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食中毒リスクのない安心・安全かつ新鮮な刺身を提供したい

 (上段左から)
株式会社ジャパンシーフーズ 商品開発 中村 謙吾 様
株式会社ジャパンシーフーズ 商品開発 鬼塚 千波里 様
(下段左から)
株式会社ジャパンシーフーズ 代表取締役 社長 井上 陽一 様
国立大学法人 熊本大学 博士(工学) 浪平 隆男 様

高コストの手作業除去に代わる、アニサキス殺虫技術及び装置ニーズ

今回の研究開発が始まった背景を教えてください。

生食用鮮魚分野では寄生虫アニサキスによる食中毒が問題となっている。これを防ぐには、冷凍による殺虫、または目視による手動除去しかなく、冷凍は身質劣化による商品価値の低下、目視は確実性や人件費、処理数の制限など課題がある。長年、水産業界全体を悩ませてきたアニサキス問題であるが、とりわけ水産加工業の中でもアジとサバの生鮮加工食品を扱っている当社は、常にリスクを抱えている。
実際、年間に数件のアニサキス事故が起きている。最終販売者責任になるため、当社に法的罰則があるわけではないが、当社の商品を販売したスーパーが事故を起こし、販売停止になった事例もあり、信頼面でも金銭面でも大きな損失となっている。取引停止になった場合は、取引額によっては年間億以上の損失になることもあり、当社にとっては、この問題が常にアキレス腱であった。

今回のサポイン事業に応募するまでの経緯を教えてください。

これまで、アニサキスへの対策としていろいろな研究を行ってきた。例えば、アニサキスはブラックライトで光るため、紫外線LED装置を使った目視チェックを行った。市販のLEDライトは光量不足で暗室でないと使えないため、明るい場所でも使える超高出力の紫外線LED照射装置を開発した。しかし、アニサキスが身の深いところに潜り込んでしまうと、視認不能となり、すべて除去することは不可能である。かつ、ヒューマンエラーによる見逃しもある。他にも、X線、テラヘルツ波、近赤外線などいろいろ試したが、どれもうまくいかなかった。
抜本的解決策としてたどり着いたのが電気だった。電気については、初期に実験を行ったが、アニサキスは死滅できたものの、魚身(フィーレ)にも熱が入りすぎて煮えてしまい、失敗に終わっていた。その後、熊本大学の浪平先生のもとで、瞬間的に高電圧大電流を流すパルス照射を行ったところ、アニサキスを殺虫できたため、低コストかつアニサキスを完全に死滅させるパルス装置開発のため、サポイン事業に応募した。

パルスの研究開発を進めるにあたって苦労したことはどんなことですか。

エネルギーを入れればアニサキスは死ぬが、その分フィーレのダメージも大きくなる。アニサキスを100%殺虫し、その上で刺身として美味しく食べられる、エネルギーの見極めが一番難しかった。また、パルス殺虫装置を開発して、それで処理したものを出荷するところまでを目標に掲げていたので、殺虫装置の仕様を決めるのにも苦労した。実験パラメータとして、水温、フィーレの量、ショット数、パルスのエネルギーなど、全部を網羅的にやっていては時間ばかりかかってしまう。短時間で最適条件を見出す品質工学の手法を応用して、必要最低条件を探りながらプロトタイプ機の仕様を決めていった。
また、エネルギーの見極めには、アニサキスの生死条件を確立する必要がある。アニサキスにもアジにも個体差があるため、個体差を吸収するには実験回数で担保するしかない。延べ5万匹のアニサキスを、処理直後・24時間後・48時間後の3段階に分けてつつき、物理的刺激によって動くか否かで生死の判別を行った。仮死状態や蘇生することもあるアニサキスは、24時間後に動かなかったものが48時間後に動き出すこともあり、生死の判別に人手と時間がかかった。

研究開発を進めるにあたっての課題はありましたか。

パルス殺虫装置は、高電圧大電流の電気エネルギーを使っているため、一歩間違えると大事故を引き起こす可能性がある。当社の工場に設置するにあたり、どのような形態だと作業者が使いやすいか、安全を保つにはどうしたらよいか、操作性・安全性・耐久性等の試験を行い、様々な課題をその都度解決して、最終的な仕様を決めていった。

サポインを活用してよかった点はどんなところですか。

中小企業は、開発にまわせるお金にも限りがある。高額な装置になるため、資金を支援いただけたのは大変ありがたかった。また、中間審査等で外部識者から助言をいただけること、開発期間が3年間と区切られるので、ゴールを見据えてスケジューリングできることなどもサポインの魅力である。

今後の課題や事業化の見通しを教えてください。

完成した試作機設置状況(ジャパンシーフーズ加工工場内)

バッチ式のプロトタイプ機は、既に稼働し、出荷まで行っているが、どうしても処理量が不足している。現在、新たにプラントメーカーに加わってもらい、大量処理できるコンベア式の次世代機を開発中であり、2年後の完成を目指している。まずは、当社での導入を目指し、いずれは、外部販売することで、広く水産業界に普及させることを目指している。

参画メンバー全員が共感できる、ぶれないビジョン

今後、サポインを活用しようと考えている企業に向けてアドバイスをお願いします。

それぞれ利害関係のある産学官の共同研究になるため、ぶれないビジョンを掲げ続けることが大事。当社の利益だけを考えれば、装置販売はせず、技術を独占した方がいい。しかし、利益だけを推し進めても誰もついてこない。大義名分として、これは純粋な想いでもあるが、「水産業界からアニサキス問題をなくしたい」「アニサキスによる食中毒のない世界を実現したい」という目的を掲げ、そのために装置を広く販売していく。誰もが共感できるような、誰もが参加してよかったと思えるようなビジョンを掲げることが大切だと思う。

サポイン技術情報
プロジェクト名:
食中毒リスクフリーのための高電圧大電流処理による革新的アニサキス殺虫装置の開発
事業実施年度:
平成30年度~令和2年度