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工具の長寿命化・高性能化を実現する
PVDコーティング皮膜の表面処理技術を
開発し高まる低コストニーズに対応

岡谷熱処理工業株式会社
(左から)
藤沢IP課長
滝澤社長
宮坂IP係長
山本係員

補助金を活用してオンリーワンの技術開発に挑戦

今回のサポインは3回目ということで、これまで行った補助金を活用しての研究開発の経緯や、その後について教えてください。

当社は、金属熱処理とPVDコーティングの会社である。長野県をはじめ、周辺の岐阜県・愛知県・神奈川県には、プレス関係の金型を作っているメーカーが多く、当社では「真空熱処理」の中でも冷間プレス用の金型の熱処理を多く扱っている。また、硬質膜のコーティング(PVDコーティング)も、真空熱処理と同様、当社では比較的早い時期に事業を始めているが、後発企業が増えたことにより、競争が激化。そのため、平成21年度からものづくり補助金やサポインなど多くの補助金を活用しながら、オンリーワンの技術開発に挑戦してきた。
そこで行ったのは、低歪みの金型の熱処理の技術開発だ。金型プレートの熱処理歪みを0.01mmレベル(A3サイズ)に抑えるという世界初の技術で、これは「Ⓖsyori」というブランドで事業化している。熱処理後の仕上げ加工を減らし、金型プレートの研磨しろが少なくなるなど、ニーズに応えた画期的な新技術だったため、「第25回 中小企業優秀新技術・新製品賞」「NAGANOものづくりエクセレンス2014」など数々の賞をいただいた。「Ⓖsyori」は多くの取引先から引き合いがあり、今では売上比率が20~25%を占める主力事業に成長。技術開発の取り組みが実を結んでいるのを感じている。

今回サポインを申請するきっかけとなったのは、どんなことでしょうか。

硬質皮膜の事業を始めてずいぶん経つが、当時は他社でPVDコーティングをしている企業はまだなく、それ自体が差別化となっていた。しかし、同業他社の参入により、新たな打開策が必要となってきた。新しい装置を導入するだけでは、すぐに同じことになってしまう。そのため、ニーズをとらえ、自社で開発したいと考えていた。
過去2回のサポインの経験の中で、ある大学発のベンチャー企業の存在を知った。世の中にはポピュラーな窒化処理はいくつかあるが、その会社は、差別化できるアトム窒化の技術を持っており、既存の装置とは全く違ったものを手掛けていた。そのため、差別化になるだろうと、サポインで共同研究を行うことにしたのだった。ちょうど3年前に、経済産業省のものづくり補助金にもPVDコーティング装置が採択されたことから、開発の機運が高まっていたことも後押しした。ありがたいことに採択をしていただいたおかげで、従来の皮膜よりも性能の良いPVDコーティングが完成した。ちなみに今回のサポインは2年で終了し、一部はもう販売しているが、短い開発期間のため、さらに深堀をしたいということで、地元の長野県工業技術総合センターや大手企業との補完研究開発をすすめている。

どのようなニーズを把握し、開発目標を決めていきましたか。

金属部品や金型のフライス切削加工、穴あけ切削加工などを行う機械加工メーカーからは、工具の寿命を延ばすコーティング皮膜についてのニーズが高かった。なぜかというと、工作機械は一連の工程の自動化により、工具が一部で破損すると、工具交換のためにラインを一時止めなければならず、生産効率が悪くなるためである。自動で、かつ長時間稼働させるには、工具自体の寿命が高くないと生産性は上がらない。工具自体の強度には限度があるため、こうした硬質皮膜、また前処理を含めた硬質皮膜で寿命を高めることによって、生産性をあげたい、ということである。これらのニーズの把握に関しては、アドバイザーとして参画していただいている株式会社スギムラ精工をはじめ、自動車分野の金型メーカーやプレス加工メーカー、航空機部品メーカーなど数々の取引先から貴重なご意見をいただいた。

信頼関係のあるフォーメーションづくりに専念

社内外のプロジェクトチームはどのように決定し、どう動かしていきましたか。

サポインの研究体制は、過去2回の研究開発で産学官の繋がりがある程度できていたため、スムーズに進められた。
全体のプロジェクトでは、サブリーダーを長野県工業技術総合センターの山岸光部長にお願いして、信州大学と長野県工業技術総合センターのやりとりをしてもらった。また、プラズマ総合研究所、電気通信大学とのやりとりは、主に当社が行った。研究内容のすみわけできていない部分に対して、調整が必要となることもあったが、それ以外では問題なく進んだと思う。
社内では、私(編注:滝澤秀一氏)を中心に4名でチーム組み、それぞれに分担を決め、各人に責任を持たせて開発をしていた。進め方において難しかったことは、どうしても普段の仕事の合間に研究開発を行っているため、なかなかサポインだけに集中することができないという点。しかし、そうも言っていられないので、月に1回は会議を行い、ノルマを決めてやりきった。
理想を言えば、事業部長が音頭を取って進めていくのがベストだと思うが、小さな会社ではトップダウンでやらないとなかなか進まないのが正直なところだ。長いようで短い研究開発期間にどれだけ有意義な研究結果をもたらすかは、いかに上の人間がモチベーションを保って、チームをまとめられるかに尽きる。ただ、民間企業は必ず結果を求められるから、実際には研究開発よりもその後のほうがきついと感じる。会社として自己資金も投下しているので、とにかく必死でやるしかない。リーダーにとっては、今後も気の抜けない時が続く。

研究開発を進めるにあたっての課題はありましたか。

アトム窒化装置

とにかく課題だらけだった。サポインに申請するため、事前に数多くの予備実験を行い、開発の見通しを立てていたが、やってみると必ずしも想定していた結果にならないこともあった。例えば、硬質PVD皮膜と基材の密着性を高める前処理についての研究の時には、事業化に適した信頼性のあるデータについて、神経を使った。特にアトム窒化装置は、普通に販売されている装置ではないため、常に手探り状態であった。
しかし、この硬質皮膜は、条件によっては4倍も寿命が延びるという結果が出るなど、間違いなく今後注目される新技術である。事業化を進める中で、大手企業に興味を持っていただき、海外の工場で評価をいただくといったケースや、国内の工場に使っていただいたケースも出つつある。このように、課題はその都度あるものの、それに真摯に向き合い、トライ&エラーで何度も改良を加えて、ニーズに合ったものを個別に提供するという姿勢は変わらない。

サポイン終了後、どのような反響がありましたか。

研究開発している途中に事業化につながる話も出てきていたため、反響は悪くなかったと思う。実際に、金額はそんなに大きくないものの、取引もある。リピーターで5、6社。セミ量産で1社。昨年は新型コロナの影響により、展示会などの積極的な営業ができなかったが、その分、サイトを充実させ、オンラインを活用していったところ、問い合わせやお試し希望がかなり多くなった。
また、今後は、プレス用金型へのコーティングも増やしていきたい。処理の過程、素材など様々なことを考え直し、お客様のニーズに合わせてカスタマイズを行いながら、超長寿命化・高性能化のお手伝いができればと考えている。サポイン事業内で残っていた課題も今はクリアでき、狙ったデータが出ているので、これに関してもスピード感をもって事業化を進めていく。

最後に、サポイン活用のコツについてアドバイスをお願いします。

当社にとってサポインは、開発をずっと支えてくれているありがたい制度。補助金を得たからといってすべてが成功するわけではないが、経営の立場から考えると、とにかく事業化が大事だ。本来の目標に事業化を真剣に据えないと、せっかく補助金で開発しても、世の中の役に立たず、データだけ取っているだけになってしまう。事業化を成功するためには、ニーズの把握は絶対に必要である。
また、研究開発の期間は、段取りがあるため、採択されてから半年後ぐらいから動き出すことになる。2年ならば実質1年半で終えなくてはならないので、非常に厳しいスケジュールになりがちだ。そのため申請前に多くの予備実験をしておかないと、期間内で事業化まで進ませることは難しいのでその点を考慮しておいた方が良い。

サポイン技術情報
プロジェクト名:
新機能PVDコーティング皮膜の工具への高度化処理技術と水素バリア機能膜の技術開発
事業実施年度:
平成30年度~令和1年度