるむ」ことができるため、耐摩耗性の確保並びに精密で効率的な温調が可能となり割れや欠けを防止することができると考えた。

地道な系統的な実験の積み重ねと熱力学計算システムの活用により、発生した問題を解決

研究開発中に発生した問題とその解決方法について教えてください。

鋳鋼(黒鉛なし)のノウハウを鋳鉄(黒鉛あり)にそのままシフトできると想定していたが、材料のサイズや熱処理条件の違いよる硬さには同様の傾向が見いだせず、硬さの調整が難しかった。
鋳鉄(黒鉛あり)を用いて、系統的に熱処理実験をやり直した所、微細な黒鉛が硬さに影響し、熱処理するほど均一になるとの予想と異なり、逆に偏りが強くなる傾向が見られた。
また秋田大学の指導を得ながら、熱力学計算システムを援用して組織の変化を考察することにより、熱処理によるミクロ組織変化を考慮した熱処理条件を設定することができ、鋳鉄でブリネル硬さ300 を越えることができた。熱処理はアイテムが異なった場合には、アイテム毎に、熱処理曲線を作る必要があることを実感した。
当該分野では、意外にわかっていないことが多い。マルテンサイト変態について、鋳物ではあまり研究されてこなかったことも起因していると思う。

ころがり摩耗試験結果①
ころがり摩耗試験結果②

有償試作品をユーザー(顧客)に提供し、評価いただいている段階に進展

事業化に向けた活動について教えてください。

エレベータシーブは、エレベータの国内市場の95%を占める、主要5 企業に働きかけを行い、ユーザー評価されている。ホットプレス用鋳物製金型は、これまでにない金型温調を行うことができ、ユーザーから、生産時間の短縮により、生産性が30%向上したとの評価も受けている。
ホームページを刷新し、広範囲に情報発信をしていく。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。

ユーザーから各県のセンターの状況を聞くと、元々鋳物の産地であったことも起因しているが、山形県工業技術センターは金属分野では、トップの技術者集団である。これまでの経緯もあり、容易に連携を組むことができた。アドバイスを求めることや、ネットワークを活用することなどにより、融合体を形成することで、研究開発のスピードアップ、課題解決ができる。地域の“強い”資源の有効活用はキーポイントとなる。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
鋳鉄の耐摩耗性の向上及び安定化技術の開発
事業実施年度:
平成26年度~平成28年度
研究開発の目的:
エレベータ用シーブ(綱車)や高張力鋼板(ハイテン材)の曲げ加工では、ホットプレス用金型の材料として大型の鋳鉄部材が用いられる。マルテンサイト球状黒鉛鋳鉄の硬さに及ぼす溶湯処理、化学組成、熱処理の効果を明らかにし、実用化する上で必須となる付帯技術を確立する。
事業化の状況:
エレベータ用は早期にサンプルを出荷し、事業終了後3年以内での実用化を目指す。また、事業終了後5年を目処に中国市場への参入も考えている。金型については、ダイカスト用金型等、他の用途への展開も視野に入れ、事業終了後5年以内の実用化を目指す。