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メッキ⼯業のイメージを変える毒物を使⽤しない環境調和型プロセスにおいて、⼯程数削減によりコストダウンを達成

株式会社アサヒメッキ 専務取締役                    ⽊下淳之⽒(写真左)
株式会社アサヒメッキ 技術部部⻑                    川⾒和嘉⽒(写真中央左)
地⽅独⽴⾏政法⼈⿃取県産業技術センター 機械素材研究所 特任研究員   今岡睦明⽒(写真中央右)
公益財団法⼈⿃取県産業振興機構 新事業推進部 コーディネーター     ⼩坪⼀之⽒(写真右)

蓄積された技術・事前準備に基づいた計画設計により目標遂行

サポイン事業に応募したきっかけを教えてください。

メッキ会社としては、来年創60周年を迎える⼭陰地⽅の最⼤⼿であるが、産業の乏しい⼭陰地区であり、受注量の約40%は⿃取・島根県、その他は岡⼭・広島・兵庫県が中⼼となっている。関⻄地⽅の価格は全国⼀安く、価格破壊が起こっている。その為、常にコストダウンが求められる現状にある。今、⾃動⾞部品については、軽量化とコストダウンが最⼤の焦点となっている。
5~10年後、⽣き残るための経営とは?と考える中の1 つとして、アルミ需要の伸びも考慮してアルマイト処理を検討した。既にISO9001とISO14001を取得している事もあり、企業⽅針に沿ったプロセスとして、フッ酸のような毒物を⼀切使わない。アルミの表⾯処理において、⼯程短縮かつ毒物を使⽤しないプロセスを検討した。

実施期間中に⽬標達成に影響する問題はありましたか。

アルミ合⾦鋳物はこれまでやってこなかったが、今後のシェア拡⼤を狙った。アルマイトの表⾯処理は技術的には難しい、特にSiが多いと陽極酸化がやりにくいが、特に⼤きな問題はなかった。これまでの毒物を使う⽅法で、アルミ表⾯処理技術のべースが蓄積されていた。2年半の研究開発期間の中で、前半で基礎技術を確⽴し、最終年度は量産を想定した実証化段階に集⼒できた。最初に将来像を描き、⽬算が付けられる開発内容であった。3年後の事業ベースを踏まえた計画は堅実で変更もなかった。要因としては、予備実験、事前準備を⾏い、ストーリーが⾒えていたことが考えられる。

従業員を大切にする企業風土に由来する研究開発目標の設定

環境戦略について教えて下さい。

当社ではもともとフッ酸は使っていないが、毒物を扱うには作業員の安全性に係る設備、処理後の排液処理、汚染度に注意が必要である。そこで毒物であるフッ酸に代わり、フッ化アンモニウムを使ったが、フッ化物、フッ素の量が多いと、排⽔基準を守るために排⽔処理の負担は⾼くなる。この処理が難しい為、合⾦鋳物をやりたいけれど、受注できない所もある。これが改善されると、企業メリットは⼤きく、技術の普及が期待できる。もともとの企業⾵⼟として、従業員の安全と教育に⼒を⼊れてきた。当社会⻑が、⼭陰地区鍍⾦⼯業組合の理事⻑として、同業他社の社員も含め、めっき従事者に対し、めっきの技能向上や資格取得の啓発に努めてきた。

参画機関の役割分担が明確で、研究開発が影響をうけず、目標に向かって専念

プロジェクト実施中の状況を説明してください。

従来技術の特徴と新技術の特徴

⿃取県産業技術センターとは⻑年にわたり深い関係にあり、各種の測定機器により、成膜の評価を担当してもらった。⽶⼦で⽐較的距離も近い。奥野製薬⼯業(株)には活性化⼯程で使⽤する薬品の設計を担当していただいた。⿃取県産業振興機構はプロジェクト管理、⽀援をしてもらった。⽀援を受けて研究開発に没頭できたことは⼤きかった。⽀援がなければ、かなりの時間が割かれることから⼈1⼈を雇わなければならなかったのではないかと思う。4者が協⼒しあって進めることができたが、それができないと企業負担のみが増えたと思う。

コストダウンについてご説明下さい。

従来技術と⽐較して、初期コスト(設備費)が⼤きく低減し、フッ酸⼯程設備に対する優位性が確認できた。また、⼯程簡略化については、活性化、エッチングには複数⼯程があるが、12⼯程が9⼯程になり、所要時間も削減できる。環境技術で実利が得られるもので、中国経済産業局からは、実⽤化可能なコストで技術を完成させるよう、常に要求されてきたが、応えることができた。

ユーザーから高い評価を得ている研究開発に軸を置き事業化を目指す企業方針

ユーザーサイドの評判はいかがでしょうか

⼤⼿⾃動⾞メーカーの関係企業からは、展⽰会を⾒て、全
国のアルミ表⾯処理企業の調査を⾏ったが、当社と同規模の
浴槽を保有している企業は少ないとの事、同企業からは監査を受けて、納品受注企業として認可を受けている。顧客にとっては、⾼品質は当然であり、コストダウンが⼀番の期待であり、⼤きな浴槽、⼯程短縮は有利となり、コスト優位性が出る。ただし、規模に応じた受注量がないと無駄が多くなる。⼤きくなると、管理の⾯でシビアとなり、本業以外で⼿がかかる。
また、ある上場企業から、実験装置・分析装置が整っているとの評価を受けた。研究開発に労を惜しまないこと、品質のエビデンスに通じている。今後の受注増に対しての⽅策もしっかりと考えている。

知的財産権への対応についてお聞かせください。

各工程での排水処理結果

2015年11⽉に出願、審査請求して2016年9⽉に権利化している。海外展開の可能性として、亜鉛の三価クロメートによる表⾯処理が進んでいる欧州でも環境対応型技術として、売り込みができるのではないかと思う。外国への出願も欧州を含め、戦略的に考えたい。⼀⽅、現在、NEDO橋渡し事業で、オンリーワンの技術開発である「ステンレスの発⾊」に取り組んでいるが、既に国内⼤⼿及び、中国、韓国の企業からもライセンス契約の話が来ているほど、各⽅⾯から⾮常に⾼い期待をされている。海外進出について、ドイツ・メキシコ・ミャンマー進出の打診もある。ブラジルでも⾃動⾞⽣産も増えているが、現時点では時期尚早と考えているが、この技術があると、PR ポイントとなり、打診が今後増えると予測している。今後は東南アジアもターゲットとなる。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される⽅や、現在実施されている⽅にメッセージをお願いいたします。

2年半の期限は研究開発にベストであった。急ぐわけでもなく、プロジェクトがうまく⾏く期間ではないか。また良いパートナーと組み、随時打ち合わせを⾏うことで、⾃社の役割に集中できる。⾃社の強みに基軸を置き、事業化を進めることで、単なる研究開発に終わらせないことが重要である。
サポイン事業に採択され実施したことで企業価値が上がり、信頼される指標となった。NEDOの資⾦獲得も、信頼醸成に⼤きい効果をもたらした。中⼩企業庁からは、実⽤化に対する⾼い期待を寄せられている。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
あらゆるアルミ系素材に適応し、かつ毒物を使用しない表面処理技術の開発
事業実施年度:
平成25年度~平成27年度
研究開発の目的:
アルミ鋳物製造における陽極酸化前処理⼯程の技術的な改善と、⾼コストの要因である⼯程の複雑化による⽣産性改善等の課題を克服し、多種多様なアルミ材料に適応、環境に配慮し、低コスト化につながる表⾯処理技術を開発する。
事業化の状況:
フッ化⽔素酸使⽤をゼロとするプロセスを確⽴できた。また、⼯程を従来の20%以上削減し、アルミ鋳物を含めた全てのアルミ素材の⼯程共⽤化も可能となった。量産化を想定した連続試験において安定した処理が可能であることを確認した。以上の成果を踏まえ、現状の対応材料以外の製品の幅の拡⼤とコスト競争⼒強化につなげ、さらなる事業拡⼤につなげていく予定である。