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高い技術力と綿密な事業計画の両方をもって臨むことで成果が創出される

松江エルメック株式会社技術担当取締役 開発グループ マネージャー  亀谷 雅明氏

今後日本における市場の拡大を見込み、研究開発をスタート

研究開発のきっかけを教えてください

近年、10Gビット/秒超の高速伝送は加速的に普及している一方、10Gビット/秒超の光-電気変換回路において、コモンモードノイズの発生に起因する他装置や自身の回路の誤動作、さらには信号の振幅減衰による伝送距離短縮が懸念されている。
米国では放射ノイズの規制が進んでいるものの、日本では関連メーカーの力が強いこともあり、現在は厳しい規制にまでは至っていない。今後規制が進むことを想定し、放射ノイズを未然に防止するコモンモードフィルタの市場は拡大が期待される領域と考えた。

今回のサポイン事業への応募にはどのような経緯があったのでしょうか

亀谷氏

まず、平成21年度ものづくり補助金(ものづくり中小企業製品開発等支援補助金)を活用して、10Gビット/秒までの研究開発をスタートした。その段階ではまだ10Gビット/秒を超える製品に対して漠然とした考えしか持っていなかったが、島根県産業技術センター所長からの紹介で、サポイン事業のことを知った。非常に魅力的な制度で、10Gビット/秒を超える製品開発には最適に思えた。さらに島根県産業技術センターからも支援をいただけたので、サポイン事業に応募することにした。

高度な技術を要する、他社が真似できないニッチ市場がターゲット

研究開発の目標はどのように選定されたのでしょうか

当該フィルタには、光-電気変換回路における放射ノイズを未然に防止するという明確な目的がある。
当初はまず10Gビット/秒の試作品(平成21年度ものづくり補助金で達成)を持って客先に打診したところ、将来必ず必要になるとの声が多く、この技術へのニーズが高いことを確信した。平成21年度に総務省が電気インターフェースの伝送速度を28Gビット/秒に向上することを発表したこともあり、サポイン事業では28Gビット/秒対応のフィルタの開発を目標とした。

目標設定の際、競合他社についてどの程度意識されていましたか

一般にコモディティ製品の利益率は数%に過ぎず、いずれ価格勝負に陥ることが多いため、競合他社とコモディティ製品という土俵で戦うことは避けたいと考えていた。大手企業が魅力に感じない、かつ他社には真似のできない、高度な技術を要するニッチな市場を狙うという当社の明確な方針でもある。
10Gビット/秒の試作に成功した時には、当社の従来製品に比べ1ケタ、もしくは2ケタ大きな市場が拓けるものという期待は大きかった。一方で、うまくいけば独占できるが、10Gビット/秒は他社でも当社の特許技術を使わずに達成できるのではないかという危惧もあったため、あえてさらに高速伝送の28Gビット/秒を目標に掲げた。

過去の不採択の経験から、計画・体制を見直して下準備を行う

サポイン事業開始前に、どの程度研究開発に関わる下準備をされていたのでしょうか

過去にサポイン事業に申請するも、不採択となったことがあった。しかしながら、不採択になったことをきっかけに再度事業計画や体制面の見直しを行い、複雑であった計画をシンプルにした。(公財)しまね産業振興財団や中小企業基盤整備機構のコンサルタントの方が親身になってアドバイスをしていただき、計画をじっくり練り直した。
今回のサポイン事業で採択されるまでに、過去のサポイン事業申請時に認定された中小ものづくり高度化法に基づく法認定計画に従い、資金がなくても準備を進められるところは自社内で進めていた。
体制についても、研究の根幹である設計部分については人を増やせば進むというものでもなく、今回は一人の設計者でやり切る方がスムーズに行くと考え、プロジェクトリーダーである自分が責任を持って一人で行うようにした。

以前に不採択になったことで計画や体制を見直されていますが、結果的にはそれがプラスに働いたのでしょうか

法認定を受けると同時に進められる分は進め、事前解析・分析はすでに行っていたため、少なくともイコライザは開発できる見通しは立っていた。また、設計、試作から評価までの役割分担が研究共同体内でうまく行っていたことからチームとして機能しており、かつ少数精鋭で進めることができたことは有効であっただろう。
今振り返ると、不採択になった経験から一度計画を練り直したことで、今回のサポイン事業に採択されるとともに成果も出すことができた。不採択となった計画ではこのような成果を出せなかった可能性もあり、結果としてプラスに働いたと考えている。

綿密に下準備をされていたようにお見受けしますが、研究開発中に発生した問題は想定されていたのでしょうか

差動信号場ランサー/コモンモードノイズアブソーバー 外観

研究開発の進捗の遅れや変更はつきものだが、当初想定していない問題が発生した。例えば、電波暗室内での放射ノイズ測定が困難であったこと等である。
しかし、費用と時間をかけて100%実測による結果を得るよりも、その結果の有用性から判断すればシミュレーションで充分と考えて良いケースもある。
そのようなケースでは、100%実測評価にこだわらず、実測可能な範囲までを実測し、残りの特性はその実測結果を反映させたシミュレーションで代用した。

しっかりと計画を立てて準備をされていたからこそ、不測の問題が発生しても冷静に対処できたのではないだろうかと推察致します

サポイン事業活用による研究開発への影響

最後に、サポイン事業を活用されたことにより、今回の研究開発にどのような影響があったかお聞かせいただけますでしょうか

中小企業では買うことのできない、高価な測定機を購入・利用して、研究開発の実施をすることができた。
購入後、実際に測定系を組むことが非常に大変であったが、島根県産業技術センターに協力頂き、測定系を組むことができた。センターの協力なしには実現し得なかったと感謝している。また、事業期間終了後も研究を継続していれば、機器を無償貸し出ししていただけることもありがたい。
更に、サポイン事業による支援を受ける以前と比較して、展示会等の研究開発の成果を対外的に発表する機会が多くなった。その際にも、サポイン事業に採択されたことで、国のお墨付きをもらったようなものとなり、非常に注目度が上がったように感じる。中小機構からも販路開拓の支援事業に声をかけていただいた。今後は、ウェブ掲載、新規販路開拓による顧客訪問等を通じてPRを行い、市場・顧客開拓を進めていく予定である。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
28Gビット/s電気伝送における放射ノイズ防止と伝送距離延長を同時に実現する振幅補正機能付きコモンモードフィルタの開発
事業実施年度:
平成23年度~平成24年度
研究開発の目的:
28Gビット/sの高速伝送において放射ノイズを未然に防止し、内蔵のイコライザで振幅差補正も行うことにより、伝送距離延長を実現するコモンモードフィルタの開発
事業化の状況:
サポイン事業終了時点では実用化間近の状況
今後は量産に向けて焼成条件を最適化し、実機での動作や有効に機能することを確認する予定