FPC化で劇的に変わる自動車産業を先読み!
投資家が注目する長尺シームレスレーザー直接露光装置を開発
サポイン事業メンバー
(中央)代表取締役 執行役員社長 菅原 雅史 様
自動車産業の未来を変えるフレキシブル基板(FPC)
今回の研究開発が始まった背景を教えてください。
当社は、半導体など電子回路基板の最終外観検査装置メーカーである。
1994年に創業し、自立したメーカーを目指して検査装置を開発してから、いわゆる「開発型」のメーカーとして、つねに新しい技術への挑戦を続けてきた。
現在、自動車業界は「CASE」(※)によって電子化が進み、車内のすみずみに、高性能コンピュータや各種センサーを張り巡らせている。例えば国産の某高級車は、配線だけで100㎏以上の重さがある。CO₂削減のために軽量化が求められている中、その100㎏をいかに削減させるかが課題となっている。そんな中で注目されてきたのが、柔軟で軽量なフレキシブル基板(FPC)だ。取引先からは、数年前から従来のワイヤー製ハーネスからFPCへの置き換えを求める声が聞かれはじめ、関心の高さを感じていた。
※Connected:コネクティッド、Autonomous/Automated:自動化、Shared:シェアリング、Electric:電動化
FPCはすでにスマートフォンやパソコンなどに活用されていますが、なぜこれまで、自動車分野にはFPC製ハーネスが存在しなかったのですか。
既存のFPC向け露光装置は、エレクトロニクス製品向けに開発されたものである。露光範囲はパソコンのマザーボード並みの600㎜角程度。これを自動車向けに製造しようとすると、必要とする長さ(3000~6000㎜)に足りず、継ぎ目が発生してしまう。
継ぎ目は、配線の不具合のリスクも高まる。万が一断線などの不具合があれば、人命にも関わる重大事故を引き起こしてしまうだけに、大きな課題となっている。また、個別IDによる品質管理を行うことも検討されている状況だ。
しかし自動車産業のFPC化は、いよいよ活発になるとみられている。先日、アメリカのEVメーカー・テスラ社は、ワイヤーハーネスを削減し、FPCにシフトすることを発表した。モデルSのワイヤーハーネスは3000m、モデル3は1500mあるが、新たに発売されたモデルYは、ほとんどをFPC化したことによって、わずか100mになったという。今後は、他のメーカーも追随し、FPCの時代となるだろう。現在、長尺FPCをシームレスに露光できる直描露光機がないため、当社開発品は、そこでも圧倒的な差別化ができると考えている。
すでにある技術の融合から新しい価値が生まれることも
着想の原点はどのようなところにありましたか。
(ロングサイズシームレス直接露光装置)
サポインを始める半年前、フレキシブル基板(FPC)において世界最大手企業の開発責任者から「ある自動車メーカーからの依頼で、FPC置き換えの試作をしているが、インスペックさんなら、長いものを継ぎ目なしで長尺露光できる直描露光機が作れるのではないか」と話があった。当社には、長いFPCを切れ目なしに検査するというロールtoロール方式の検査装置がある。もともとロール状で検査しているのだから、露光装置も同じようにできるのではないか、というのだ。その時、「フレキシブル基板をロールから取り出し、配線パターンを描画し、そのままロールに戻すことができる描画装置」の絵が頭に浮かんだ。
その検査装置は、精密ドラムが連続回転して、末端のところで巻き取られるという形になっている。精密ドラムの上には、照明とカメラを据え付け、連続して検査することができる。これをベースマシンとして、露光の方法については、いわゆる「レーザープリンター」の技術を応用した。レーザーであれば、曲面でも連続で露光することができる。もともと昔からある技術だが、ドッキングさせれば、例えばコンピュータと電話の技術がスマホを生んだように、これまでにない新しい価値観を生み出す。こういう発想は今の時代、とても大切だと思う。今ある技術も、振り返ってみれば解決の糸口となるかもしれない。
開発前から最終的な製品の形を明確に描いておく
世界初の画期的な開発でありながら、スピーディに完了した理由を教えてください。
「RD3000」
2018年にサポイン事業に申請し、2019年に評価用プロトタイプが完成。2か月後には、製品版の開発に着手し、約半年を経て初期モデルの開発を完了させることができた。この流れは、非常にスムーズだったと思う。それは、最終的な製品の形が、一貫して明確であったからである。さらに当社開発の検査装置をベースマシンとしてほぼそのまま活用できたので、開発する要素が少なくてすんだということがあげられるだろう。
社内の体制については、「DI(ダイレクトイメージャー)プロジェクト」を立ち上げ、1年目は3名、2年目は6名のメンバーで進めていった。こうしたプロジェクトを組閣する際、メンバーは多くてもよいが、トップには必ず明確な先導役が必要だ。開発がうまくいかなくなると、方向性を見失いがちだからである。その中でトップは、すべてを見通す「神」の立場となり、責任を持って最終意思決定を行っていく。その一貫性が、プロジェクトの進む道を確かなものにしてくれる。
開発のパートナーとはどんなことを連携し、進めていきましたか。
解析・評価は秋田県産業技術センターにお願いした。開発前から応募にあたって様々な検討、研究開発項目の整理、年度ごとの研究計画策定などの助言を受けた。
そして、レーザーを使った露光機の開発を行うために探し出したのは、高いレーザー技術を持つ国内のベンチャー企業。全面的にご協力いただき、その技術も譲っていただけることになった。というのもこの会社は、開発会社だが、当社のように国内外の様々な会社に装置を納入することになると、人手がなくメンテナンスが難しいため、当社がその役割を行わなくてはならないためである。こちらではおもに初年度の開発において原理の解析、試作、精度のあげかたについてアドバイスをいただいた。
また、露光のあとには現像やエッチングといった作業があるが、社内には小さな装置しかないため、FPCの大手メーカーに協力をお願いした。一連の流れで機能する製品であることも検証しただけでなく、顧客の立場として製品のスペックや機能、価格帯などのアドバイスもいただき、製品づくりに役立った。
サポインをうまく活用し、技術力を武器に市場に切り込もう
サポインを活用しようと考えている企業に向けてアドバイスをお願いします。
当社はこれまで様々な補助金を活用させていただいたことで、高い技術を得ることができ、競争力を持つ企業として大きく成長させることができたと思う。補助金を活用するにあたって、一貫しているのは、補助金を活用しなくても開発する予定だったものをテーマにしているということだ。
サポインありきで開発するのは、苦しいだろうと思う。やりたいことが明確にあって、それを実現するための補助として制度を活用するのが良い。すぐに製品化できないこともあるだろうが、サポインの性質上、あまり遠くない将来に利益を出せるよう、事業計画をしっかりと立てておくべきと考える。
また、開発のテーマは、企業の体力を超えるものであってはならず、製品化したらある程度は売れるという裏付けのもとに、決定すべきだと考える。すべてが成功というわけでなく、期待外れという時もある中で、ありがたいのは、補助金を活用させていただくと、思い切った開発ができるということだ。生まれていない市場に対して製品を作るというのはリスクが高すぎて、補助金でもない限り、企業ではなかなか思いきることができない。補助金をうまく活用すれば、新しい技術開発を武器に市場に切り込むきっかけとなるだろう。
ちなみに、今回の開発に関して、売れるという目算によって進めたというよりは、将来こういう時代が必ずやってくる、その時にはこれがなくては困るんだ、という強い考えが根底にあった。FPCハーネスは、将来的に必ず需要がある。電気自動車の世の中になると、より軽量化したシステムにしなくてはならないからだ。FPCの製造装置の中で、最初に使われ、最も重要なものが露光装置。継ぎ目なしにずっと露光できるというのは、他では存在せず唯一の装置と言ってよいだろう。自動車分野は配線一つ間違えば命を落としかねないので品質はとても重要だ。そういうところは審査の時も評価をいただいた点だ。
今後の予定や将来への展望について教えてください。
FPC向けロールtoロール型検査装置の顧客開拓はすでに進んでおり、21年4月期営業利益は前期比3.8倍の1億7000万円と急回復見通しにあり、今後も大幅増益を見込んでいる。そのうえで、今回完成した「ロールtoロール型シームレスレーザー露光機」は、記者発表時には株価が6倍に跳ね上がるなど、投資家たちの期待の高い製品。早く早くと急かされている状況だ。
コロナ禍で営業の機会を失っていたが、まずは、2021年1月20日~22日に東京ビッグサイトで開催される「第35回ネプコンジャパン」に参加する。今後も様々な機会を利用し販売に向けてアピールしていきたい。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 自動車産業に革新的生産効率を提供するロングサイズFPC向け直描装置の開発
- 事業実施年度:
- 平成30年度~令和1年度
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