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平滑面転写法と経年劣化防止剤の開発により低コスト、高意匠、長寿命な木質塗装鏡面製品を実現

株式会社イシモク・コーポレーション 製造本部長              石井康博氏(写真中央右)
                  製造本部 イノベーション推進室 室長    高松守氏(写真左)
                  製造本部 イノベーション推進室     三浦唯氏(写真中央左)
福岡県工業技術センターインテリア研究所 技術開発課             竹内和敏氏(写真右)

蓄積された開発成果をベースとしてサポイン事業を実施

今回のサポイン事業に応募するまでの経緯を教えてください。

IM System Middle(PUR 塗工装置)

当社は、創業70年で現在売上100億円、従業員350名の会社で、住空間を演出するインテリアドア・クローゼット扉・システム収納・壁面材、キッチンやサニタリー・洗面空間を演出する洗面化粧台や収納棚などを、製造・販売して国内外に供給している会社である。
従来の鏡面製品は、木材に下塗り、中塗り、上塗りの3層があり、それぞれ10工程と工数が多く、コストがかかる。また、表面の経時劣化が問題となっている。
当社では、この課題を解決するために、低コスト、高意匠、長寿命な木質塗装鏡面製品の開発を行っていたが、福岡県産業・科学技術振興財団のコーディネータが当社を訪れた際に、研究内容の将来性を高く評価、申請の打診を受けた。サポイン事業に応募するまでの期間は、自社で独自に基礎的な装置開発を進めていた。

鏡のような木質塗装鏡面製品を作りたいという想いからゴールを設定

研究開発のゴールをどのように設定しましたか。

従来品ではありえない、「木で鏡を作る」というコンセプトを基準にした製品を開発のゴールに設定した。基礎研究で試作したサンプルを従来品と比較した時に、圧倒的にきれいなサンプルができていたことから、研究を継続していけば、鏡と同等の性能のものができるはずという想いから、非常にチャレンジングであったが、目標値として設定した。

体制内での密度の濃い情報交換により課題認識の共有化、前例にないものを具体化

研究開発の体制、研究開発中の苦労した点について教えてください。

従来技術と新技術の比較

経時変化への対策が最大の課題であった。基材に用いるパーティクルボードは木質のため、水分を吸放湿して、膨潤収縮する。その課題解決のために、特殊な下塗り剤を開発し、水分の透過を極力抑えた。この特殊下塗り剤開発の過程では、選定基準を設け様々な下塗り剤を比較した結果、PUR(ポリウレタン樹脂)が、最も優れていた。しかし、PUR にも用途に応じて様々な種類があり、最適なものを開発する必要があった。そこで、様々な種類のPURを福岡県工業技術センターで分析したところ、尿素結合の多さが、水分透過率の低下につながることを明らかにした。この結果を樹脂メーカーに伝え、新たな樹脂材料を共同で開発した。他に苦労した点は、前例にない塗布方法、及びそれが実現可能な装置を開発したことである。従来、鏡面を得るためには、塗料をスプレーで塗布し、研磨するという工程を30回ほど手作業で繰り返していた。しかし、新規の構想は、UV 塗料を塗布した透明の薄膜フィルムを基材にプレスし、フィルムの上からUVを照射して硬化させる。その後、フィルムを剥がすことにより、フィルムの平滑面を基材に転写するという方法であった。これを平滑面転写法と名付けた。当初、塗料メーカーからは、フィルムにUV塗料を塗って硬化させてから剥がせるのか、フィルムが塗料をはじくのではないか、あるいは泡が入るのではないか等の問題が提起され、賛同が得られない状況であった。
これらの問題に対して、サポイン事業申請前の2年間では、新規の構想の成立を立証するため、手作業で実験を繰り返した。従来と違う発想であったが、担当者の熱意と立証結果により、サポイン事業及び新しい装置の開発に取り組むことになった。立証実験に協力してくれた方々が、その後サポイン事業のメンバーになった。
研究開発を円滑に進展できた要因としては、研究体制内の全ての企業・機関が福岡県の筑後地域に集まっており、情報交換が密にできたことである。また、アイディアを直ちに具体化できるような、進めやすい体制であったため、作製したサンプルを持ち込み、直ちに評価、改良するというサイクルを効率的に回すことができた。
自社に知見がある専門家がいるというケースは中々ないため、福岡県工業技術センターから専門的な知見を頂けるのはありがたかった。また、同センターには設備が揃っており、恒温恒湿器等を使った耐久性評価を実施することができた。光沢や表面性の評価もサポイン事業の資金を利用することで行った。

事業化に向けて川下産業や大手ハウスメーカーなど国内外での製品販売を目指す

事業化に向けた活動について教えてください。

川下産業向けのキッチン扉材料を提供することをメインに考えている。当初計画では平成31年販売予定であったが、顧客の都合もあり、数か月ほど延期する見通しではあるが、既に高い評価を頂いており、事業化は問題ない。一方で、大手ハウスメーカーへの展開のため、鏡面製品群の試作段階に入っている。
加えて、海外では中国・タイに販売会社があり、中国では鏡面がトレンドとなっているため、展示会へ当社製品の出展も行う予定である。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。

公的機関との連携やアドバイザーの存在が重要であった。公的機関に研究体制に入っていただいたことによって、樹脂メーカーの提供する塗料の組成等を明らかにすることができ、プロジェクトが大きく前進した。川下のアドバイザーには、色や性能において、顧客目線でどういう仕様が要求されるかをアドバイス頂いた。
我々は、元々コア技術を保有しており、サポイン事業のために体制を作ったわけではなく、持っている技術を事業化するためにサポイン事業を利用した。そして、キーパーソンがそれぞれの参画した機関にいて、それぞれに熱意があったからこそ、今回の成果に繋がったと考えている。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
研磨を必要としない新しい平滑面転写法と経年劣化防止剤の開発による低コスト、高意匠、長寿命な木質塗装鏡面製品の実現
事業実施年度:
平成27年度~平成29年度
研究開発の目的:
住宅設備の長寿命化には、鏡面製品の低コスト、高意匠性、長寿命の3点が必須となっており、新しい時代に相応しい革新的な塗装技術を考案し、高度な要求に対応する技術開発を行う。
事業化の状況:
事業化については、2019年販売開始を目標に、量産体制の設備の設置を行う。一部の項目は目標値に達していないが、極めて競争力の高い製品開発に成功した。