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将来的に発生しうる研究開発上の課題を事前に予測、綿密な準備とともに研究開発を実施する

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 教授   宮下 和士氏(写真中央)
一般財団法人 函館国際水産・海洋都市推進機構      伊藤 晶氏(写真右)、五十嵐 正純氏(写真左)

既存製品の課題を踏まえて、助走をつけてからサポイン事業の研究開発を開始

研究開発を開始したきっかけを教えてください

欧米では生物にデータロガーを付ける取組みが盛んであり、装置の開発が国家的に行われている。結果、データロガーの価格がコントロールされてしまい、日本で入手する際にはどうしても高額になっていた。また技術面では、今後の研究に必要な機能の搭載にはなかなか手が届いていない状況であった。
データロガーの既存マーケットは規模そのものが小さく、大手企業の参入は見込みにくい。海洋生物の計測や、水産資源として持続的に利用するための動態研究は従前から行っていたが、更なる水産資源の効率的利用へと繋げるには価格面、技術面の課題を解決したデータロガーを普及させる必要があると考え、大量かつ安価なデータロガーの作成とともに、音響通信を使用した深海での情報共有という欧米でも確立されていない技術の開発に挑むことにした。

挑戦的なテーマに取組むにあたって、何らかの形で事前準備をされたのでしょうか

サポイン事業への採択を確実なものにするには、ある程度の事前投資を通じて研究を先に進めておく必要があると考えていた。研究開発の助走をつけるため、サポイン事業申請前の平成22年度に函館市の補助金制度を活用した研究開発を行い、既存のデータロガーの構造や今後必要とされる機能の検討を行うことで、実用化に向けた準備を進めた。

本サポイン事業の概要

本データロガーの開発は利用シーン拡大につながりますね

データロガーは生物以外にも利用ができることからいろいろな形での展開が可能であり、マーケットの国際的なポテンシャルは高い。
国内市場はさほど大きくはないのだが、今回の開発を通じて安価かつ多機能なロガーを普及することにより、データロガーの市場規模は一桁大きくできる可能性がある。本研究開発は、開発途上国などへの海外展開も視野に入れて実施した。(以上、宮下教授)

利用環境の違いから発生する課題を事前に予測

研究開発のスタート段階ではどのような点に注意して進めていかれましたか

開発したデータロガーは水中で使用する。水中には圧力がかかることから、陸上用のものよりもはるかに強固な筐体が必要となる。また、大前提として陸上でできる通信をそのまま水中で行うことはできない。また、淡水と海水では通信の届きやすさが全く異なってしまう。本サポイン事業では、(有)グーテックや(株)日本アレフ等とともに研究開発を行ったが、双方が保有する通信に関する知見のほとんどは陸上を利用環境とするものであった。
水中と陸上とでは通信の特性が異なることを考えると、水中と陸上とで生じる差異を踏まえた研究開発が肝になると考え、実際の研究開発を通じて陸上と水中との違いを理解しながら開発が進められるように配慮した。一方で、通信以外の部分については量産化を想定して先に作りこんでいくこととした。

具体的に水中と陸上との違いをどのようにして埋めたのでしょうか

サポイン事業の研究開発を始める前から、陸上と水中という環境の違いは大きな壁になるのではないかと考えていた。そのため、水中での音響を使っていたとある企業に外部アドバイザーとして入っていただき、その企業の持つシーズを活用できるように整え、開発で生じる壁をクリアした。(以上、宮下教授)

市場から認められる性能を満たした製品を世に出すことを重視

研究開発を進める中で、どこをゴールとして設定されていたのでしょうか

製品として成立するデバイスを作ることを最大の目的としていた。高度な技術の突き詰めや最適化は、世に出せる製品として一旦成立した後に行うほうがよいと考えていた。
開発した製品が世の中に貢献するには、実際に使われなければ話にならない。よって、技術を突き詰めることも大切ではあるが、今の社会に求められるような形で開発を実施することが非常に重要ではないだろうか。昨今は、技術の精度を追求するあまりに、技術がシステムとして社会に実装されにくいようにも感じている。個人的には、サポイン事業のような研究開発に携わるのであれば、持続的な産業育成や資源保全など社会に貢献できる形として、技術が実装されているかという点まで追求したいという想いを持っている。(以上、宮下教授)

共通の目的を強く意識して研究開発の進捗を管理

利用環境の違いという高い壁を越える上で、研究開発の進捗管理はどのようにして進めてこられたのでしょうか

研究開発の進捗は時として遅れることがある。この点については、事業管理機関が研究開発の進捗管理に強く力を入れることで、技術的に行き詰まっている時期であっても、「この期限までにこれを完成させてほしい」といったことを共同研究先の技術者に伝えるように徹底した。
サポイン事業の実施初年度は進捗の確認体制を上手く回すことができず、試行錯誤の繰り返しだった。書類提出が期限間近になることも多く、内容の間違いも複数発生していた。
初年度の反省を踏まえて2年目以降は、共同研究機関にも様々な事情があることは承知してはいたが、定期的に進捗確認ができるような報告の場を設け、繰り返し期限についてチェックを行う体制を整備した。
研究開発を通じて共通の目的を達成しようとするのであれば、たとえ何らかの抵抗感があったとしても「やり切る」ことが結果的には目標達成につながるように思われる。特に、サポイン事業のように複数の事業者が関わる場では、ある事業者の進捗の遅れが全体に影響を及ぼすことが想定されるので、チーム全体としての管理が大変重要になるだろう。(以上、推進機構担当者)

開発されたデータロガー
データロガーを装着したサケ

特にサポイン事業のような形の研究開発は、事業を先導するリーダーの存在や強固な体制構築が必要ですね

リーダーはプロジェクトの主旨を理解したうえで、ゴールに対して明確なビジョンを持つ必要がある。また、ゴールに対して最も近い道筋を立てて、リーダー自身だけではなくチーム全体を巻き込んで実行することが求められるのではないだろうか。
チーム形成に関しては、研究開発の目的が定まった時点で、目的に応じた最適なメンバーを集めることで組むことが重要だと考えている。例えば、気の知れた同業者同士で実施すると、過去の付き合いや今後の関係もあることから、お互いがお互いに妥協することや甘くなってしまうこともある。結果的に、目標を達成することができない可能性が高くなってしまうようにも思う。(以上、宮下教授)

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

「サポイン事業への参加メンバーの立場は、全員が対等である」という認識を持ち、研究開発の最終的なゴールを共有して進めることが重要だと思う。
例えば大学教員をメンバーとして加えたケースを考えると、大学教員は専門的な知見は豊富なのかもしれないが、事業化の視点はその限りではないこともあるだろう。ある立場からの意見に沿って研究開発を進めることが、そのままゴールにたどり着くわけではない。
目的達成のためにメンバーそれぞれがお互いの無いところを埋めることができる、それぞれに一目置かれる何かを持っているようなメンバーと組むことによって、ゴールに向かって対等かつ意義がある議論ができるのではないだろうか。(以上、宮下教授)

サポイン技術情報
プロジェクト名:
漸深層で使用可能な同期機能実装型バイオロギングデバイスの開発
事業実施年度:
平成23年度~平成25年度
研究開発の目的:
カスタマイズ性、データ回収率を飛躍的に向上させたデータロガーの製品化を実現する
サポイン事業終了時点で事業化に向けた開発の実施段階
事業化の状況:
今後はさらなる低コスト化・安定性を増したデータロガーの開発を目指すとともに、同期通
信システムの性能をさらに高めるための研究開発を継続する予定である