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強度・難燃性の高いMg合金溶加材の開発と
AI制御による溶接技術の向上で
安全基準の厳しい輸送機器の軽量化に挑戦

(左から)
株式会社ノチダ 三輪容照取締役部長
株式会社ノチダ 竹橋秀樹室長
木ノ本伸線株式会社 北江元則課長

新素材・新難燃性Mg合金溶加材および溶接技術が開く軽量化の扉

今回の研究開発が始まった背景を教えてください。

当社(株式会社ノチダ)は、鉄・アルミ・ステンレスなどを扱う金属部品加工メーカーである。「超多品種・変量・短納期生産」を掲げ、輸送機器・産業用運搬機・住宅設備機器など、あらゆる分野のニッチな注文にも細やかに応えることを自社の強みとして成長してきた。
今回のサポインで取り組んだテーマは、世界的にCO2排出量削減が求められる中、常に求められてきた「車両重量の軽量化」についてである。実は10年前から、実用金属の中で最も軽いMgの将来性に注目し、自社でプレス加工やパイプ曲げ加工の開発に取り組んできたが新たな知見を得るまでには至らなかったという経緯がある。
そこで、ものづくり中小企業・小規模事業者連携支援事業助成金を活用し、Mgの素材開発で幅広い知見を持つ木ノ本伸線株式会社とともに、高速鉄道車両用の腰掛フレームの開発を行った。高速鉄道車両に注目したのは、輸送機器の高速化・省エネルギー化に伴い、車両の軽量化が必須だからである。
この時は、腰掛フレームの土台部分にMg合金を使用したが、苦労の末に形にはできたものの、強度不足で実用レベルではなかった。そのため、再び木ノ本伸線株式会社とタッグを組み、サポインを活用して、研究開発を継続、実用化を目指すことにしたのである。

研究開発の背景

ものづくり中小企業・小規模事業者連携支援事業助成金での研究開発で、新たな課題を得たのですね。

そこで得た課題は、強度不足の原因となっていた継手の強度を上げるための溶加材の開発や、バラツキを起こさない安定した加工方法、さらに新たな検査技術の確立である。これらの課題をクリアするため、総括研究代表者(PL)である木ノ本伸線株式会社は溶加材の強度を上げ、コストダウンできる方法を見出すこと、そして副総括研究代表者(SL)である当社は溶接技術の確立を担当した。社内では、3名を開発担当とし、溶接の得意なベテラン技術者も配置した。ものづくり中小企業・小規模事業者連携支援事業助成金でも共に研究開発を行ってきたため、やりとりは非常にスムーズであったと思う。

厳しく設定した合格基準がクリアできず苦労

3年間の研究開発期間をどのように進めてきたのか具体的に教えてください。

採択決定時には初年度の半年が過ぎていたため、残りの半年は、準備の期間であった。溶接ロボットを設置したり、画像データを収集できる設備を整えたりすることで初年度はあっけなく終了。実際に研究開発に着手したのは2年目で、溶接の適正状況を確認し要件を見出すことからスタートした。アドバイザーの大阪大学中田名誉教授の助言をいただき、ジョイントや筐体など部品ごと単体でデータをとり、適正範囲をそれぞれ見出すことができた。

新難燃性Mg合金製腰掛フレームの構成部品(左から脚台・台枠・背ずり・座面)

川下企業である腰掛メーカーに「最も強度が必要なのは脚台の部分だから、最初はここだけMg合金で作ってはどうか」とアドバイスをいただき、脚台のみMg合金で製作し、その他は既存のアルミ部品を流用することに決めた。当然、試作に入る前にはCAE解析を行い、どこを補強すべきかシミュレーションして、計算上ではクリアできるはずだったが、実際には、予想外の亀裂が発生し、合格基準をクリアできない状態が続き、とても焦っていた。

ボス部4箇所の亀裂
ボス部亀裂の拡大

アルミニウムは衝撃を吸収するが、Mgは固いので、脚台全体としてはアンバランスな状態となる。弱いところを強くすると、他がそれに耐えられず強度を保てなくなってしまうため、強弱のバランスが重要なのだ。その点は、溶接技術と設計でカバーするしかないと考えた。
しかし頼みの綱の溶接も非常に難しい挑戦となった。Mgの融点はアルミと近いので、まずは条件を同じにしてみたが、沸点はMgの方が低いためアルミと同様に温度を上げて作業することができない。しかも表面張力が小さいので溶け落ちてしまい、思った以上に溶接作業するのが難しかった。試行錯誤の末、4回目の挑戦でようやくクリアすることができた。その後も悪戦苦闘の末に、脚台以外の台枠、座面、背ずりもMg合金製で合格基準をクリアするまでに至った。

脚台制作状況
台枠制作状況

サポイン挑戦は社内の意識改革につながった

サポインを活用して良かったと感じたことはありましたか。

社内でも通常業務で溶接加工を行っているが、サポインでMg合金の溶接に挑戦するようになってから、技術者の腕が驚くほどあがってきたのはうれしい発見だった。
さらに研究開発を進めるうちに、既存業務に対しても、これでよいのかという疑問が起きてきた。もっと素材や方法など突き詰めていくことができるのではないか、また、会社の姿勢としても現状に甘えず、もっと素材に対する知識を高め、技術力を突き詰めていくべきなのではないかと考えるようになった。これは、サポインがもたらした大きな意識改革である。
産学官連携で進めるプロジェクトでは、それぞれ与えられた課題をスケジュール通りに進められているか、また新たな課題が見つかればそれを共有して解決していくことが必要である。そのため、月に1度は会議を行い、こまめに進捗状況の確認をしていた。スケジュールが遅れた場合は必死に取り組んだ。開発は地道な作業の連続であり、検証と記録、改善の繰り返しで苦しいことばかりだったが、今から考えれば、多くの企業から数々の貴重な情報を得られたというのは、サポインならではの利点であったと思う。

研究開発員やアドバイザーとの協議

この成果を今後どのように活かしていく予定ですか。

新難燃性マグネシウム合金腰掛フレーム

パイプや板などの鋼材品だけでなく、今後は鋳造品なども含めたオールMg合金製腰掛フレームの製作に挑戦していきたい。安全基準が非常に厳しい高速鉄道車両で、Mg合金を使用した腰掛フレームが完成したことは非常に意義のあることだが、現時点では完成しただけに過ぎず、それだけで企業が採用してくれるようになるわけではない。この技術を活かした小さな製品の開発で導入実績を作っていき、最終的には、当社が開発した腰掛フレームが採用されることが理想である。
軽量化については各分野でニーズの高さを感じている。様々な業界からMg合金を使った部品の相談があるが、実績のなさがネックとなって導入には至らないケースが多い。まずは高速鉄道車両ほど安全基準がシビアではないもの、例えばイベント会場で大量に使われる手押し台車や長机の脚、パイプ椅子などから、暮らしの中にあるものについてMg合金に置き換えられるものはないかを考えながら、実用のための新製品を開発していこうと思う。
そのために、補完研究として、これからも継続していく。材料の違う組み合わせなど、異なる視点からアプローチしながら前進していかなくてはと思う。必要な設備は揃っているので、継続させていきたい。

実施企業・事業管理機関からのアドバイス

サポインを終えて、みなさまの感想とアドバイスをお願いします。

【吉光輝元社長】
私自身はサポインメンバーには入らず、開発の様子を見守っていたが、サポインの前と後では、メンバーそれぞれの表情が違うと感じた。Mg合金に限らず、鉄やアルミの溶接といったこれまでの仕事に対しても厳しさを持って取り組むようになり、全体として士気も高まってきたと感じている。研究開発の成果だけでなく、本業にもその知見を活かすことができたことが何より良い経験だったと思う。

【三輪容照取締役部長】 
Mg合金の溶接にしっかり取り組んだことは、会社の将来のためにも非常に良かった。また、多くの方々と引き続き付き合える良い関係を構築できたことは、今後にも生きてくる出来事だと思う。一方で、サポインは管理が非常に大事だと感じた。どうしても研究開発のほうに目が向きがちだが、実は事務方が縁の下の力持ちとなって援護する体制ができていないと、うまくいかない。また、事業管理機関の選択も重要。国費を使わせていただいて行う研究開発なので、それ相応の成果や書類の提出が必要だと最初から覚悟していないと、非常に辛いものになるだろう。

【竹橋秀樹室長】
担当者の苦労を間近で見ていたので、最後までたどりつけないのではないかとハラハラした時期もあったが、期日までに必ず成果を出さなくてはならない状況だったからこそ、突破できたのだろうと思う。自社で開発を進めていた頃は、開発資金が乏しい中で高価なMg合金を使い続けることができなかったが、サポインでは必要なところにきちんとお金をかけることができた。ここまで突き詰めて研究開発することがなかったので、その点でもとてもありがたく、貴重な体験だった。

【北江元則課長(木ノ本伸線株式会社)】 
当社(木ノ本伸線株式会社)でも2007年よりサポインを活用しMg合金の研究開発に取り組んでおり、サポイン前後では、大きな意識改革があった。サポインメンバーは周囲から奇異の目で見られながらスタートしたが、47工程あったところを2工程に激減するなど大幅なコストダウンと品質向上が評価され、遠巻きに見ていた社員たちも徐々に感化されていき、仕事に取り組む姿勢も変わってきたのだ。せっかく士気があがったので、今後は後継者を育成していきたいと考えている。
業界的にもMg合金は未知の世界のため、当社(木ノ本伸線株式会社)も所属する日本マグネシウム協会と協力しながら、多くの企業に対して実際に触ってもらう機会を設け、溶接技術のセミナーなどと並行しながら、サポインで得られたMg合金の魅力をアピールしていく予定だ。

【谷口裕一様(大阪科学技術センター)】 
4つの企業・団体で行う事業なので、それぞれの成り立ちの違いから、意思疎通の難しさを感じた部分もあっただろうが、違いから得るものもあったと思う。研究開発や経費の書類については、経験を重ねるうちに良くなっていった。今はレベルがかなり上がっていると感じる。サポインは先が長いので大変だが、こういった経験の積み重ねによってPDCAを効率よく回せるようになり、必ずレベルアップにつながる。採択されるまでにも厳しくチェックされるが、様々な部分の強化ができる。事業化だけの話にとどまらず、企業体質も変えてくれるので、ぜひ挑戦してほしい。