文字サイズ
標準
色の変更

研究開発好事例を探す

  1. トップ
  2. 研究開発好事例を探す
  3. 海洋開発の構造物に向けた高耐久性繊維ロープの開発で、新たなマーケットを切り開く

海洋開発の構造物に向けた高耐久性繊維ロープの開発で、新たなマーケットを切り開く

高木綱業株式会社 代 表取締役社長                    髙木敏光氏(写真中央左)
          取締役                        堀田庄三氏
香川県産業技術センター 材料技術部門 主任研究員              白川寛氏(写真左)
公益財団法人かがわ産業支援財団 技術振興部 産学官連携推進課 課長代理    平木健士氏(写真右)
                                    佐藤恵子氏(写真中央右)

海洋開発における新たな成長市場へ、高耐性繊維ロープの開発で道を開くことを目指す

今回のサポイン事業における研究開発の背景を教えてください。

近年、造船業の再編が進み、ロープの市場規模が飽和してきた中で、当社も繊維ロープ事業も既存の汎用ロープだけでは期待できない状況となってきた。それと前後して、当社では、新素材を使ったロープの開発、新しいマーケットの開拓、新分野事業の設立を進める中で、自社技術による高機能繊維ロープの開発にここ5、6年取り組んできている。
今後の新しいマーケットとしては海洋開発があり、新エネルギーや海洋資源の成長市場に対して、ハードな環境下で使う繊維ロープの製品を投入できれば、大きな商品となる。そのために耐久性を向上し、性能を持続させることができ、金属製チェーンと対等に扱える繊維ロープを開発できれば大きな道が開けると考えた。
これまでも海で使う繊維ロープはあったが、ロープがすり減ることでロープ本来の強度が持続されない。また、最終的に仕上がったロープにコーティング等を行ったロープはあるが、水の中で使うために撥水性を良くすると逆にコーティングの定着性が悪くなる問題があった。
そこでサポイン事業で、糸とコーティングする樹脂を複合化した材料をベースとし、糸自体への表面改質技術と、環境に適した樹脂に対して開発を進めることとした。
今回の研究開発では、特に擦れに対して既存の繊維ロープに比べて飛躍的に向上させることを目標としている。また、サポイン事業は初めてということで、申請段階、発表等の準備について、かがわ産業支援財団に支援いただいた。

インパクトのある性能目標を設定し、共同体で技術目標と開発スケジュールに落とし込み

研究開発の目標をどのように設定しましたか。

インパクトのある商品としての性能目標を設定した。さらに、性能目標を達成するための細かい技術目標については、産総研や県産技センターと相談させていただきながら、落とし込みを行った。その結果、中間目標も立てやすくなり、開発スケジュールにも反映できた。

社内横断チームと外部との体制作りで研究開発を推進し、社内の人材育成にも寄与

研究開発の体制について教えてください。

社内の営業、企画、工場まで含めた部署横断した形のプロジェクトチームを組み、これまでにもお付き合いのあった産総研や県産技センター、さらには支援財団にも支援いただいた。今回の体制が社内の人材育成にも繋がった。役割分担は、技術目標に落とし込んでいった際、製造工程や性能評価とリンクさせて分担を検討した。

試作品の一例
試作品の一例

樹脂の接着力を上げるために、樹脂と繊維を一体化する表面処理の検討を実施

研究開発の概要について教えて下さい。

ロープの素材の周りに樹脂を溶かして被覆し、冷却・乾燥を行って保護していく。過去にもロープの擦れや紫外線からの保護要求に対して、表面自体を樹脂で囲んでしまう対応は行ってきた。そのときは周りを包んだだけであったので、擦れが生じることにもなった。
その経験をもとに、産総研や県産技センターに被覆した樹脂と繊維を一体化することをご相談した。樹脂の接着力を上げるための表面処理の検討を行った。
ロープは油剤を取り除き、プラズマまたはUVで表面を改質し、樹脂を被覆することで開発を進めた。

ロープの曲面形状に対して、試行錯誤しながら表面改質や評価技術を確立

研究開発中での問題点とその対応について教えてください。

プラズマやUVによる表面改質は平面での実績があるが、ロープは曲面であることから、360度や上下からの処理等の様々な方法を検討した。樹脂の選定、評価、短時間での均一な乾燥を形にはできたが、量産には効率化が必要と考えている。特に試験方法については十分かどうかが分からず、ロープの耐摩耗性評価等も試行錯誤しながら検討した。
今後、量産化に向けて、さらに一歩踏み込んだ形での試験を行う必要もあり、その試験環境の選定についても詰めていかなければならない。開発及び試作の工程内ひとつひとつに課題があり、その対応に取り組んできた。今回の既存ロープとの比較で目標設定したが、今後はフィールドでの加速試験が重要になる。

広島県田島漁協での実証試験の様子

開発した技術をベースにした商品に営業展開、将来は大型構造物への販売を目指す

今後の事業化について教えて下さい。

現在、開発した技術をベースにした商品で営業展開を進めている。お客様との間で目指す性能も検討している。さらに標準化も視野に入れている。
お客様は新製品を好意的に受け止めていただいており、引き続き、個別で出てきた課題に対しては産総研、県産技センターにもご相談させていただく。
海洋構造物のような大きなものを最終的なゴールとして捉えているが、ダウンサイジングしたものや活用しやすいものを実際の仕様として提案しており、目標としては今年中もしくは来年の早い段階で販売を予定している。

開発段階からの川下企業からの意見により、製品開発を加速

最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。

開発段階から、川下企業にも入っていただき、出来るだけ意見をいただきながら、製品化を加速することが重要である。開発側も製品化へのモチベーションとなる。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
超高分子量ポリエチレン繊維を用いた海洋構造物係留ロープの耐久性向上技術の開発
事業実施年度:
平成26年度~平成28年度
研究開発の目的:
海洋構造物の係留には鋼製のチェーンやワイヤが多く用いられており、腐食や摩耗によって破断した際、交換作業などの作業性が悪い、交換費用が高いなどの課題がある。軽量で高強度な超高分子量ポリエチレン繊維を主材とし、耐久性と柔軟性がともに優れた複合化繊維を用いた係留ロープにより、海洋開発産業の一翼を担うことを目指す。
事業化の状況:
市場へサンプル投入し、川下企業のニーズに合わせて開発した樹脂被覆ロープの改良を行い、量産化体制の整備を目指している。また国際規格の確立に向け準備を進めている。