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「ブランド技術」の構築に向け独自のコア技術となる溶接工法技術を開発し、新たな付加価値を顧客に提供

(前列左から)髙橋金属株式会社 西村様、北村様
(後列左から)滋賀県産業支援プラザ 舩越様、篠原様
          滋賀県工業技術総合センター 今道様
          滋賀県東北部工業技術センター 安田様

「ブランド技術」を構築し、価値創造することを重視

企業としての技術開発に対する理念を教えてください。

当社は金属塑性加工技術を基盤として、大手メーカー向けの各種精密機械部品の製造からユニット組立品、組立完成品の製造へと業務を拡大しており、組立まで一貫生産していることと多業種への対応が可能であることが強みである。また、市場創造型企業への転換を目指して、約20年前に独自の電解イオン水脱脂洗浄機の事業化に成功し、現在、国内および海外で事業を展開している。将来を見据えて、加工・組立といったモノづくりをしっかりやりつつも、独自の高度コア技術の展開をはかって部材加工をしていくことで、グローバルな事業創造を目指すことが、当社の方針となっている。国等の研究開発支援補助制度の活用については、高度コア技術を開発し、要素技術のなかで「ブランド技術」を構築したい、という狙いで進めている。

事業の中でサポイン事業はどのような位置づけでしょうか。

当社では受託加工を行っているが、お客さんである川下産業から言われた通りの方法・納期に収めるのではなく、川下企業から図面をいただいてから、このようにできるのではないか、と提案し、採用してもらうスタイルで実施している。その際に独自の高度コア技術を持っていないと、付加価値をつけてお客さんに提案することができないので、「ブランド技術」を構築することを重要視している。
このような当社の方針と企業としての存続を踏まえて、技術立社を目指し、100年企業に向けた布石として、サポイン事業を活用させてもらっており、平成18年から連続的にサポイン事業を実施している。サポイン事業をやることによって、体制が向かって行く方向に少しずつ変わっているように感じている。

公設試や川下企業のアドバイスを活用し、サポイン事業を開始

どのようなきっかけで最初のサポイン事業に応募されたのでしょうか。

平成16年度と17年度に滋賀県の事業として実施された企業のコア技術診断事業を活用して、当社が今後どのような方向の金属加工事業に進んでいけば、継続的に付加価値を創造できるのかという相談を当社、専門家および滋賀県工業技術センターと2年間にわたり実施した。その際、当社の金属塑性加工技術や冷間鍛造技術にこだわりながら、厚手の部材の加工をするのが良いのではないかとアドバイスいただき、その直後の平成18年度にサポイン事業が始まり、次のステップとして応募した。

今回のテーマはどういった経緯で選定されたのでしょうか。

機械・自動車部品メーカーの㈱ジェイテクト様とのお付き合いのなかで、自動車のハンドル軸であるステアリングコラム機構部品を、自動車運転時の衝突安全基準に適合したうえで、よりコンパクトに作るには、何か良い工法はないかという相談があり、従来のスポット溶接に代わり、レーザで溶接することによって、ステアリングコラムに求められる強度を確保しながら技術的にクリアできないかということを社内で検討し、今回のこのテーマ「自動車衝突安全規制に適合するステアリングコラムの溶接技術開発」をやってみようということになった。研究開発の際には、㈱ジェイテクト様の開発部門の方にもアドバイザーとして入っていただいた。

長年の付き合いのある研究先や経営層を巻き込んだフォーメーション

どのような体制で研究開発を実施されているのでしょうか。

これまでサポイン事業には5テーマ応募し取り組んできており、そのなかで研究開発のフォーメーションが固まってきた。基本的にはオープンイノベーション事業として進めており、企業単体の研究開発としてとらえてやるのではなく、大学や公設試験機関、技術提携先の企業に足りないものを補完してもらっている。
大阪大学や阿南工業高等専門学校には、サブテーマごとに協力していただいている。滋賀県工業技術センターには、当社ではマンパワーが足りていない評価・解析の面でサポートをいただいている。滋賀県産業支援プラザには、技術の用途拡大や人的ネットワークの拡大の面でお世話になっており、展示会等の紹介をいただいたり、テーマでできないことがあると大学の先生を紹介いただいたりしている。また、川下企業に関しては、研究開発テーマを決める段階でニーズを意識しており、技術的な課題や今後の方向についての情報をいただきながら、その中で目利きをしながらテーマを決めている。このようなネットワークを構築ができたのは、非常に大きな力になっている。

大学の先生とはどのような経緯で共同研究を始められたのでしょうか。

本テーマの一つ前の別のサポイン事業に取り組んでいた際に、レーザ関係の加工検討や技術開発を実施するなかで、理論的及び学術的なアドバイスしていただける先生が必要となり、滋賀県産業支援プラザを通じて、レーザ溶接とレーザ材料加工の専門家である大阪大学の片山聖二先生を紹介いただいた。遠隔地であるため難しさもあったが、何度も訪問する中で、熱意に負けた、というとこで協力していただけることになった。それ以来、7年間にわたって月に1回、当社に来ていただき、理論的な面でアドバイスをいただいている。サポイン事業に採択されると研究開発を進める上でのアドバンテージを得られる。技術指導を受けられる環境も整ったことは、非常に助かっている。

社内体制としては、サポインの専任チームを作っているのでしょうか、それとも現業と兼務しながら研究開発をされているのでしょうか。

サポイン実施中の3年間は、全社を挙げて特別プロジェクトのような位置づけの体制を作っている。技術開発部が主体になりつつ、現業の部署から研究開発テーマに関連する人材を選んでチームに入れている。チームメンバーはベテランから若手まで幅広く構成されており、できるだけ役割分担を決めながら、定例会のなかで発表してもらう等、目標を少しでも達成できるよう工夫している。会社としても、サポイン事業は人材の育成と技術開発の進め方を理解してもらううえで有効性があるという思いがあり、推進委員会のときには経営層も出席するようにしている。またサポイン事業のテーマが決まった際には、チームメンバーだけでなく、経営層も含めて決起集会としてキックオフ会議を実施している。このようにサポイン事業を進める上で、社内の意思統一と協調を重視している。
長年、産学官連携のオープンイノベーション体制のなかで研究開発をすることによって、要素技術開発をどのように実施すればよいのか、社員もだんだんとわかってきた。世界に通じる技術を開発するには、どのようなテーマを抽出して進めればよいのかを理解できるようになってきた。また営業の人材についても、以前は御用聞き営業が中心だったが、今では目標をしぼって自ら提案していくような営業ができるようになってきており、営業面でも強くなってきたかなと感じる。それがサポイン事業を進めるなかで得られた無形効果だと考えている。

収集した情報や川下企業の意見を研究開発に活用

今回の研究開発目標はどのように立てられたのでしょうか。

今回、従来のステアリングコラム機構部品で使われているアーク溶接やティグ(TIG)溶接といった溶接の工法に代わり、レーザ光を用いて金属を溶かしていくというような溶接の工法を開発することを目標とした。レーザ光反射鏡を2軸で制御することによってレーザ光をピンポイントで照射するための制御装置であるガルバノスキャナーを用いた、600㎜くらいの長焦点の位置から溶接できるヘッドを活用して溶接する工法であるが、位置決め精度や部品の精度により溶接の品質が大きく左右されてしまうことが課題であった。その課題を解決するために、溶接の位置を認識し、その位置を補正しながら溶接するという技術を開発した。レーザ溶接は、溶接位置が0.2ミリ以上ズレた状態では接合できない。そのため、わずかな対象物のバラつきや位置のずれを補正するためには、機械精度が100分の1ミリ以下としなければ溶接の精度を保証できない。そこで、機械精度100分の1以下というのを研究開発目標におき、高精度な位置決めをできる力を社内に取り込んでいって武器にすることを狙った。

研究開発のなかで特に苦労された点について教えてください。

今回開発した6kWのレーザシステムの設備を購入する際は、当社のなかでどのようなシステムが必要なのかという構想検討から入り、各機器の業者を選定し、レーザの発振器や、レーザヘッドを動かすためのロボット、作業安全上レーザ光が漏れないようするためのエンクロージャーなど各機器に求める要件や仕様をすべてリストアップしてつなぎ合わしていき、最終的にシステムとしてスイッチひとつで動くようにした。このように、レーザ溶接のシステムというのは、一般的な工作機械を購入する場合と違い、すべて当社が中心となってコーディネートして作っていく必要があるという難しさがあった。
レーザヘッドを動かすためのロボットについては、位置がわずかにずれただけでも溶接がうまくできないので、100分の5ミリ以下の機械精度がある高品質な安川電機社製のロボットを導入している。また、エンクロージャーについても、こういった仕様でこのような風に作ってください、出入り口はここにしてくださいと、具体的に指示をしながら制作した。さらに、リモート溶接に必要なガルバノスキャナーのヘッドに関しても、ドイツのブラックバード社製のヘッドを使用している。このヘッドユニットは6kWのレーザの発振器と合わせて動かす形になっている。
このレーザ溶接システムは溶接する手前の位置をリアルタイムトラッキングするシームトラッキング装置とガルバノスキャナーのヘッドがリンクしながら動く設備であり、リモートの制御システムとOCT(光干渉断層計測)方式のシームトラッキング装置を結合することで、溶接前方の対象物断面の形状から溶接位置を算出し、溶接位置のズレを補正することができる。これも一発目で開発できたわけではなく、順番に取り組んでいく必要がある。1年目にレーザ発振器とロボット、エンクロージャーを購入し、2年目にリモート制御ができるようになり、3年目にシームトラッキングができる設備を開発した。3年間を通じて段階的にシステムの構築、技術の構築、条件の設定を行い、研究開発を進めた。ばらばらに機器を選定し、当社でコーディネートするという形で進めたので、例えば信号のやり取りひとつをとっても、メーカー間でのすり合わせを調整していくというような苦労もあった。

シームトラッキング検出状態

選定にあたって必要となる情報はどこから入手されたのでしょうか。

光・レーザ技術展示会の「フォトニクス」など産業技術展示会で情報を収集したり、大阪大学の片山先生にどういったメーカー、どういった機種が良いか、というアドバイスをいただいたりした。レーザ業界は事業者間の横のつながりなど、いろいろなつながりが多いので1社だけ見るのではなく幅広く見たほうが良いというアドバイスもいただいたので、そのようにして業者の選定などを行った。
また、シームトラッキング装置の開発は、当初、別の国内企業と共同開発する計画であったが、その企業には溶接の研究者が1名しかおらず、高精度なトラッキング溶接工法が直線以外できないことが分かり、サポイン事業の実施期間である3年以内に曲線や3次元形状のトラッキングが可能な装置を開発し、実用段階まで持っていくことは難しいと判断した。そこで、大阪大学の片山先生に相談したところ、ドイツに曲線のトラッキング装置をある程度実用化できている企業があるという情報を得た。また、親交のあるドイツのレーザ機器メーカーの日本法人の方にも聞いたところ、レスミラー社やIPG社といったメーカーでは、20人~30人体制でトラッキング工法の研究をしており、この分野についてはドイツが先行しているといわれた。そこで、急遽ドイツに視察に行って、ブラックバード社を訪問した。ブラックバード社とレスミラー社は技術提携をしていたので、本テーマに対しても協力的であった。またドイツでは2年に1回、国をあげてのレーザ技術の展示会があり、そこに行ったほうが良いとアドバイスいただいていたので、ドイツ国内のどのような会社がどのようなことをやっているのか大体の把握できていたこともあって、新しい企業との技術協力の提携についてスピーディに判断することが出来た。

実用化にあたっての特に難しかった技術的な課題やその解決方法を教えてください。

レーザ溶接の工法技術は完成したが、量産化にあたっての川下企業の要望をクリアするためには、月産生産台数から逆算して16秒間に1本のステアリングコラムを溶接しなければならないという課題があった。この課題を解決するために、シームトラッキングの位置決めの精度を保証しつつ、位置決めのスピードを上げる必要があった。そこで、レーザヘッドを動かしながら溶接する溶接工法を取り入れ、なおかつシームトラッキングで位置補正をできるようにするために、システムのプログラムを作ったり、条件設定を行うときに、溶接時の角度や速度、照射の面など考えられる条件をすべて洗い出してデータを取り、どのような条件に対しても問題なく作動する一貫連続溶接技術を確立した。さらに、1本の溶接ラインでは、どれほどスピードを上げても30秒に1本しか溶接ができなかったため、2本の溶接ラインで生産対応ができるようにした。これによりロボットが信号を受け取る位置決めポイントや溶接ポイントは増加したが、各ポイントの信号を受け取りながら、最初に溶接位置が決まった箇所をロボットが判断し、そこに動くことで、人の手によるラインへの部材投入のタイミングにも関わらず、ロボットが常に止まらないようなシステム構成の工夫を行った。

開発した技術の評価はどのような形で行っているのでしょうか。

実際に溶接した部材を輪切りにして、狙いに対してどのように溶けているのかを確認した。どれくらいの接合の長さなら、どれくらいの強度があるのかというデータも取っており、深さや距離で溶接の精度を保証していく。条件設定しては、試験片を切ったり、エッチング(溶解)加工をして評価する。社内で評価できる体制を整えて、こういった作業を繰り返し行った。
溶接の強度の評価に関しては、引っ張る試験を行う必要があったので、滋賀県工業技術センターに、試験片を持ち込んで引っ張る試験をしていただいた。また、具体的に何ミリずらしたら、どれくらい強度が落ちるのかといった検証試験は、手がまわらなくて難しかったので、阿南工業高等専門学校でレーザを研究しておられる西本浩司先生に協力していただいた。
サポイン事業を実施すると、現業の中ではなかなか得られない、いろいろな新しい知見が得られるので、その面でもありがたいな、と思っている。

川下企業の新製品の事業化に資するキー技術に

本技術の知的財産の状況を教えてください。

長焦点でレーザ光溶接をする際に立ち上がるプラズマに関する事項や、温度が上がったときに熱を除去してくれるプルームカッターの形状等について、特許申請をしている。プルームカッターの技術は、当社のレーザ溶接にかかわる技術なので、他のレーザ溶接をしている現場にも、同じ様式で展開し活用している。

今後の事業化の展望を教えてください。

本サポイン事業の成果として、コンパクトにステアリングコラムの溶接ができるようになり、川下企業側で新しい方式のステアリングコラムが完成した。これは対象車種も予定されており、量産受注待ちという段階まできていると聞いている。通常であれば、3~5年かかってから芽が出てきたら良い方だが、本技術を取り入れたことで、同じ期間ですでに製品の量産化までこぎつけることができた。

サポイン事業にチャレンジすることが重要

サポイン事業への挑戦を考えている企業さんに向けてアドバイスがあればお願いします。

新しい技術を構築して、こういうとこまでいけるという事業化計画とそれを整理するための支援体制があれば、製造業で戦っている企業自身の要素技術を確立できる。その要素技術を当てはまる事業に提供することができれば、そこに新しい価値創造ができるので、チャレンジしてみる事が大事。「企業として、元気のある、技術にこだわって事業を進めていく会社になってきているね」と周囲にも言われるようになった。お客様目線でお客様の困りごとを聞き出して、それを形に具現化して提案して、そこで価値創造を図るという当社の「ワンストップサービスプラス」がサポイン事業を通じて確立出来てきたと感じている。そのためには、困りごとを聞き出せるよう、お客さんとの信頼関係を築くことも大事。
サポイン事業をやることで会社は変わる。それまでは事業化計画を考えたこともなかったが、事業化計画が立てられるようになる、社員もスキルアップできる、技術的にも戦略的になることができる。技術立社を目指す製造業の成長に繋がるこの施策はぜひ続けていってほしい。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
自動車衝突安全規制に適合するステアリングコラムの溶接技術開発
事業実施年度:
平成28年度~平成30年度