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短期と長期の両輪による計画作りや実験と理論解析の連携により、角度精度の高精度化を実現

(左から)多摩川精機株式会社 田村様、小島様

角度標準の研究会活動での繋がりから自己校正型ロータリエンコーダの製品開発をスタート

このテーマをはじめたきっかけを教えていただけますでしょうか。

1998年に公益社団法人精密工学会内に設置された「ロータリエンコーダの角度標準とトレーサビリティに関する研究会」(エンコーダメーカ、ユーザ15社、4大学、産業技術総合研究所(産総研)の委員、計35名)に参加したのがきっかけとなっている。
当時、長さや質量については国家標準器があり、これを頂点とする計量標準のトレーサビリティ体系が確立されていたが、日本には角度の国家標準器が無かったため、本研究会ではロータリエンコーダの高精度校正技術を用いた国家標準器の開発について議論していた。2年間続いたこの研究会の成果は、その後、2003年に開始される角度の「計量標準供給制度」に大きく貢献することになる。この時、産総研は「等分割平均法」という自己校正原理を用いたロータリエンコーダ校正装置を国家標準器として開発しており、当社も同原理による装置を自社開発し角度の校正事業者となった。
それから数年たつが、ある技術展示会で産総研ブースを訪ねた際に、研究会の委員であった産総研の渡部氏と再開する機会があった。渡部氏は国家標準器と同じ「等分割平均法」による自己校正機能を持つ高精度ロータリエンコーダ「SelfAエンコーダ」と、回転軸の軸ガタを検出する機能を持ったロータリエンコーダ「SelfA+エンコーダ」を開発していることがわかり、大変興味を持った。さらに渡部氏はエ・モーションシステム株式会社とともにサポイン事業に申請する準備をしているところであることを知り、当社もタイミングよく参加させてもらうことができた。

どのような着想から研究開発テーマや目標を決められたのでしょうか。

ロータリエンコーダには主に光学式と磁気式がある。光学式はガラス円盤に分度器のように描画された微細な目盛り線の位置を光学的に検出する方法であり、高い角度精度を得ることができる。一方で、磁気式は円盤の側面をSとNに磁化させ、これを光学式の目盛のように磁気的な目盛として検出する方法である。均一な磁化を施すことが難しいため、一般的に光学式のように角度精度を上げることができないと長年言われてきた。しかし、磁気式は耐油耐水性や振動、衝撃など耐環境性の面では光学式よりも優れているため、もし光学式と同等レベルの角度精度を実現できれば、光学式を導入している企業にも従来品との置き替えで入っていけるのでは、と考えた。当社ではスピンドルモーター用に歯車型磁気式ロータリエンコーダを製品化していたため、この製品の角度精度の高精度化とスピンドルモーターの軸ガタ検出による故障予知を狙った。
歯車型磁気式ロータリエンコーダは、本来は動力の伝達を行うための歯車の歯をエンコーダの目盛とみなすため、角度分解能も低く、角度の高精度を期待することは到底できない製品である。しかし、「SelfA」や「SelfA+」の技術を応用すれば高機能化できるのではないかと考えた。そのため川下製造事業者からの助言やエンドユーザから提供してもらったデータに基づいて、競合技術の状況と優位性の把握を鑑みつつ、これくらいの性能があれば光学式からの置き替えも可能だろうという見込みを立てて、かなりチャレンジングであったが「角度精度±10秒以下」、「軸ガタ検出感度1μm以下」という目標値を定めた。

棲み分けできる同業者や事業化を念頭においた川下製造事業者との体制作り

サポイン事業を始めるにあたり、元々お付き合いのある企業や機関と研究開発体制を作られたのでしょうか。

産総研や大学の先生とは以前からお付き合いがあったが、共同研究先の企業や支援機関については初めて一緒に組んだ相手であった。
共同研究企業であるエ・モーションシステム株式会社は、すでに光学式ロータリエンコーダで渡部氏の「SelfA」を製品化している企業だった。当社とは企業同士のお付き合いはなかったが、担当される方は、以前大手電機メーカに在席されていた際に角度標準の研究会の委員を一緒にやっていた方だった。産総研とエ・モーションシステム株式会社と共に共同研究者として研究体制を組んでもらうこととなった。

事業管理機関やアドバイザーとは、どのような経緯で組まれたのでしょうか。

事業管理機関の長野県テクノ財団は、今回初めて一緒にやらせていただいた。当初考えていた他の支援機関は対応ができないことが分かり、長野県テクノ財団の窓口にメールでご相談したところ、コーディネータの方から連絡があり事業管理機関となっていただけることになった。
アドバイザーについては、やはり以前の角度標準の研究会の委員であった静岡理工科大学の教授に原理研究を支援していただくこととなった。また企業関係では、事業当初、長年のお付き合いのある川下メーカを中心に検討して三菱電機株式会社、東芝機械株式会社の方に入っていただいた。また、研究開発を進める中で本装置を実際に製品に搭載してもらえそうな企業である、株式会社三共製作所にサポインの3年目になってから新たに参画いただいた。研究開発成果を事業化にむけて加速するためには、タイムリーかつ柔軟に判断して、研究期間の途中であっても、事業化に結びつくと思われる企業を研究体制に追加することも必要だと思う。

社内の実施体制について工夫された点を教えてください。

社内では研究部門から本テーマをボトムアップで提案をしていった。単に経営層に対して提案をするだけでなく、例えば社内の技術報告書に、サポインの研究開発成果の論文発表データや担当した設計者の名前を掲載してもらうなど、サポインの活動を皆に知ってもらえるよう色々な工夫を行った。また社内では、ボトムアップで新しいテーマを提案していくうえで、本テーマが補助金対象であることが社内での調整や相談もしやすい状況であった。
研究者体制はですが、開発メンバーは9名おり、そのうち6名は、実際に製品設計をするように動いてもらう必要があるため現業の設計部門から入ってもった。全員で開発するという気を持ち意識的に全員に役割を分担、研究開発会議や全体会議にも出て貰ったりしながら、サポインに対するモチベーションを高めてもらった。当社は受注生産のような形の業務も多く、お客様の要望に合わせて動くことも設計者の仕事となるので、現業だけで手いっぱいであったが、その合間の時間を縫って研究をする、という形で進めた。そうしないと、このような新しいテーマへの挑戦はできないと思う。
またアドバイザー各社が参加する全体会議には、当社の営業担当にも参加してもらった。受注するには営業担当が川下のメーカに仕事を取りに行くことになるが、会議に各アドバイザー企業の担当営業として一緒に参加してもらうことで企業(技術研究員個人)とのパイプを作ってもらうよう努めた。若い営業担当だと営業に行くのになかなか躊躇してしまう場合もあるが、その研究所や研究員と共通の技術的な話題を持っていれば仕事を取りに行きやすい。事業化を念頭に、そういうパイプ作りも意識して進めていた。

長期と短期の両輪での計画づくり、長所を生かしたチームワークが大事

研究開発を進めるなかで最も難しかった点を教えてください。

当社は歯車型磁気式ロータリエンコーダの自己校正を行う磁気センサ開発を担当した。その中で歯車の周囲に複数個のセンサを配置し「SelfA」の自己校正機能を持たせるが、自己校正機能を評価する装置も開発し、これにより各センサの角度誤差の測定・評価を行った。
サポイン事業の1年目は、歯の形状や歯車とセンサの隙間間隔など様々な条件でデータを取得しました。測定には、新規開発という多くの未知のパラメーターが存在し、データ量も非常に多くなってくるが、結果の判断が振り回されないよう常に理論と実験データの整合性を図りながら進めることが重要だった。本研究の中では、やはりデータを取得する度に想定外の新たな問題点が確認され、その都度、三社による研究開発会議で検討し対策方法を模索しながら成果に繋げてきた。
研究開発を進めるうえでは、基本的なことだが計画策定が大事だと感じた。研究をどの様に進めていくか、ストーリーを作るように長期的な計画と短期的な計画を十分に練りながら進めていかないと、研究全体が当初の目標と異なる方向に行ってしまう可能性がある。最終的には落としどころがあるとは思うが、当初の想定通りには進まないので、一歩ずつデータ測定、検証を繰り返し積み上げていくことで、イメージしている方向にもっていくことが大事だと思う。

モータに取り付けた角度精度±10秒を達成した歯車型磁気式ロータリエンコーダ
(1次試作製品形状外観)
自己校正原理評価装置と試験風景

新しい挑戦や課題の解決に対して、貴社としてどのように取り組まれたのでしょうか。

従来から歯車型磁気式ロータリエンコーダを製造していたものの、本研究内容は、全く新しい取り組みなので知識も不足していた。これまで歯車型磁気式ロータリエンコーダのデータの解析はアナログ的な切り口による評価であった。しかし当事業では新たに角度精度を評価する自己校正原理評価装置を導入することで、定量的にデータを取得、解析するという新しい手段を得た。1年目は産総研に通ってデータの測定を行い、理論など基本的なところを吸収することに努め、2年目からこの原理評価装置により自社内でデータの測定と解析を行うことができるようになった。
社外の共同研究者の皆さんとは、月1.5回のペースで研究開発会議や推進委員会を開催、新しく発生した問題点の把握や対応策の検討、アドバイザーからのアドバイス収集、今後のスケジュール決めを徹底して行っていった。課題解決には、関係者それぞれの強みがあり、理論と実験をうまく組み合わせてやれたことも目標以上の成果が得られた理由だと思う。例えば、産総研で行ったシミュレーションの中で特別なモード中に異常が起こるということが分かれば、それをすぐに当社の実機で確認・検証し早めに課題に気付き、対応をすぐにとることもできた。やはり、実験データとその理論解析との整合性を常に図りながら、チーム内で連携して課題に取り組むことが出来たことが功を奏したのではと思う。

次のサポインへの挑戦と川下との綿密な連携で、更なる高機能化と事業化の加速を狙う

今後の事業化に向けた見通しを教えてください。

今回、本件の継続テーマについて、新しくサポイン事業に採択してもらった。機能・性能・仕様をさらに高機能化した開発目標に取り組みながら、川下製造業者であるアドバイザーと共に実機搭載に向けた取り組みを開始している。実際に川下製造業者の製造している装置の中に、このロータリエンコーダを搭載してもらい、事業化に向けて評価をしていただく予定でいる。
また川下製造事業者とは絶え間のない密な関係作りを意識している。これまでも定期的な技術会議などを開いており、設計者の中には30年来のお付き合いの方もいる。お互い気兼ねない間柄であり、率直な意見交換をし、納得して動いてもらえる、会社内外にかかわらず人と人の繋がりがあってこそ人は動いてくれるものであるし、それは今も昔も変わらないと思う。サポイン事業だけでなく、そういう人脈作りを大切にしている。
また製品化に必要なコストターゲットを実現させるため、今回のサポイン事業の資金の範囲ではできなかった集積回路やセンサ等の量産化部品・素子の開発についても進めている。さらに今回のサポイン事業の開発成果は、高精度化の手法を適用することで、当社の他の製品にも展開していくことも、当初から狙っている。

サポイン事業を効果的に利用するうえでのメッセージ、アドバイス

今後サポイン事業へのチャレンジを検討している企業に対してアドバイスをいただけますか。

私が本テーマの実現に向けて一番自信がついたのは、共同研究者ばかりでなく川下製造事業者などのアドバイザーの人たちがいてくれることで実現できそうな雰囲気ができてきたことである。サポイン事業は基盤技術の事業化のための補助金なので、出口である川下製造事業者がいないと始まらないし、彼らがアドバイザーとしてうまく動いてくれる体制になっていないと提案はできない。彼らが快くアドバイザーになってくれることで、何とかなりそうだと勇気が湧いてくるし、研究開発中に課題が発生して方針を変える場合も、川下製造事業者のニーズや意見といったものがベースになる。形だけでのアドバイザーではなく、アドバイザーとして機能していただける人に入ってもらう体制作りをすることで、一丸となって動けるようになると思う。
またサポイン事業をやったことで開発のやり方も以前に比べ進化してきている。例えば、エンコーダの角度精度測定や測定データの解析方法は、より定量的な手法を取り入れたことで、定量的な解析に裏付けられた結果が短時間に得られるようになっている。これまでは、やればできる、という頭はあってもなかなかできなかったが、サポイン事業を通じて新しい技術に実際に取り組んだことで、現業のステップアップにも生かされていると感じている。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
回転軸の軸ガタ検出機能を付加した自己校正型ロータリエンコーダの開発
事業実施年度:
平成28年度~平成30年度