世の中のニーズを把握し、自社が長年培った技術と人とのつながりで研究開発を進めて、新商品を開発
研究開発部 部長 佐伯 行紀氏(写真左から二番目)
研究開発部 主任 溝口 訓弘氏(写真右)
研究開発部 吉田 大駿氏(写真左)
公益財団法人富山県新世紀産業機構 プロジェクト推進課主任 市田 聡氏(写真中央)
地域資源である『富山湾海洋深層水』の研究開発を長年実施
今回のサポイン事業に応募するまでの経緯を教えてください。
当社は昭和22年に設立し、医薬品を始めとする医薬部外品・化粧品、機能性食品・飲料等の開発、製造販売を行ってきた。特に当社が立地している富山県の地域資源「富山湾海洋深層水(以下、海洋深層水)」については平成8年より研究を開始し、海洋深層水分離加工技術を開発し、得られた分離水を用いた多種多様な製品化に成功している。医療に近い分野及び高齢化社会に向けた”海洋深層水製品”の開発を模索していたところ、富山県新世紀産業機構及び中部経済産業局北陸支局からサポイン制度をご紹介いただいたことが、本研究の発端ともなっている。本サポイン事業の研究テーマは大きく二つの目標があり、研究用細胞培養液(以下、研究用培養液)の開発と、海洋深層水の研究開発を背景とした高機能性化粧品の開発を掲げ、早期事業化に取り組んだ。そのコアとなるのが海洋深層水から製造する「海洋深層水等張液」だ。研究用培養液は、再生医療で注目されるiPS細胞やES細胞等の幹細胞や、上皮細胞やがん細胞などを増殖させるもので、動物血清や化学合成で製造される。本研究用培養液は天然資源である「海洋深層水等張液」を用い細胞培養の増殖能を確認した。
豊富な人的ネットワークにより、強力な研究開発体制を構築
研究開発体制の役割について教えてください。
当社は海洋深層水等張液から研究用培養液や高機能性化粧品を試作し、大学等研究機関(以下、研究機関)ではこれらの成分分析や効果の評価、検証を実施していただいた。具体的には、研究用培養液の評価は、iPS細胞の培養に長けた技術を持つ国立成育医療研究センター、がん細胞の病理診断に著名な研究者がいる徳島大学、富山大学に評価を依頼した。また海洋深層水由来の高機能性化粧品の有用性及び安全性の分析・評価を名古屋市立大学に依頼した。細胞培養への効果の検証だけではなく、細胞への作用機序も解明すべく、オミックス解析と分析技術に長けた立命館大学にご協力いただいた。過去の研究のつながりから、当社と深くおつきあいいただいている研究者の方々や、その研究者間ネットワークを
通じ、本研究に合致した専門家をご紹介いただくことで、適切で且つ強力な研究開発体制の構築を実現出来た。事業管理機関である富山県新世紀産業機構とも連携を密にし、研究機関との関係円滑化に努めた。
最初から事業化を出口として見据える
研究開発の目標をどのように設定しましたか。
研究用細胞培養液および高機能性化粧品は、医療業界およびヘルスケア業界で要求されていた。本サポイン事業開始時、そこに当社が培ってきた海洋深層水研究開発の知見を活かし研究開発を推進し、事業化(商品化)を出口(到達点)として設定した。
研究中に新たなアイディアを見いだす
研究開発の体制、研究開発中の苦労した点について教えてください。
研究開発は、当然、目論見があるものだが、筋書き通りにいかないこともあり、逆に思いもよらない成果を発見するなど、新たなアイディアが出ることもある。本事業においても同様で、当初は海洋深層水等張液のみで細胞培養への有用性を確認したいという思いがあったが、実際には性能面では満足できる結果ではなかった。しかし、海洋深層水を成分濃縮することにより優れた(有用性のある)研究用培養液が製造できることが分かり、さらに付加価値をつけることができた。大学研究機関等の研究者間との研究方針・進捗等の情報共有化にコミュニケーションが最も重要である。各機関とのベクトル合わせなどには、事業管理機関と一緒に出向くなど、フェイス・トゥ・フェイスで打合せの場を設けた。
培養液は補完研究継続、化粧品は商品事業化
今後の事業化に向けた活動について教えてください。
研究用細胞培養液は安定性や再現性の補完研究を継続実施中である。本サポイン事業中に研究成果は得られているが、さらに安心して使用されるにはバックデータを揃える必要がある。高機能性化粧品は、商品化を実現し2019年度の上市が決定している。また、開発した成分濃縮物を配合する新規化粧品アイテムの開発を進めている。知財戦略は重要で、本事業成果は、特許出願が4件、学会発表も行っている。
サポイン事業を効果的に活用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。
経営者自身が「海洋深層水」を事業の核として位置づけ、企業の将来展望を描き、リスクを負いながら取り組むこと。その熱意やロマンを当社の研究員および研究協力機関の研究者らとコミュニケーションをはかり共有することは、円滑な研究開発推進に重要であること。事業成功には、人とのつながり(信頼)が大事、ということに尽きる。
同時に研究開発の開始時から、しっかり事業化の出口(到達点)を見据えることも必須。そして研究開発を実施していきつつ、目まぐるしく変わる世間や環境のニーズを察知・理解し、柔軟に対応する姿勢を持つことも必要となってくるだろう。ユーザー志向を決して忘れてはならない。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 再生医療研究による富山湾海洋深層水等張液を利用した研究用細胞培養液開発および高機能性化粧品開発
- 事業実施年度:
- 平成27年度~平成29年度
- 研究開発の目的:
- 本研究では、富山湾海洋深層水等張液を用いて、培養再現性が高く、量産化可能な研究用細胞培養液の開発及び有効性・安全性エビデンスに基づく国産の天然素材高機能性化粧品の開発を目的とする。
- 事業化の状況:
- 研究用細胞培養液は、安定性、再現性等の補完研究を継続中。
高機能性化粧品は、海外向け(輸出)事業化を達成し、国内向け製品の早期事業化を予定。
研究開発好事例を探す