サポイン事業を活⽤して、「危機感+将来の有望分野の課題探索+⾃社の強み技術」から事業構造を変える戦略の瀬踏み、製品開発に成功
⾼砂電気⼯業株式会社 営業・技術部開発課 内藤建⽒(写真左)
アカデミアからの最新情報をもとに、将来の成長分野に沿った保有技術の横展開を企画
研究開発を開始したきっかけを教えてください。
分析装置のバルブ製造に特化してきた。疾病の診断に使われる⾎液分析装置や、環境分析装置、液体クロマトグラフのバルブで、特に耐腐⾷性電磁弁については60%の業界トップシェアを占めている。競合メーカーが診断⽤、分析⽤装置のバルブへの進出を伺っている現状から、20年来、危機感を常に感じて、既存技術の横展開、さらには海外の市場展開、既存技術の分析装置以外への展開の出⼝を探索してきた。東京⼤学⽣産技術研究所の藤井輝夫教授から、「マイクロTAS分野で最近論⽂のキーワードで最も多いのがcellになってきた、世界的に注⽬を集めてきている」との情報を得た。
テーマ設定に⾄った経緯を教えてください。
名古屋中⼩企業投資育成(株)からバイオ分野の数社を紹介してもらい、その中に(株)リプロセルがあった。IPS細胞の培養は培地消耗の度合いが⾼く、培養液を毎⽇交換しないとうまく育たない。毎⽇交換、休⽇出勤しないといけない。培地の交換であれば、技術的には簡単にできるが、ビジネスとして考えると⾦型の初期費⽤がかかり、ハードルが⾼いことがわかった。
近年iPS細胞の実⽤化が推進されているが、既存の⾃動培養装置は⼤型、⾼額のため⾃動化がほとんど進んでいない。本開発では研究者などからも上がった⾃動化ニーズに応え、⼩型かつ低コストの⾃動培養装置、3,000円程度を本開発品のディスポーザブル部分の⽬標販売価格として、研究開発を⾏った。再⽣医療の実現に向けた法規制の緩和により、企業での受託培養が可能になるため、多くのベンチャー企業がこの領域での受託培養事業に参⼊することが⾒込まれ、市場拡⼤が期待できた。
開発目標に必要な要素技術を持った機関による研究体制の構築により、ユーザーの許容範囲を満たす製品設計に成功
実施中に直⾯した問題はありましたか。
製品の価格が初期の設計ではユーザーが許容できる範囲内に収めることができなかった。そのため、流路の切り替え機構などの⼤幅な設計変更をすることでコストの削減をおこない⽬標の価格にすることができた。この⾒直しで3か⽉程度を費やしたが、最終的には挽回できた。これには、共同体制を組んでいた(株)アクアテックの技術も⼤きく貢献し、スムースに⽅向転換できた。新規に開発したポンプの性能が良く±10%以内の誤差での培地供給が可能であるため、廃液⽤に開発した6chポンプを培地供給側にも採⽤する設計変更をしても機能を満たすことができることが判明した。これによって、流路切り替え⽤のバルブなどが不要になり使い捨て部分のコストを⼤幅にコストダウンできた。精度が重要な⼀部のパーツを除き成型化も⾏い、製品単価を⼤きく下げた。防⽔かつ電池駆動で最⻑1週間程度装置を駆動させるコントローラーを開発した。価格を13万円に抑え、インキュベーターなど、既存の資産を活かせるので導⼊し易い。PCT出願を⾏っている。
新規分野の将来技術動向を把握するためのネットワークの構築、情報収集
情報収集、ネットワークの構築の状況についてお聞かせください。
ニーズ調査は、実際に学会展⽰やユーザー訪問による直接のヒアリング以外にも、試薬メーカーや理化学機器商社と関係を構築し、彼らの取引先である研究機関や創薬メーカーにヒアリングを⾏ってもらうこと等で確認していった。また、調査で確認したニーズや市場動向は積極的に取⼊れを⾏った。主な例として、細胞培養研究者に本装置を使ってもらい、雑菌による汚染が発⽣しづらい上蓋ノズル配置、培養液ビン蓋のノズル構成などの配管デザインに取り⼊れた。その他にも、「試薬導⼊⽤ノズルが欲しい」「流量や交換頻度を変更したい」などの改善につながっていくニーズや、「コンセプトが⾯⽩い」「安い」「条件を振って実験できる」「すぐ欲しい」などのお褒めの⾔葉も確認できた。
今後の戦略展開についてお聞かせください。
製薬企業が使う all in one system への組み込みを期待している。研究開発⽤であるが、⽶国の⼤⼿企業が、顕微鏡化での培養観察ができるシステムを開発している。
愛知県の(公財)科学技術交流財団が主催する研究会に参加、神経組織を培養して⻑期観察をすることを⽬的としている。動物実験が実施できない状況での細胞培養による評価は期待されているが、同時に製薬企業の要求するスペック、例えば細胞や器官の品質レベルを要求されるレベルに維持・調整することなどハードルは⾼い。新しいシステムとして、3D組織培養⽤の3D灌流培養ユニットを開発中である。(国研)⽇本医療研究開発機構経済産業の再⽣医療分野のプロジェクトには注⽬している。
現状は6ウェル、これを延⻑しても24ウェルが限界である。ハイスループットスクリーニングには適⽤できないが、スクリーニングが終わって絞られた段階で、安全性薬理試験や薬効薬理試験では使うことができる。⼈間の臓器を⽤いたorgan on achip やbody on a chip への展開も期待しているので、情報収集を継続している。
成果のPR についてお考えをお聞かせください。
作不良が起こりにくい)
展⽰会以外の媒体の利⽤も考えている。例えば本分野にパイプを持っている商社の活⽤や、ウェブでのリスティング広告などを検討している。
特に⽶国においては、国が再⽣医療周辺産業に対して巨額の投資を⾏うなど産業化に⾮常に⼒を⼊れており、より加速的な市場成⻑が⾒込まれるため、当社の⽶国拠点を活⽤した販売機会も拡⼤している。
トップダウンにより、新規分野参入活動の継続し、技術戦略の瀬踏みを完了
サポイン事業が企業の戦略構築に貢献した要因はどのようにお考えでしょうか。
新規分野への展開が必須との危機感からトップダウンで継続してきた。会社の資源を使っても、その責任をとれる⽴場にあり、決断速度を上げた。開発のための研究員は、⾮専任者も含め、2014年は7名、2015年は9名を投⼊。トップダウンでないとこのような資源投⼊はできない。
また、オーナー企業であり、研究継続を⻑い⽬で⾒てくれることも作⽤した。
サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される⽅や、現在実施されている⽅にメッセージをお願いいたします。
新規分野へは、サポイン事業がなければ踏み込めなかった。資⾦の有効活⽤ができ,⼤変有意義であった。プロジェクトを進めながら、顧客からの課題解決、事業化の視点からの検証、必要な情報収集が望ましい⽅向で回転した。
事業構造を変える戦略の瀬踏みに利⽤できた。次に繋がるネットワーク構築、情報収集もできた。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 既存の培養プレートを利用した自動培地交換ユニットの開発
- 事業実施年度:
- 平成26年度~平成27年度
- 研究開発の目的:
- iPS細胞の実⽤化が推進されているが、既存の⾃動培養装置は⼤型、⾼額のため⾃動化がほとんど進んでいない。本開発では研究者などからも上がった⾃動化ニーズに応え、⼩型かつ低コストの⾃動培養装置の開発を⾏った。
- 事業化の状況:
- ⼩型安価で、市販の培養容器、インキュベーターがそのまま使⽤可能な⾃動培地交換機能を持つ細胞培養装置を開発。展⽰会、そのメディアを通じてPR を展開中である。
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