福島に「元気のある企業を作る」、「全体を底上げする」を目標として、県内繊維業者の横の連携を構築し、福島でしかできない製品づくり、ブランド化を目指す
福島県中小企業団体中央会 業務推進課 主査 大信 拓氏(写真左)
永山産業株式会社 代表取締役社長 永山 龍大郎氏(写真中央右)
株式会社三恵クレア 代表取締役社長 五十嵐 則保氏(写真右)
県内のファッション関係企業6社が結集し、協同組合を設立
研究開発を開始したきっかけについて、教えて下さい。
平成24年に福島県内で織物業、ニット業、縫製業、糸製造業を行うファッション関係企業6社が結集し、協同組合を設立した。東日本大震災及び東京電力第一原子力発電所の原発事故により、福島県も県内の繊維業界も疲弊し、廃業により同業社が減少していく状況にあった。打開するために、これまでは、横の繋がりはほとんどなかった、繊維業に係わる県内企業が集まって何かできないかを相談したのが始まりで、ニット、織物、縫製、3者が集まってしかできないものはないかを相談した。
経済のグローバル化による生産拠点の国外移転や、少子高齢化による消費低迷など、地方のファッション関係企業を取り巻く環境が悪化していたことにも要因の一つであった。研究開発の具体策としてサポイン事業を活用した。
福島県でしかできない製品を開発し、ブランド化を図る
研究開発のゴール設定について、ご説明ください。
サポイン事業の目標は研究開発であり、具体的な目標数値は、福島県中小企業団体中央会(以後、中央会)と参画企業が協議し、福島県ハイテクプラザの指導を受けて設定した。一方、協同組合の目標は、サポイン事業の成果を活用して、素材開発から始まって、製品化、最終的には事業化である。福島県でしかできない製品を開発し、ブランド化を図ることを目的としている。これまでは、アパレル業界からの下請けで受け身であったが、能動的な活動を展開、OEM(受注販売)からODM(商品を販売)を目指している。雇用創出、競争力の強化について数値目標はないが、現状では、「元気のある企業を作る」、「全体の底上げができれば良い」と考えていた。
インダストリー4.0 参考にサプライチェーン構築
サポイン事業を申請・開始するにあたって、共同体をどのように構成しましたか。
中央会は、協同組合の結成に貢献するとともに、申請書類作成、実施中の経産局との仲立ちをした。研究開発は協同組合参画企業が担当し、それぞれの課題に取り組んだ。参画企業は「編」、「織」、「縫製」、「糸加工」のどれかを専門としているが、4つ技術はそれぞれ設備が異なり、全部揃えるのは会社規模から難しい状況にあった。横断的に繊維産業の3機関が一緒に開発している例は、国内でも海外でもなく、いい連携体制ができた。プロセスの横の繋がりを作るというインダストリー4.0 的な考え方をベースとして、サプライチェーンを構築することも考えた。
課題の一つである「パーフェクトSilk によるファッション衣料の製品化」は、福島県ハイテクプラザの特許を利用し、デザインについては共同体全体として取り組んだ。
海外展示会でデザインの難しさを痛感
研究開発中に注意・配慮していた点、発生した問題とその解決方法について、ご説明ください。
一社で研究開発しているわけでなく、それぞれが地理的にも離れていることから、スカイプを利用したTV会議を月1回で全体会議、繁忙期が2、3ヶ月ぐらい続いたが、週1回の全体会議を開催した。大きく分けて、「編」、「織」、「縫製」、「糸加工」の4工程があり、「糸」ができるまでは、下工程の企業は待ちの状態となるが、事前にどんな状況かを情報交換ができ、構想を練ることができた。
海外展示会では、製品の評価をアンケートしたが、アパレルメーカー、洋装雑誌の記者が多かった。
デザインは苦労した。デザイナーに依頼したが、素材を活かしきれなかった。モノありきでスタートすると、デザイナーもイマジネーションを働かせるのが難しい。頻繁な意見交換を行い、同時進行で作業できるような仲間になる必要がある。素材はすばらしいとの評価であったが、デザインはイタリアもプライドもあるのか、評価は良くなかった。
福島からのオリジナルブランドの立ち上げ
今後の取り組みに向けた課題や目標、見通し
デザイナーに対して、新しい感性、イマジネーションを想起できるようなモノを作ること、考えることができるデザイナーを見つける必要がある。
若いクリエイターとの協働も検討している。例えば、文化服装学園の学生とのコラボレーションも活動の一つである。
取り組みを知ってもらうコト、場所を知ってもらうことから始める必要がある。福島出身の学生に、福島に帰ってきて、オリジナルブランドを立ち上げる際に活用してもらうようなことも期待している。このような魅力的なファッションを学んでいるヒトにとって魅力的な物にならないか、地域全体に長い時間を掛けて、浸透させていくことも、目標としている。ニットと織物で撚糸ものの糸を作るのは、福島以外ではできないオンリ-ワン、差別化技術である。工業生産から、商業、販売に関連する企業とのコラボレーションが必要になってくる。欧州では、ブランド企業は自社工場を持っているが、日本の場合は下請けの立場になっている。これでは、コスト構造は変わらず、デザイナーも部分的にしか見ない。企画・提案力で新しいサプライチェーンを作らなければいけない。
サポイン事業を効果的に利用する上でのメッセージ、アドバイス
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。
こんなことをしたい、夢を語る、自分たちのやりたいことがアピールできれば良いのではないか。デザインがはいって、海外で展示するなど、今までなかった体制、事業内容であったため、目標をどう設定するかについて、川下の部分まで、フォーカスを当て、販路開拓、デザイナーの選定まで計画を立てるように、申請書作成時に留意した。
紹介動画
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- ニットとテキスタイルの融合によるオンリーワン・ファッション衣料の開発と販売
- 事業実施年度:
- 平成26年度~平成28年度
- 研究開発の目的:
- 天然素材のシルク(絹)、麻(リネン)等と「編」「織」「縫製」「糸加工」技術を掛け合わせた、新しい感性に基づくデザイン・コンセプトを可能とするテキスタイル開発、オンリーワン・ファッション衣料開発を行う。
- 事業化の状況:
- 開発技術・素材を国内マーケットのみならず、海外のマーケットにまで普及させ、本研究開発によりもたらされる唯一無二の糸、商品でプラスの面で光を浴び、県内企業を再び繊維で潤し、雇用を創出することができる。
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