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東北大学の基盤技術をベースにして、複雑化する大型薄肉ダイカスト部品の量産技術を開発

日比野工業株式会社  技術部 課長補佐      堀健太郎氏(写真右)
           技術課 PJ 推進係 係長   犬飼浩一氏(写真左)

東北大学の基盤技術をベースに大型化・複雑化する製品への量産技術の確立を目指す

今回のサポイン事業による研究開発の経緯について教えてください

東北大学の板村先生と当社は学会で以前から面識があり、今回のサポイン事業のスリーブ法は元々、板村先生が中心になって基盤技術を開発してきた経緯がある。
従来の鋳造機では約350 トンの製品の実績があったがそれ以上の800トンや1650トンのような大きなものは東北大学で試験や実用化されていなかった。そこで板村先生から当社に研究開発のお声掛けがあったと聞いている。
最近のトレンドは自動車の軽量化に伴い、製品の肉厚が薄くなり、今まで2個の製品の組み合わせを1 個にまとめることが求められて形状も複雑化していることで、鋳造やダイカストにとって作りにくい方向になる。それに伴い、製造段階や後加工での不良が増えやすくなる。
それに対して、メリットのある製法が半凝固スラリーを生成するスリーブ法である。
従来の半凝固法や半溶融法による液体状態ではなく、
液体と固体の半々の状態で鋳造やダイカストをすることになる。半凝固もしくは半溶融させてビレットを作る量産設備(ナノキャストやカップ法)があるが、かなりの設備投資が必要である。
東北大学から提案があったスリーブ法はカップ法の発展形であり、ステンレス製のカップに溶湯を注ぎ込む。その中で電磁撹拌して半凝固のビレットを作り、鋳込みに使う。今回のサポイン事業では、カップ中の撹拌をスリーブに溶湯を注ぐことで代用できないかということが研究開発である。スリーブはダイカストマシーンに必ず付随しており、そこに直接溶湯を注いでそのまま鋳込むことで、既存設備を活用して対応が可能な方法と考えている。

既存の量産設備を最大限活用しながら、材料の新たな組織制御方法の研究開発を実施

サポイン事業による研究開発について教えてください。

大型立体薄肉ミッションケース試作品

実験を進めている中で、スリーブから注湯するときの温度が重要であることが判明した。温度を一定に保持するためにはどのようにすれば良いかを検討し、最初に作った溶湯の温度はスリーブに入れるタイミングの温度ドロップの実測から逆算してコントロールすることとした。
またスリーブ法の検討に際しては、コストを掛けずに今ある量産設備を最大限に活用して、ダイカストメーカにも使っていただける技術を目指して開発を進めた。
その結果、最終的にはほぼ量産設備を活用した設備を開発することができた。温度コントロールとスリーブによる撹拌効果で、組織の微細化と球状化にすることができる。加えて溶湯の保持温度を低くすることで、凝固したときの体積収縮が少ないため、材料の欠陥(引け巣)が出来にくい。さらには、温度を低くすることによるエネルギーの削減も期待でき、金型の温度振幅が少なくなることにより負荷も低減できる。
従って流動性を上げて、充填性を向上し、凝固収縮を少なくすることで、低コストで低不良率化を実現できる。
半凝固になると流動しやすくため、圧力を小さくすることができ、今の大きさの設備で一回り大きな材料が出来ることもなる。当社では、この量産技術の確立により、百種百用のダイカスト製品に横展開できることを期待している。

東北大学での助言や考察をもとに、自社内の保有技術も活用して材料評価や技術確立を実施

研究開発体制の役割について教えてください。

スリーブ法のベースとなる技術は、もともと東北大学で検討を進めてきていたことから、当社の大型設備で作った開発材料について、東北大学でSEM観察やマッピング分析で組織の評価を行った。また当社から送ったデータや組織写真で考察や助言をしていただいた。
板村先生からはアイデアをいただきながら、当社保有の量産技術を上手く活用して研究開発を進めてきた。

従来ない材料組織の評価や測定方法にも対応しながら、研究開発を推進

研究開発中に発生した問題とその対応について教えてください。

自動車の駆動系部品やエンジン部品におけるダイカスト製品は汎用的でコストも安い材種であるADC12が95%を占める。しかしながらADC12の状態図では半凝固の領域が狭く、作りにくいことが分かっている。
今回の研究開発ではADC12の半凝固組織データがないところからはじめており、組織写真でも半凝固組織なのかどうかが分からなかった。そのため材料の専門家にも
確認したりして結構悩んだ。
また半凝固を特定できても、同じ条件で鋳造する場合には緻密に温度測定する必要があったが、取り扱う技術の範疇では測定が困難であった。その点では安定生産に向けた課題は残っている。

薄肉鋳造品

今後はさらに複雑な形状の試作品を実現して、事業化へ繋げる

事業化に向けた活動について教えてください。

ミッションケースは試作品にできたが、ヒートシンクについては半凝固の充填性を利用して引き続き研究開発を進めていく。またユーザーでの特性評価も行っていただきながら、2021年頃には事業化する予定。

サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。

これまでは材料の評価を外注したものもあり、鋳結果が出るまで1、2週間掛かっていた。
サポイン事業を活用して評価設備等を導入したことで、自分達ですぐに材料の引け巣等を観察する技術も取得できた。さらに引け巣を減らすことや流動性を確保して巻き込み巣をなくすために、CT 装置を導入して評価を行った結果、非破壊で内部を観察することができ、タイムリーでスピーディーな分析を社内で行うことができた。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
大型薄肉ダイカスト部品の洩れ・鋳巣欠陥を解決する、半凝固・低圧力・高速射出充填ダイカスト法の開発
事業実施年度:
平成26年度~平成28年度
研究開発の目的:
電気自動車やハイブリッド自動車・再生可能エネルギー設備等に用いられる薄肉大面積かつ液冷回路を持つ電気制御ケースや電池ケース類は、現状のダイカスト鋳造法では安定生産にまだ問題がある。鋳込み材料を射出スリーブに注湯する際に、球状組織を微細化し、流速で撹拌することにより、半凝固スラリーを生成できるスリーブ法を開発する。
事業化の状況:
アドバイザーである既存顧客との連携のもと、早期に量産向けサンプル出荷までこぎつけ、機能評価を終えて量産開始へ繋げる。顧客の品質・価格的な競争力や品質信頼性が高まることにより、既存の顧客自動車メーカーの枠をこえた、世界的な供給の武器になる。