文字サイズ
標準
色の変更

研究開発好事例を探す

  1. トップ
  2. 研究開発好事例を探す
  3. 社外関係者との密なコミュニケーションと地道な試行錯誤が顧客を惹きつける高度なものづくり技術に結実

社外関係者との密なコミュニケーションと地道な試行錯誤が顧客を惹きつける高度なものづくり技術に結実

株式会社ブレイド  代表取締役    宮嵜克則氏

顧客の課題解決に向け、自社の得意分野で新たな研究開発テーマを発掘

研究開発を開始したきっかけを教えてください

以前、当社と付き合いのあった自動車メーカーにおいて、外形的な判断が難しいスピンカシメの不具合が大きな問題となったことがあった。その話を聞いて、製造工程で使用されるモーターの電流を計測することで、不具合の発生を検知できるのではないかとヒントを得た。試しに実験してみたところ、どうやらスピンカシメの歪みが見えそうだということがわかった。
当社ではこれまでにも製造現場の様々な装置からデータを取ってものづくり技術の改善に活用してきたが、モーター電流と向き合ったのはこの時が初めてだった。応用範囲の広さと市場の大きさから、当社の将来を決するテーマだと位置づけた。

サポイン事業に応募したきっかけを教えてください。

その後、別事業で三重県産業支援センターと連携して研究開発を進めていたのだが、その中でモーター電流について様々な話をしていた際に、サポイン事業への採択可能性をアドバイスをいただいた。実はその時までサポイン事業のことは知らなかったのだが、センターの方に事業管理機関になってもらい応募したところ、採択いただいた。アドバイザーに入って頂いた石田宗秋先生とも、サポイン事業がきっかけで知り合うことができ、貴重な助言をいただくことにつながった。

ProcessDataの高い重要性

多様な関係者の意見を柔軟に取り入れ、独自のスタイルで研究開発を推進

研究開発を実施する中で、特にどのような点で苦労されましたか

当社の研究開発は、理論が先にあってそれを開発に落とし込んでいくというスタイル(リニアモデル)ではなく、現象をコンピューターで解析し、そのデータを読み解きながら何が起こっているのかを突き止めていくというスタイルである。モーター電流からデータを取ってみても、それだけでは様々な数値が何を意味しているのかなかなかわからない。
データから見えてくることを、現実の現象に結びつけるために仮説を立てていろいろな実験を繰り返し、社内のいろいろな人とコミュニケーションを取りながら頭を使ってようやくわかってくるようになるのだが、取得したデータの解釈が最も困難な点であった。

研究開発がうまくいったきっかけがあれば教えて下さい

中間評価の前頃、自動車メーカーの生産技術系の人と今回の研究開発に関する話をしていた中で、スピンカシメだけではなく熱カシメについても同様に、製造プロセスで生み出されるデータからなにかわかるのではないかというヒントをいただいた。そこで熱カシメのプロセスデータを取得してみたところ、制御プログラムの動きが明瞭に現れていることが判明した。
これをヒントに、これまで取っていたモーター電流データの1個1個全てに意味があるのだということに思い至った。これまでは移動平均を取るなど、必ずしも1個1個のデータを大事にしていなかったのだが、その時に1個1個のデータを大事にするという方針が決まった。この気づきが今回の研究開発が上手く行くきっかけとなった。
そもそもモーター電流を研究テーマとした背景には、データが大量に取れるからという理由があった。データ量が充実していると、取得した生データに多少ノイズが入っていたとしても、その影響をうまく消しこむことができるというメリットがある。

データを重視するという御社独自の研究開発スタイルはどのようにして確立されたのでしょうか

当社は製造現場をターゲットに、効率的に良い製品を作るための武器となるシステムを開発することを目標としている。そのためにはいかにして品質を上げるかが問題になるのだが、ほとんどの製造現場ではハードウェアの面での設備投資が先行しており、製品の品質を本質的に左右するソフトウェア面での投資があまり行われていない。その結果、製造工程で発生する大量のデータは、全く利用されないままに捨てられているのが現状である。
自分を含め当社の社員は、2008年の当社創設以前から計測機能を持つNC加工機を開発し、独自の路線で自動車産業におけるものづくり技術の向上に貢献してきた。その流れを受けて当社では「加工過程の見える化」を標榜し、計測・制御技術を取り入れた機器を開発してきた。当社の開発する装置は独自性が強く、競合はほぼ存在しないと考えている。
このような取り組みは顧客からも評価され、自動車関係の大手メーカーからも名指しに近い形で仕事の依頼を頂いている。

重点顧客での実績づくりと、他分野への応用の二方面から事業化を推進

研究開発成果の事業化に向けて、どのようなアプローチをとっておられますか

事業化に向け、①重点顧客に向けて高度な製品を開発するというアプローチと、②多様な業界で利用可能な標準ユニットを開発するというアプローチの2方向から取り組んでいる。
①のアプローチでは、これまでにも取引のある自動車関係の大手メーカーと協力し、生産現場で当社の技術を使ったスピンカシメの検査装置を評価していただいている。当社はもともと自動車産業のメーカーを主要顧客としているが、自動車産業は特に要求水準の高い業界であることから、①のアプローチの成果として当社製品を採用してもらうことができれば、他の業界にも実績としてアピールしていくことができる。
②のアプローチでは、自動車産業での実績を武器として、製造現場をターゲットにモーターを活用した加工機械への計測装置の組み込みを狙っている。モーターはあらゆる業界の製造現場で数多く利用されているため、その応用範囲は非常に広範である。すでに三重工業研究所および豊橋技科大学と連携して、今回の技術が金属の摩擦攪拌接合にも応用可能であることを確かめている。
また、ドリルユニットに計測装置を組み込んでおき、動作不良や故障の前兆が検出できるような応用なども想定される。

加工過程の見える化

他業界への展開に向けた検討はどのように行っているのでしょうか

三重県産業支援センターの中で企業連合を組んでおり、その中でどのような業界に展開できそうか検討を進めている。参加している企業はそれぞれに顧客を持っているが、その中には自分(宮嵜氏)が今まで接点がなかった分野も多い。中でも農業分野は有力な候補だと考えている。例えばみかんなどの農作物の品質向上に向けて、モーターを使った検査装置の改良を進めていきたい。
また、展示会でのアピールも重要な手段だろう。ある展示会では、医師から「この技術は、手術用器具が手術中に壊れないように、使用前に状態を確認できる装置として応用できないか」といったヒントもいただいた。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

考えていることを具現化するためにサポイン事業のような研究開発支援は非常にありがたかった。特に、市場ニーズに鑑み必要だと考える装置を発想豊かに作ることができ、それを手元に置いて研究開発を進められたことが良かった。また、普段は客先で問題の起こった場合は量産ラインを止めてもらってからデータを取っていることもあり、客先の稼働に左右されることも多い。サポイン事業は、当社と同じように、自分のペースで研究開発を進めたいという企業にはぜひ活用していただきたいと思う。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
スピンカシメ加工でのインプロセス全数保証システムの開発
事業実施年度:
平成25年度~平成27年度
研究開発の目的:
工具回転モーターの電流波形が負荷量で変化することを利用して、加工経過を詳細高速に掴み、現状工程では成し得ていないインプロセス全数品質保証、及び最適な加工条件を検証する
事業化の状況:
川下ユーザ要求に対してデモ機によるPRを実施し、採用に向けての確認を受けた