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的確な市場ニーズの把握を踏まえて、関係者の密なコミュニケーションを通じ問題発生が少ない研究開発を実施

株式会社石橋製作所 製造本部 製造副本部長                 諌山 勝己氏(写真前列左)
          技術部 開発課 課長                  原田 英明氏(写真前列右)
公益財団法人飯塚研究開発機構 専務理事 兼事務局長            福澤 信義氏(写真後列中央)
                研究開発部長                田上 真人氏(写真後列左)
                研究開発部 事業課 専門研究員(工学博士) 林 伊久氏(写真後列右)

市場ニーズを踏まえて、サポイン事業の開始前から着実に実施体制を準備

研究開発を開始したきっかけを教えてください

風力発電機は、単体での発電効率を上昇させるために大型化が進んでいる。風量発電機に搭載されるギアボックス(歯車装置)は構造的に風力発電機の上部に設置されるのだが、大型化による製造・設置難易度やコスト上昇を抑えるためには小型・軽量化が期待されていた。一方で、壊れても簡単には修理ができないことから、軽量化の追求とともに、性能面での信頼性も同時に確保しなければならないという課題を抱えていた。
これらの課題は業界では以前から指摘されており、当社の研究開発の延長線にあるテーマであった。一方、設計レベルでは実現可能性が高いアイディアはあったのだが、実際に現物を作って負荷試験で性能を確認するというところまでは踏み込めていなかった。市場が求める製品を開発するために当社としてやらなければならないアプローチへとつながる研究開発として、サポイン事業に応募した

サポイン事業の存在は当初から知っていたのですか

事業を知ったのは、飯塚研究開発機構(以下、機構)より当社へサポイン事業の紹介をいただいたことがきっかけだ。機構の専門家は担当域内の企業の状況に非常に詳しく、本事業の実施に当たっては開発実施体制のコーディネートや提案書作成への多くのアドバイスをいただくことができた。

研究開発の体制作りは、サポイン事業が開始される前より準備を進められていた、と伺っています

平成22年の11月頃には、現在の研究開発体制を構成するメンバーが集まり、初回のミーティングを開催したと記憶している。サポイン事業への応募が翌年の6月くらいだが、その半年ほど前から何らかの形で研究開発の下準備が始められていた。

開発した試験用増速機
五等配で片持ちの遊星構造

製品を世に出すことを強く意識して研究開発のゴールを設定

研究開発のゴールはどこに設定していたのでしょうか

研究開発のゴールは「事業化間近」の状態だと考えていた。風力発電機は「大型化」が大前提とされていたので、大型化に対応しない増速機を開発しても市場には受け入れられにくいと考えられた。風力発電機の大型化に対して、当社がどのようにしてギアボックスの大型化を最小限に抑制できるかという点が研究開発の大きな焦点だった。
通常、新規製品を作る場合は、その製品をどうやって売るかという点での悩みは尽きないだろう。本研究開発の場合は、顧客の性能面へのニーズを満たす製品を作ることで売れるのではないか、という認識を持っていた。技術の完成自体がゴールであり、それはそのまま商売に結び付くと思っていた。

製品を世に出すことを重視されたのですね

製品の将来トレンドがほぼ見えている中、顧客のニーズを満たす製品を他社に先駆けていち早く世に出すことは非常に大事なことではないかと思う。
今回の研究開発は増速機に全く未知の動作機構を導入するようなものではなく、原理的な突き詰めや実証には必ずしも時間をかけなくてもよかった。サポイン事業の期間は限られているので、当初から目標を「事業化間近まで到達しなければならない」と設定したのは妥当だったように思う。

風力発電機の原理や動作のトレンドも併せて把握されていたのですか

今回我々が開発した製品のようにギアボックスを使用した風力発電機もあれば、ギアレス方式や第3の機構による風力発電機も市場には存在する。製品を開発する上で、どの機構による風力発電機が今後どのような形になりうるのかを把握することで、将来的に息の長い要素技術の活用や応用方向性の検討につながるのではないだろうか。
今回の研究開発の中でいうと、増速機のコンパクト化に付随して開発したある要素技術は、当初狙っていたコンパクト化を超えて更なるコンパクト化に応用が可能である。製品の将来的な技術変化や可能性を考慮していたことで、市場に製品を出すことのみを目標とするのではなく、将来にもつながる研究開発を実施することができたように考えている。

経営トップのコミットメントを得て研究開発を強力に推進

今回の研究開発を実施する上で、社内でより円滑に進める上でどのような取組みをされたのでしょうか

完成した増速機の試運転風景

具体的にはサポイン事業は研究開発用の製造番号を発番して、他の製品と同様に製造ラインの中へ投入する形で部品製作や組立を実施した。本来、工場業務は顧客依頼製品の製造が最優先である。サポイン事業自体は顧客依頼製品ではなく研究開発である。工場では既存製品の生産管理やライン工程があり、今回の研究開発のためにラインを使用することで、納期がある製品生産に影響することもあるかも知れない。そういった意味において両者を同一ライン内で製造する事に対する違和感が自分の中にも在った。サポイン事業の研究開発は、顧客依頼の製品と同様に対価をもらって実施していることであり、この点は基本的に同じことであることを社内にも理解してもらうように苦労した。
当社の歴代社長は、将来的な技術開発の必要性を強く認識されている。将来的な技術開発の必要性と、その為の投資に対するトップの強い想い・後押しと理解があったからこそ、今回の研究開発をやり切ることができたように思う。

関係者の密なコミュニケーションを通じて、問題の発生を最低限にコントロール

想定外の課題は発生しませんでしたか

改めて振り返って大きな問題は発生しなかった。何かトラブルが発生しても、対応はさほど問題なくできていた。

改めて振り返って、大きな問題が発生しないようにどのような点を工夫されましたか

社内だけではなく取引き先に対しても色々なアドバイスをもらうように心掛けた。特にサポイン事業の予算管理や進捗管理については、機構から様々なアドバイスとともに調整にも入っていただいた。
今から考えると、何か問題が発生した時に初めて相談をするというよりも、様々な機会を通じてその時点での問題意識や懸念点についてコミュニケーションを取っていたことで、問題が大きくなってお手上げになるようなことにはならなかったようにも思う。想定外の問題が発生しなかった背景には、関係者のコミュニケーションが大切なのではないだろうか。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いいたします

まずは計画を立てることが大切になると思う。市場に出して売れる商品を作るためには、市場のマーケティングをする必要がある。様々な可能性を考えて事前に計画を立てるとよいのではないだろうか。
また、事業者の目線で一緒に考えてくれるような協力者、例えば事業管理機関がいると心強い。一緒に悩み一緒に事業化までを実施するところが必要だろう。我々としては特別なことをしてきたとは思っていないのだが、考えていた計画が予定通りに実行できるように、事前の準備や将来的な見通しを着実に進めることが、事業化への近道であるように思われる。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
風力発電の大型化に対応する為の新構造設計と新加工技術を盛り込んだ小型・軽量な増速機の開発
事業実施年度:
平成23年度~平成25年度
研究開発の目的:
風力発電機用増速機の性能と信頼性を維持したままで小型化・軽量化を実現するために、風力発電機用増速機に要求される性能(精度・強度)を向上させる新構造設計と新加工技術の研究開発を行う
事業化の状況:
サポイン事業終了時点で実用化に成功した段階
今後は、フレキシブル遊星ピンのQCD性能向上や、歯面加工粗さ向上のための新加工方案の低コスト化等の目標に向けて、引き続き研究開発を続けていく予定である