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柔軟な発想とアイディアが技術の横展開を可能にする

立山科学グループ 取締役 技術本部長               綿貫 摂氏(写真右上)
立山科学工業株式会社 技術本部                  本田 憲市氏(写真右下)、森 喜代志氏(写真左上)
富山県工業技術センター ものづくり研究開発センター 主任研究員  坂井 雄一氏(写真左下)

サポイン事業の開始前から、研究開発に必要な要素技術や市場とのネットワークを確立

研究開発を開始したきっかけを教えてください

無線ICタグ(RFID)の研究開発を開始したきっかけは8年ほど前にさかのぼる。平成18年当時、富山県工業技術センター(以下、センター)では県内の企業や技術者を対象に「若手研究者育成支援事業」を実施しており、当社の社員が同事業内でICタグに関する研究を行っていた。ちょうど同時期にセンターではICタグの新材料開発を行っていたのだが、当社の研究内容とセンターの新材料を結びつけることで、従来とは全く異なるプロセスによる無線ICタグの実現が可能ではないかと考えたことが開発の最初のきっかけだ。また同じ頃に、当社グループとしては無線ICタグの需要が今後伸びると判断し、製紙機械、航空・宇宙、自動車などの市場での需要やニーズを把握した上で、取組みを推進するためにアクティブ無線ICタグを専門とした事業部を設立した。

サポイン事業の活用は最初から計画されていたのですか

サポイン事業への応募は、当社グループで過去に国の資金を用いた研究開発の経験があった方から紹介いただいた。ただ、サポイン事業が開始したのは平成23年9月のことだが、開始時点で既に基礎研究開発による特許取得は完了しており、事業化、その後の量産化の前段階には漕ぎ着けていた。サポイン事業は、無線ICタグ製品を量産する装置の開発を進める上で、自社が検討していた研究開発のアクセルとして活用した。

開発した無線ICタグの試作品
(左側:UHF[900MHz]帯品、右側: HF[13.56MHz]品)

川下産業はどのようにして絞り込んだのでしょうか

サポイン事業に参画いただいたアドバイザーより「設備投資を行っていない会社が、量産が主流となっている業界に参入しても価格面で太刀打ちできない。開発した無線ICタグの特長を活かせる業界に参入し、販売実績を作ることを優先したほうがよい」と助言をいただいたことによる。このアドバイザーは、当社が無線ICタグを開発するにあたり、市場として考えていた分野で既に接点があった方である。
アドバイザーのアドバイスを踏まえて、まずは紙製の無線ICタグの持つ機能(耐熱)を活かすことができる自動車産業への進出に重きを置いた。改めて振り返ると、サポイン事業の前半期は、無線ICタグを安く生産しようという意識が強過ぎたようにも思う。

開発者が自ら顧客と接点を持ち、ニーズを徹底的に把握し開発へと反映

川下企業のニーズを満たす製品の開発を行う上で、どのような取組みをされたのでしょうか

開発者自身が実際に川下企業に足を運び、現場での製品の使い方や利用者のニーズを把握し、製品開発に反映させた。例えば、ある大手自動車メーカーへの訪問を通じて、『同じ無線ICタグを繰り返し使いたい』という現場のニーズの存在を初めて知り、繰り返し使えるという性質を製品に付与することを検討し始める契機になった。単なるもの作りではなく、ものを使ってもらえるシステム作りは非常に重要である。
また、顧客ニーズを引き出す上では展示会を多く活用した。展示会の場で川下企業の担当者と名刺交換をし、のちにその企業を個別に直接訪問をすることで、市場や現場における要望を攻めの姿勢で伺うように努めた。

研究開発から生じた派生技術を実用化

無線ICタグの開発は順調に進められたのでしょうか

当初、無線ICタグへの需要が増えるだろうと安易な想像をしていたのだが、市場における技術の進歩の速度を見誤っていた。無線ICタグを普及させるとなると、無線ICタグ以外にも利用に際して全体的なシステム導入が必要であり、どうしても時間がかかってしまうことが分かってきた。またBluetoothの新規格の登場などを機に、アクティブ無線ICタグの市場にBluetoothを扱う企業が参入するようになった。一つの技術が進歩しても、その他の技術の進歩が付いてこなければ市場導入は進まない。将来的にシステムや用途がどう変わるか、それらの変化を踏まえてどのようなものを開発するべきか、ということを考える必要がある。

その中で、無線ICタグの開発が新たな製品の開発に派生されたようですね

フレキシブルLED電極シート

「無線ICタグ」の短期的な市場に限界が見えたこともあり、今までの開発の中で培った技術を他製品へと応用する形を模索していた。サポイン事業の申請書には、無線ICタグ開発の派生技術により別の製品が誕生する可能性がある、という旨を申請書に書いていたこともあり、サポイン事業申請時の技術分野(電子部品・デバイスの実装)からは逸脱しないと判断して、他用途展開へと踏み切った。
開発当時はフレキシブルなLEDシートが流行っていたのだが、どうやら当社が進出できそうな市場がそこにはありそうだと展示会の場でアイディアを得て、同じく展示会で「こんな製品ができたら、売れるのではないか」という新製品の着想も得て開発を行った。
派生技術から生み出された「フレキシブルLED電極シート」はサポイン事業の最終年度になってようやく完成した。無線ICタグとフレキシブルLED電極シートで使用する技術はほぼ同じなのだが、フレキシブルLED電極シートへの市場の反響は大きい。
改めて振り返ると、サポイン事業開始時点で市場の全体像やシステムを把握していたら、より効率的に研究開発を進め、より早く市場のニーズに対応できたように思う。

技術の横展開への柔軟な姿勢が新たな製品を生んだということですね

一部のベンチャー企業では、想像を飛ばす遊び心を持って開発に臨んでいると聞いている。現代のように変化が非常に激しい世の中で生き残るうえでは、多角的に製品開発を進めることが重要になると考えている。本来の目的を忘れさえしなければ、そこからやや逸脱した製品の開発を行う、当初想定していたゴールへの到達が難しいと分かったなら、そのゴールに拘るばかりではなく、想像力を働かせて適切な横展開のしかたを考える方が重要ではないだろうか。

制約をかけず発想を飛ばす場を提供

アイディアや発想を飛ばすことも大切になりますね

当社では社員同士の議論を活発に行う土壌がある。例えば技術本部長は、社員の前でキーワードを発するなどして社員同士の議論を促している。同じことをするにしても、皆が一つの意見に同調するのではなく、賛成派と反対派が議論を交わし、議論を通じて答えを決めるのではなく、議論を通じて発想の種を播いていくことが重要だと思う。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

技術や世の中の変化に対応して柔軟に進出する市場を見定めることが大事だと思う。類似技術と比較して、自社技術の優位性や川下企業へもたらすメリットを理解せずに製品を開発しても、売れる製品の開発にはつながらず製品をPRすることもできない。自社技術の持つ優位性やメリットを理解して開発を進めるには、開発者自身が川下企業を実際に訪問し、技術の進化と世の中の進化を体感しながら開発に臨むとよいのではなかろうか。
また、想定外のトラブル無しでは誰でも開発できるような製品しか開発できない。想定外の問題が発生することを見越して余裕を持ったスケジュール立てや予算編成を行い、想定外のトラブルの発生防止ばかりではなく、そのような事態に対処するための事前準備もまた重要である。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
環境に配慮した低コスト無線ICタグの開発
事業実施年度:
平成23年度~平成25年度
研究開発の目的:
低コスト化及び環境負荷の低減のためのシンプルで有害物質を全く使用しない新規製造工程の開発
事業化の状況:
サポイン事業終了時点では事業化に向けた開発の実施段階
今後の課題は、「被覆線を用いたオーバーブリッジ工法の確立」と「最新ベアICチップへの適用の可能性検討」である