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大学での学術的な裏付けをもとに、ハニカム構造のナノバブルによる生鮮魚介類の鮮度保持に貢献

丸福水産株式会社 ラモンド事業部 部長    米澤裕二氏

前回の地域イノベーションによる研究成果を、さらに材料と大型・小型化の検討で性能向上

今回のサポイン事業に応募するまでの経緯を教えてください

当社は水産会社であるが、水油による微細化気泡(ナノバブル)に関わる特許を譲り受けたことが発端となり、この技術を水産に役に立てるため、当時氷冷蔵で困っていた魚の鮮度劣化に思い至ったのが、窒素を使ったナノバブルである。冷やした塩水の中に魚を漬け込むと、水の中の溶存酸素で酸化が進むが、窒素をいれて酸素を無くした水であれば酸化を抑えられるのはないかとの考えで始めたところ、良好な結果となった。
窒素のバブルを作りながら循環すると溶解した酸素が窒素の気泡の中に放散される。装置はナノバブルとマイクロバブルを同時に作り、大きめのマイクロバブルは酸素を取り込んで水面で割れ、ナノバブルは水の中に長期間滞在する。一度追い出した酸素は通常のバブリングと比べると酸素濃度の上昇が遅く、なおかつ魚の内蔵の酸素も取り込んで酸化を抑制する。
今回のサポイン事業の前には、平成22、23年の地域イノベーションの助成事業を九工大とで実施しており、九工大の産学連携の田中先生がハニカム構造のナノバブルが理に適っていると認めていただいたことから、九工大の流体の専門家を紹介していただき、ハニカム構造体によるナノバブル発生装置の開発を行った。当初は小さな能力の装置でもよかったが、漁船や漁港では多量の水を使うため、装置の大型化も必要になってきた。そこで大型化と小型化の両面で検討した。
また性能を向上するために、ハニカム構造体の材質を変えて、六角形の1辺1辺の幅を極限まで薄くし、中の面積を増やして処理能力を上げられないかという観点で、九工大の材料の専門家と体制を組んで、サポイン事業に応募した。

電食や性能向上の観点から、ハニカム構造体の材料をチタンと樹脂について検討

研究開発の概要について教えてください。

従来のハニカム構造の材料はSUSを用いていたが、海水で使用することが多く、電食が起きることもあった。そこで価格は高いがチタンを使い、さらに六角形の隔壁は従来の2mmを0.5mmとして容積4倍にしようとした。またアクリルの樹脂も検討し、隔壁を2mmから1mmにすることを目標にした。六角形の隔壁の幅は薄くすると、同じプレートの大きさでも穴が大きくなり、断面積が増え、同じ流速で穴を通る量が増えることで性能が上がることになる。
ハニカム構造の六角形の穴に入ってきた気泡は、3方向に分割され、さらに穴に入って3方向に分割されることを繰り返し、気泡が変形してせん断力で引きちぎれて放射状に分散していくことで、構造体の中で効率よく多量の小さな泡を発生させる。
チタンは難削材であるため、レーザーでハニカム構造に加工すると熱変形を起こした。またウォータージェットで加工すると非常に多くの時間がかかるものの加工はでき、十分な強度と気泡も確認した。ただし、加工時間からは実用化には難しいと考えられ、今後は鋳物を検討する。
大型装置はチタン、小型装置は樹脂で作製することを考えていたが、強度の安全性も検討した結果、アクリルの隔壁は0.5mm幅でも計算上は問題ないことが分かり、海水環境下で使用するものは現在すべてアクリル製にすることにしている。樹脂が使用できない食品の加工ラインやSUSを腐食させる環境には、チタンが応用できるのはないかと考えている。

チタン製ハニカム構造体(隔壁0.5mm)

人によって基準の異なる鮮度評価の難しさ実感

研究開発中に発生した問題とその解決方法について教えてください。

小型の試作機を2年間でそれぞれ5台ずつ作製して、ユーザーに評価いただいたが、使用に関しては何も問題がなかったものの、評価結果の基準が人に負うところが大きく、魚の鮮度はほぼ官能的なもので人によって全く異なる。また、使う人によって効果にも差が出ていた。
流通において評価の受け止め方が違っており、評価結果を解析することは難しい。今後実用化したときの評価のマニュアル作りが難しいことを認識した。

鮮度管理の意識が非常に強いユーザーからの実績作り

今後の取り組みについて教えてください。

現在、試作機10台を引き続きユーザーに評価いただいている。特に鮮度管理の意識が非常に強いところ、例えば、鮮度が悪いと高く売れない離島や、地域ブランドの鮮魚を首都圏等で売りたいと考えている業者や自治体等、そのような川下ユーザーで試作機を使ってもらい、実績をつくることが必要と考えている。
また窒素ではなく、酸素のナノバブルで生きたまま魚介類の鮮度を保つことができることが分かっており、活魚流通には酸素を適用した装置で展開していく。

ナノバブル生成小型試作機

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。

サポイン事業は中小企業が対象であり、特に機械装置
の開発は学術的なエビデンスが求められることが多い。
そのときに大学の見解や論文は強みになる。公共の機関である大学で証明できていることは、新しい技術としては強みであり、逆にそれをやっておかないとなかなか信用されないところがある。
サポイン事業に応募される企業は、技術開発力があり、自社の装置に対するデータや知見は大学よりも持っていると思う。今回はナノバブルができることが当社で分かっていたが、なぜできるかを大学で調べることで、技術の裏付けてもらうことは非常に強みになる。
大学と良好な関係を持つことは非常にいいと思う。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
生鮮魚介類を長期保存するハニカム構造体を用いたナノバブル生成装置の開発
事業実施年度:
平成26年度~平成28年度
研究開発の目的:
生食用生鮮食品の安全性確保は極めて重要な課題であり、特に生鮮魚介類は捕獲から流通・販売までの間、酸化や腐敗を防止する鮮度保持技術の向上が強く求められている。低温管理に加え、窒素ナノバブルの効果により、水中の溶存酸素量を極限まで低減させた超低酸素冷海水(塩水)を用いて、生鮮魚介類の鮮度維持向上を実現する装置を開発する。
事業化の状況:
鮮度維持を死活問題と捉えている産地の漁協を対象に販売拡大を図る。窒素を使うナノバブル水以外に、酸素を使う活魚輸送・活魚備蓄への可能性も探る。水産業以外にも、農業や食品製造、医薬・医療等、様々な分野への導入も期待できる