大学との良好な関係構築で、最先端分野の研究開発における具体的な計画策定及び柔軟な市場探索が実現
技術部 主任 崔源煥氏(写真左)
公益財団法人ちゅうごく産業創造センター 産業部 部長 松原健之氏(写真右)
サポイン事業を最先端の機能を持つ装置の開発に活用
研究開発が開始したきっかけを教えてください
当社は「世に無いものを創り出す、時代の「今」を呼吸する」を経営理念としており、分野の枠にとらわれず研究開発投資を積極的に行っている。2001年のタンパク質結晶化システムの開発を機に、バイオ分野で利用する機器の開発にも挑戦し始めた。新たな研究開発に積極的に挑戦することで自社のプレゼンスを築いている。
2004年に土壌分析前処理装置を開発した頃から経済産業省と付き合いがあり、国による研究開発費の補助制度を積極的に活用するようになった。例えば2010年からは地域イノベーション創出研究開発事業(以下、地域イノベ事業)を活用し、2011年に細胞回収自動化装置の開発に成功した。
また、細胞回収自動化装置の開発過程では、不要な細胞を除去するための基板を活用した細胞の融合に関する知見を得ることができた。この知見の応用が可能な分野を検討する中、 昨今注目されているiPS細胞について、細胞を作製する過程で必要とされる細胞の融合プロセスが1回になれば、省力化につながるのではないかと考えるに至った。再生医療分野に利用するiPS細胞の作製を想定して、細胞にレーザーを当てて融合させる最先端の装置である「全自動細胞融合・回収装置」を開発することを目的に、サポイン事業の活用を決断した。
サポイン事業にはどのような印象を抱いていましたか
細胞融合の研究は様々な費用が発生するだけではなく、設備にも多くの投資を必要とする。最大で1億円近い研究開発費の補助を受けながら、3年間というある程度長い期間の研究開発が実施できる点は、最先端分野の研究開発を思い切って進めようという想いを強く後押しすることに繋がった。
大学・企業との継続的な関係を活かし、強固な研究開発体制を整備
サポイン事業での研究開発体制はどのように構築しましたか
共同研究開発先である鳥取大学・近畿大学は、地域イノベ事業に採択された際に管理法人を務めたちゅうごく産業創造センター(サポイン事業の事業管理機関)から紹介され、2010年以来共同研究を行ってきた。両大学の先生と良好な関係を構築・維持し続けたことで、引き続きサポイン事業にも参画いただくことができた。
当社は大学の先生に対し、「力になれることがあれば、是非ご一緒いたしたい」というスタンスで関係を構築している。開発した装置で利益を出すことは大切である一方で、分野の枠にとらわれない研究開発を進めるためには、その分野に詳しい大学の先生から得られる知見は非常に重要だ。共同研究開発メンバーとして大学の先生方に協力いただくことによって、新しい分野の研究開発を加速することができる。
また、サポイン事業のアドバイザーである広島和光(株)とも、過去にちゅうごく産業創造センターの方から紹介いただいて以来の付き合いが継続している。同社は、調達業務等を通じて顧客と接点を多く持ち、市場のニーズに関する情報を多く有していたため、サポイン事業でもご一緒しアドバイスをいただくことで、様々な顧客からの情報を踏まえた用途や市場の有無を織り込みながら装置を設計できたと認識している。
研究開発体制のチームワークが具体的な研究開発計画の策定を可能に
研究開発計画の管理で工夫した点はありますか
具体的かつ詳細な研究開発計画を立てたことが、目立った進捗の遅れや深刻な予算不足等、研究開発計画を管理する上で発生しうる問題を防ぐ要因になったと考えている。2010年から共同研究開発を実施する中で、互いの研究内容への理解は深まっていた。具体的な研究開発計画を立てられた背景には、当社・近畿大学・鳥取大学のチームワークが一定期間を通じて蓄積されていたこともあるが、役割分担が明確かつうまく噛みあわせられたこともあるように思う。
大学を通じた情報収集や展示会出展等、様々な手段を用いて市場を柔軟に探索
研究開発計画だけでなく、開発した装置の顧客開拓も問
題無く進められたのですか
開発した装置を利用した場合、従来の方法とは異なる方法で細胞を作製することになる。新しい方法に対して、大学や企業の反応は必ずしも芳しいものではなかった。日本でのiPS細胞の作製手法は一定の型があることが分かったため、当初想定していた用途とはまた別の出口を模索する必要が生じた。
想定していた用途での顧客開拓が困難と分かり、どう対応されたのですか
近畿大学の先生から、サポイン事業で開発したレーザーを自動車分野にも応用できるのではないかというアドバイスをいただいた。開発した装置で使用するレーザーを自動車部品に照射できないかという話が企業から先生に寄せられたとのことだった。
再生医療分野のようなセンシティブかつ最先端の分野では、企業同士が双方の状況やニーズを共有するようなことはさほど多くはないようだ。当社も開発に携わる立場として、大学の先生と良好な関係を構築する中から、他社のニーズを間接的に収集するよう努めている。
また、用途を限定せず多様な企業・大学にPRをすることが今後の顧客開拓につながると考え、先行投資として展示会に出展した。展示会では、カタログだけでなく装置の実物を見ていただくことで、エンドユーザーとなる企業・大学より本音に近いコメントをいただけた。
展示会では、「これができるなら、こういうこともできないのか」と当社の他事業へ引き合いが来たケースもあった。外部への情報発信には多くのメリットがあったことから、引き続き、開発した装置の顧客になり得る企業の探索に取組みたいと考えている。
更に現在は、海外への用途展開についても試みている。サポイン事業が終了した後、広島県の協力もあり、開発した装置に興味がある米国企業と話をする機会をいただくこともできた。
サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします
実現したいアイデアがある場合、失敗を恐れず、まずは自身のアイデアを文章などの目に見える形にすることが重要ではないだろうか。形にしなければアイディアは分かってもらえないものだが、サポイン事業に応募することで、自分のアイデアを第三者に評価いただくことができる。また、自社では知見がない分野に対しても意見を自由に出し合え、互いを補い合える風土をメンバー間で醸成することも重要だ。意見交換を活発に行ったことで、それまで誰も気付かなかった問題点や解決策等に気付けたこともあった。また、当社社員が大学に頻繁に足を運び、先生方から指導を受けたことで、細胞の扱い方等、今までに携わったことがない分野の知識を得ることができた。分野を横断した連携体制を構築したことは、研究開発上の見落としを防ぐとともに、各人の持つ知識やアイデアを最大限活かして研究開発を進められた大きな要因だと考えている。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- レーザー光と高速可動ステージの精密制御による高効率細胞融合・回収自動化装置の開発
- 事業実施年度:
- 平成24年度~平成26年度
- 研究開発の目的:
- 「精密な細胞診断、高効率な細胞の融合、及び非侵襲的な回収法」を実現するマイクロアレイ(μAy)基板と装置、及び自動化装置・自動化システムを開発する
- 事業化の状況:
- サポイン事業終了時点で実用化間近の段階であり、今後は販売体制の構築、ユーザー要求性能への改善を進めながら、装置性能の向上と細胞操作に係る新たなシステム化に着手する予定である
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