市場ニーズを踏まえた明確な開発目標に対して、社外関係者と協力しながら研究開発を実施
よこはまティーエルオー株式会社 代表取締役社長 井上誠一氏(写真左)
知財創造部門担当 鬼山和彦氏(写真右)
明確な市場ニーズを踏まえたゴールを実現できる体制で研究開発を実施
研究開発を開始したきっかけを教えてください
従来より工業用のSOFCアノードガス再循環用ブロワの開発・販売を行っており、ホームページ経由で東京ガスや大阪ガス、三菱重工業等より声がかかり、従来設計品の納品を行った過去があった。その後、2011年にSOFCアノードガス再循環用ブロワの高度化開発支援を日産自動車が行ってくれる話があったが、震災の影響で中止となった。その代わりに、日産自動車が産業技術総合研究所(産総研)を紹介して下さり、その産総研の方からサポイン事業についての話を聞き、応募をするに至った。
共同研究先の澤村電気工業(株)は本サポイン事業でどのような役割を担ったのでしょうか
SOFCアノードガス再循環用ブロワの効率を上げるためには、大きなプロペラを遅く回すよりも、小さなプロペラを早く回す方が適しているとわかっていたため、 2002年にその開発技術を持っている企業複数社への声かけを行った結果、澤村電気工業が見つかった。その後彼らと共に開発を行ってきた経緯があったため、今回のサポイン事業でも、モーター開発部分を澤村電気工業に委託し、開発を行った。
市場のニーズはどのように把握していましたか
三菱重工業等、昔からの顧客から定期的に話を聞くとともに、文献等の資料で補完調査を行った。本研究開発のターゲットは「SOFCを製作している企業」と明確であり、彼らとのやりとりを通じて、求められているニーズ・性能を明確にすることができた。後は、そのゴールに向けて研究を行うだけだった。また、震災・オリンピックが追い風となり、燃料電池技術の需要が高まっていたため、燃料電池への強いニーズがあると考えていた。
研究開発の目標はどのようにして設定されましたか
今回のSOFCアノードガス再循環用ブロワを使用すると、発電効率が45%→55%に上昇し、経済的な自立が可能となる。現状の発電効率45%では、既に市場にある家庭用発電システムのように、排熱を給湯に利用する等、他と組み合わせて使用しないと効率が悪いため、初期導入コストを回収できなかった。しかし、本技術を使用し、発電効率を55%に高めたことで、単独で初期導入コストの回収が可能となった。
ブロワの開発を行っている企業は国内外で(株)キャップのみであり、これまでの研究開発の結果から、「こうすれば発電効率を上げることができる」ということを把握していた。そのため、今回のサポイン事業を通じた開発ゴールや研究開発のポイントは明確であり、そこにヒトとカネを充てるようにしたため、迷いが生じることなどはなかった。
研究開発中に発生した課題はありましたか
インペラというブロワのプロペラの形状が発電効率に大きく影響するため、試行錯誤をすることになったが、流体力学の専門家と組んで開発を行うことで、効率を徐々に上げることができた。
社外関係者との良好なチームワークを通じて、研究開発を促進
専門家とはどのように連携体制を構築しましたか
アドバイザーとして入って頂いている横浜国立大学の名誉教授の塚本修巳氏は、よこはまティーエルオーの前社長であり、よこはまティーエルオーを通じてご紹介頂いた。塚本氏は主に、澤村電気工業(株)が担当している研究開発に助言頂いた。また、産総研の方には、1~2年目は共同研究者、3年目はアドバイザーとして関与頂き、達成すべきブロワの発電効率目標について助言頂いた。日産自動車、川崎重工業の方はサポイン事業開始前から顧客として付き合いがあり、今回アドバイザーとして研究開発に助言頂いた。専門的な知識を持つ有識者からの助言を受けられる強いネットワークを持ったことが、研究開発をより上手く進めることに繋がったと思う。
共同研究先、アドバイザーの方々とはどのように連絡を取り合っていましたか
共同研究先とは、適宜電話で連絡を取りつつ、年に5~6回程度進捗会議を行い、状況の共有を行っていた。その進捗会議にアドバイザーの方も参加してもらい、研究開発に関する助言を頂いた。チームワークはとても良かったと思う。また、進捗会議の日程調整では会議終了後に次回の会議日程の決定を行い、良いペースで会議を開くことができた。
海外の展示会など、多様な機会を活用して研究成果をPR
サポイン事業終了後、どのような顧客から話が来ましたか
国内では三菱重工業やGE、富士電機、海外ではドイツ航空宇宙研究センターやBOSCH等から問い合わせが来ている。本研究開発の成果を海外の展示会でも披露した結果、海外からの電話やメールでの問い合わせが非常に増えた。ドイツ航空宇宙研究センターはSOFCの国際会議の展示会に出展を行った際に、展示ブースに来訪して下さり、打合せを行うことができた。
海外の顧客に対してどのような営業活動を行っていますか
海外からの電話やメールでの問い合わせが増えてきており、GEやその関連企業等が燃料電池の技術に食い付いてきている。
しかし、海外の顧客開拓はまだ展示会出展のみで、海外や他の業種への進出のきっかけは今後の課題だ。その点では産総研は海外学会等でも積極的に発表を行っており海外に強いので、サポイン事業を通じたつながりができたことが今後につながると考えている。
サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします
中小企業にとって1億円の研究開発支援は大きいので、しっかりと使い道を考えて使用した方が良いと思う。特に労務費の助成を行ってくれる補助金制度は少ないため、中小企業にとっては助かる。
また、研究開発を開始する前の段階でゴールをしっかりと意識し、全体像をつかんでから、サポイン事業の研究開発に臨むことが事業化に向けて必要であると考える。3年間のサポイン事業期間は短いので、開発目標が途中でぶれるような状況に陥らないようしっかりと連携を取り、研究開発に臨むと良い。そのためにも顧客と随時連絡を取り、市場のニーズや状況をしっかりと把握しておく必要がある。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- SOFCアノードガス再循環用次世代ブロワの開発
- 事業実施年度:
- 平成24年度~平成26年度
- 研究開発の目的:
- モーターの回転動力を流体エネルギーに変換しながら伝達し、高温ガスの有する熱エネルギーを殆ど損失することなく送風可能な動力伝達装置である高温ブロワを、低コスト化、小型・軽量化、長寿命化する
- 事業化の状況:
- 三菱日立パワーシステムズ社、富士電機、米国GE社を含む国内外SOFC開発メーカーに多数台納入済みであり、世界展開を準備している
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