研究開発の着地点を的確に見極めてサポイン事業終了後の事業化を加速する
機械事業部 パッド・グラビア課 課長 池戸 裕明氏(写真左)
顧客の声をきっかけとして、複数回の準備を経てサポイン事業にチャンレジ
研究開発のきっかけを教えてください
スマートフォン等のタッチパネルにおいて、画面外側の黒い縁を小さくして画面を有効利用したい、画面を薄型軽量化したいという客先からのニーズがあった。その時点でのスクリーン印刷技術では限界があったため、一旦他社の写真技術にシフトされたのだが、他社技術において不具合や歩留まりが多発したため、当社の印刷技術を利用できないかと再度打診されたのが研究開発の背景にある。
技術的に、従来からのスクリーン印刷手法で賄うのは困難であったことと、社内でも今後スクリーン印刷技術一本の事業に絞り込んでいくのは不安があった。ちょうど転写機械の研究を進めていたところに、サポイン事業の話があったので応募した。
実はこの研究内容でサポイン事業には2度応募している。2度とも採択はされなかったのだが、サポイン事業の採択結果とは関係なく、客先からのニーズに応えるため独自に転写技術の開発を進めていた。
ダイレクトグラビア印刷を電子媒体に応用するという技術でサポイン事業に3度目の応募をしたところ今回の採択に至った。
部門横断的な研究開発組織を編成して研究開発を実施
研究開発を行う上での組織体制はどのような工夫をされましたか
今まで社内組織は業務別の縦割りであったが、研究会のような社内横断的な組織を作った。定期的にお互いが集めてきた情報、問題や競合の動きを共有して持ち帰り、それぞれの組織内で協議した結果を再度持ち寄る形を取った。この組織はサポイン事業終了後も継続、強化している。この組織の貢献が今回の事業化に大きく影響を与えているのではないだろうか。
図面を基に、ただ組み立てるのではなく、客先の問題を理解するという意識の変化が大きな成果であった。また、社長が研究開発を自由に任せてくれた環境があったこともありがたかった。
明確なニーズを見据えて、研究開発のゴールを設定
サポイン事業の開始当初と終了時点で想定顧客が変わることもあるかと思いますが、対象の川下産業はサポイン開始時からしっかりと想定されていたのでしょうか
太陽電池等の電子デバイス製品もターゲットにはなってくるが、これらの技術は日進月歩で変化している。当初想定していたこの分野のニーズと、ある程度研究開発が進んだ段階での研究成果に乖離が出てきたので、最終的な対象川下産業にはならなかった産業もある。
一方で実用化・事業化に至ったポイントとして、客先に研究開発の途中段階でテスト印刷に来ていただいたことが大きかった。従来は完成品を営業するというスタイルであったが、研究開発の途中で見てもらうことにより、客の考えている製品や出口を把握しやすくサンプル出荷が非常に増加した。大手メーカーの研究開発部門や大学の研究機関からの問い合わせも増え、「客先のニーズに合わせて作る」といった姿勢が事業化に至ったポイントであると考える。
想定外の課題に対処するには、想定外を想定し、ネットワークを事前に拡大
サポイン事業を振り返ってみて、想定外の問題は起きましたか、起きていなければ研究開発はどうなっていたと思われますか
研究開発中に発生した想定外の問題(消耗品サプライヤーからの製品の供給停止)は、当社にとっては想定外の問題だった。
ただ、この問題が起きたことが結果的に研究開発の岐路にはなったが、一般的に研究開発の途中で発生する問題は事業化を進める際のトリガーの一つでしかない。不測の事態に備えるばかりではなく、問題が起きた際は、他の点で高度化を進めるように方向転換ができることが必要ではないだろうか。
ということは、想定とは違う出口や方針を頭の隅に置いておくことが重要だということでしょうか
正直、今回のような想定外の問題が途中で発生するとは考えていなかった。先方が大企業であったため、急に供給ストップとなることは予測できなかった。しかし、実際に問題が発生した時には、アドバイザーや共同研究機関が代替案を提示してくれたことや、新規供給先を紹介してくれた。
当社だけで進めていれば、もっと時間がかかったかもしれないし、他の方向に進んでいたかもしれない。過去からの付き合いやネットワークが大切だと痛感した。ネットワークと言っても、商売上の目的や利益がなければ声をかけてこないので、当社とある程度商売が成立していたこともあるのかもしれない。
サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします
一つ言えるのは、研究開発のためだけにサポイン事業を利用するのでは、サポイン事業を利用するメリットが半減する。あくまで川下のニーズをどう捉えるか、サポイン事業はニーズを実現するための一つのツールである。事業化というストーリーを描けないと苦労することになるだろう。
サポイン事業を利用して絶大な効果があったのは、資金的な面であった。ただし一方で、本業がうまく回らなくなる可能性もある。サポイン事業にチャレンジするなら事業化しないと意味がないだろう。
また、本研究開発に際して事業管理機関の支援は必須であった。初めて公的制度を利用しての研究開発であり、書類面の整備や事業の進捗推進に関しアドバイスがなければ完遂できなかっただろう。
本研究開発の事業化に向け数々のアドバイスや、広く当社の事業に関して有益となる情報と指導をいただけたのも、事業管理機関の岐阜県産業経済振興センター様のお陰だと思っている。
今後サポイン事業に挑戦される方々へは、事業管理機関のような立場との緊密な連携が事業化への近道の一つであること、必ずや親身にアドバイスをいただける経済産業局への相談は必須であること、とアドバイスしたい。事業化は中小企業単体ではなかなか難しいと思う。当社は幸いにその良縁に恵まれ今を迎えたのかもしれない。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 光硬化プロセスによる通電性と密着性に優れた導電ペーストの開発と高密度・高精度かつ低コストな回路パターン形成技術開発
- 事業実施年度:
- 平成23年度~平成24年度
- 研究開発の目的:
- 国際競争力のある技術開発とプリンテッドエレクトロニクス市場における優位性の確立
- 事業化の状況:
- サポイン事業終了時点では実用化間近の状況
現在は、開発した高精度高速印刷機に対する具体的問い合わせが来ている
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