再生医療の産業化推進に貢献する、未分化・造腫瘍性細胞の検出技術の高信頼性・高速化・簡易化・コスト低減化を実現
生産本部 第1 開発部 第4 開発グループマネージャー 内山昇氏(写真左)
公益財団法人 かがわ産業支援財団 技術振興部 産学官連携推進課 佐藤恵子氏(写真右)
産業技術総合研究所との共同開発成果をベースとしてサポイン事業を実施
今回のサポイン事業に応募するまでの経緯を教えてください。
当社は、1960年創業で現在売上543億円、従業員1,130名の会社で、創立50周年の2010年に「隆祥産業株式会社」から「株式会社レクザム」に社名を変更した。国内事業は四国で展開しており、香川工場で本事業を行っている。ものづくりは香川県・愛媛県の工場で行っており、徳島県や高知県に関連企業を持っている。
当社の事業分野は、主力事業であるエレクトロニクス製品を中心に多岐に亘り、ソフトウェア、メカトロニクス、オプト、バイオ、ナノテク、スキーブーツ等のスポーツ用品、ビール等も取り扱っている。バイオ分野には、医療機器という切り口から参入している。
以前から、かがわ産業支援財団の補助事業で、産業技術総合研究所(以下、産総研)や地元の大学と幹細胞表層の糖鎖(生体内の情報伝達やウイルス感染、癌の転移等に関与)を検出する装置の基礎研究を行っていた。装置の開発当初は、使用用途が幅広かったが、産総研の立野先生に装置を適用した研究をして頂き、その用途の一つとして、癌化につながる未分化細胞の検出ができることが分かった。その際にかがわ産業支援財団からサポイン事業の話を紹介して頂き、今回の開発に取り組むことになった。
レクチンチップの製造技術の確立や検出システムの開発を実施
研究開発のゴールをどのように設定しましたか。
「再生医療」によって、失われた身体機能の回復を実現していく上で、人工多能性幹細胞(iPS/ES細胞等)を用いた細胞加工製品の実用化は、欠くことのできない存在となっている。しかしながら、現状では、細胞加工製品には依然として未分化細胞の残留リスクが存在するため、実用化に向けた大きな課題となっている。
そこで、我々は被験細胞試料中の未分化・造腫瘍性細胞の混入を「従来技術よりも高信頼性で、簡便・高速に検出したい」という川下企業のニーズに応えるため、レクチンチップ製造工程におけるばらつきの低減・品質確保技術の確立や高信頼性で高速に検出することが可能なシステムの開発を行った。本技術は細胞内の遺伝子ではなく、幹細胞表層の糖鎖構造変化を直接検出する方法を採用した。
研究体制の役割については、産総研では細胞を取り扱った評価、当社では装置やソフトの開発を行った。
飛散問題等の原因究明によりスポットが安定し、チップの開発が前進
研究開発の体制、研究開発中の苦労した点について教えてください。
テーリング、スポットの飛散問題等があり、特にスポットの飛散問題の主要因を突き止めることに時間を要した。飛散が生じた時にはノズル先端を新品に取り替えることで対応していたが、ノズルが高額であることに加え、非効率であった。そこで、スポットが安定しないノズル先端だけを集めて、原因を探るために顕微鏡で確認したところ、ノズル先端に異物が付着していることが分かった。この異物はノズル先端をアルカリ溶液に一晩浸けることで除去することができた。これにより、スポットが安定するようになり、次のフェーズに進展することができた。
研究開発を円滑に進められた要因としては、産総研、川下の大手販売会社、社内の各部署のサポートがあったことが挙げられる。具体的には、産総研の先生方には、装置が疾病の検出に役立つことを研究して頂き、医療用途への展開へ橋渡しをしてもらった。大手販売会社からは、ユーザー側からのアドバイスを頂いた。また、自社のメカニカル、ハードウェア、ソフトウェアチームのチームワークにも支えられた。
大学や研究機関を中心に販売を開始、将来的には病院での利用も期待
事業化に向けた今後の活動について教えてください。
今回の研究開発成果を盛り込んだ「レクチンチップ」と「高感度蛍光検出システム」を2018年8月から販売している。川下企業で販売しているチップに、当社の装置が対応できるようになれば、さらに販売拡大が見込める。販売先は大学や研究機関が多いが、将来的には病院等にも普及されることを期待している。
また、バイオ医薬品の抗原糖鎖検出、薬効メカニズム研究、ワクチン研究、機能性食品分野への応用も検討している。
サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。
一社で取り組むには事業として大きすぎるため、最初の
体制作りが重要だった。産総研のおかげで高みが目指せ、かがわ産業支援財団には集中して開発に取り組めるようにバックアップして頂いた。提携した両機関には存分に力を貸して頂いた。
また、新規分野に参入するためには、資金が一番の問題となる。今回は、技術的に装置開発は可能と思っていたが、利益に結びつくか判断できなかった。採算が合わないと判断されると、企業としては投資に踏み切れない。研究段階であれば、なおさら、社内の承認は得られないが、サポイン事業のおかげで、中小企業にとって飛躍したようなテーマでも取り組むことができ、成果に繋がったと言える。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 再生医療の産業化に向けた未分化・造腫瘍性細胞の検出技術の開発
- 事業実施年度:
- 平成27年度~平成29年度
- 研究開発の目的:
- 再生医療への貢献が期待されるiPS細胞を用いた細胞加工製品には、癌化につながる未分化細胞の残留可能性が残ることから、その未分化細胞の混入を従来技術より信頼性高く、簡便、高速に検出するため、新技術の研究開発を行う。
- 事業化の状況:
- 今回の研究開発成果を盛り込んだ「レクチンチップ」と「高感度蛍光検出システム」の販売を開始している。また、バイオ医薬品の抗原糖鎖検出、薬効メカニズム研究、ワクチン研究、機能性食品分野への応用を検討中である。
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