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新素材CFRTPの特性を活かしてサイズ・構成自由度を高めた積層板成形ラインを構築

北川精機株式会社 
(左から)
代表取締役社長 内田 雅敏 様
経営企画室 市場開発課 課長 竹井 宏行 様
技術部 技術開発課 課長 弓戸 良次 様

待ったなしの車体軽量化に対応した注目の研究開発

今回のサポインは御社のどんな技術を応用した開発ですか。

広島県府中市は昔から産業の盛んな町で、繊維・機械・木工など様々な企業がある。当社は、1950年代にベニヤ板を貼り合わせる合板用プレス機の製造からスタートし、これまでに様々な素材を貼り合わせる装置を手がけ、世界トップレベルの「貼り合わせる技術」を培ってきた。
1980年代に電気製品の普及と高度化が急速に進む中、合板の貼り合わせ技術がプリント基板材料の積層に転用されると、当社の開発した大型の「積層成形用真空多段プレス」が高性能で大量生産が可能な設備として認められ、現在まで主力製品として世界の数多くのプリント基板メーカーの工場に納入され活躍している。
今回のサポイン事業では、この積層成形用真空多段プレスの技術を使えば、CFRTP大型パネル(積層板)の量産が可能ではないか、ということで、以前からCFRTPの研究に取り組んでいた広島県立総合技術研究所に提案してプロジェクトが始動した。

どんな社会情勢やニーズがありましたか。

2013年頃に当社でプレス装置の用途市場開発を行っている中で、広島県立総合技術研究所へ伺った際に、CFRTP素材を使った自動車部品の成形技術開発を行っているが、スタンピング成形の中間素材である大型の積層板が市場から入手できない、また量産技術も確立されていないという話があった。
軽量で高強度・高剛性という特徴を持つCFRTP(熱可塑性炭素繊維強化プラスチック)は、数年前から鉄鋼に代わる材料として注目され、近頃では産業・航空宇宙・スポーツ・レジャー分野で活用されている。この素材の難点は、量産性が低く、材料費が高いことだ。そのため、これまでは高級自動車や航空機での利用にとどまっていた。しかし、世界では地球温暖化対策が年々強化されている。欧州の排ガス規制をはじめ、日本でも新基準が施行されるなど、自動車業界は課題克服に向け、対応を迫られている状況であり、まさに待ったなしと言ってよい。
そこで、低コストで加工しやすいCFRTP積層板ができれば、確実にイニシアチブをとることができると考えた。素材自体が高価のため、将来性があっても具体的な取引先がない状態ではなかなか開発に踏み切れなかったが、サポインを活用できれば、思い切ったことができるということで、広島県立総合技術研究所、同志社大学に協力を仰ぎ、プロジェクトが始動した。

注目の素材に関わらずCFRTPが日本で広まっていないのはなぜですか。

日本メーカーが世界の炭素繊維の7割を製造していると言われているが、CFRTPになると欧米に比べ日本では思ったほど開発が進んでいない。その理由は、量産化の方法が確立しておらず、安定供給できない状態だからだ。一方で日本の鉄鋼メーカーや板金加工メーカーの技術は、軽量化の流れを受けて非常にハイレベルである。高精度な加工や厳密な品質管理が求められる日本では、高価で工程の複雑なFRP素材を使うよりも、素材や加工技術を進化させ、軽量化・高強度を実現してきた。
しかし、大きな課題となっているCFRTP積層板の量産技術が確立できれば、これまで踏みとどまっていた原料メーカー、加工メーカーも本気を出して動いてくるだろう。その時に、先駆的企業としてこの技術を活かせればと考えている。

繊維の束であるUDテープは、扱いが難しいですね。

任意の配向角を持ったシートを作成する装置

積層板はUDテープといわれる炭素繊維が1方向に引き揃えられて樹脂で固定されたテープ状の素材を積層し一体化成形したものだが、積層する繊維方向(配向)の組み合わせによって積層板の強度が変わってくる。今回この積層には、UDテープを任意の角度で並べて横方向に接合し、それを縦方向にカットすることで任意の配向角を持ったシートを作り、これを任意の順番で積層する方法を取った。この時、シートを「正方形」にしたのがポイントで、縦横同じ長さの正方形にすることで、積層時に回転したり、裏表を変えたりすることが可能になる。この方法により、自由な積層構成が可能となった。
そして生産性向上のためには、積層成形用の多段プレスで積層板を大量に同時成形のできる手法を確立する必要がある。積層成形用のプレス機では、対向する熱盤(温度コントロールができる平板の金型)で素材を挟み、加圧・加熱することで積層成形(貼り合わせ)を行う。多段プレスとは、この熱盤が3枚以上あるものをいい、複数の熱盤間(段)で同時に成形が行える。さらに材料が薄い場合は、1つの熱盤間にプレートで仕切って複数の製品を投入する多ページ成形によって、非常に多くの製品を同時にプレスすることが可能となる。この多段・多ページの成形方法の開発では、繊維の直線性を保ったまま樹脂がしっかり含浸した積層板を大量成形できる方法はないかを模索した。

思い切りのある研究開発はブレイクスルーを生む

サポインを利用してよかったのは、どんなところですか。

成形後のCFRTP積層板

量産用装置の開発では、装置が大規模で試作費用が高額となること、また、ある程度まとまった量の試作用材料の投入が必要となってくる、という問題がある。特に炭素繊維は非常に高価で、いくらCFRTP素材に注目していても、おいそれと手の出るような話ではなかった。現在日本の企業において、この分野の開発が進んでいないのは、そういった研究開発費の問題もあると思う。
一企業での研究開発では思い切った使い方ができず、テストレベルでの検証になってしまうところだが、サポインを利用させていただいたおかげで、十分な試作用材料を投入することができ、1m角という大型サイズの積層板を多段・多ページで大量成形できることまで実証試験を行うことができた。今後の装置販売やPR活動において、この実証データや大型サンプルの存在は非常に有効に働くと思う。

開発を進めるにあたって難しかった点はありましたか。

きれいな板を量産するというのは想像以上に難しいことだった。テストレベルではうまくいっていたものが、実際のサイズや装置では想像通りにならないということは、しょっちゅうだった。
例えばUDテープの接合方法について、テープを重ね合わせず、突き合せた状態で熱溶着する方法を見出したが、UDテープの厚みが均一で反りや湾曲等がない理想的な場合においては問題ないが、実際の市販品には多少なりと品質にばらつきがある。このばらつきが思わぬトラブルの原因となることもあり、材料自体の開発も必要だと感じた。そのためには、材料メーカーの協力も不可欠であり、ともに技術向上を目指しながら進めていきたいと考えている。

サポインでの研究開発の進め方は、通常業務とは異なりますか。

当社の手掛ける装置は、ほとんどがオーダーメイド。お客様の希望や購入仕様に対して装置仕様を提案し、採用してもらうスタイルが一般的。その場合、開発的な要素が含まれていたとしても、使用する材料や成形品のスペック等、様々な前提があらかじめ決められたうえでの開発となるが、今回のサポインのように当社が主導して開発を進める形は初めての経験だった。新素材のため、材料も求められる品質もソフト面もすべてにおいて当社が決定していかなくてはならず、その点で非常に難しさを感じた。

産学官連携での研究開発でどのようなことを感じましたか。

時間のない中、それぞれベストを尽くして進めていただけたと思う。同志社大学の研究室では、おもに材料や積層板の分析・評価などを担当していただき、自社ではできない学術的な評価や品質の裏付けを得ることが出来た。また、分析作業は自社で行うとかなり手間がかかる作業となるが、学生さんが本人の研究テーマとして採り上げ、積極的に取り組んでいただけたので効率的にもコスト的にも非常に助かった。京都にあるため、頻繁に行くことはできなかったが、今から考えればもっと研究室や先生、学生さんと関わりながら進められればよかったと思う。
広島県立総合技術研究所の参加によって、大型積層板を作るだけでなく、そこから自動車部品のインパクトバーをスタンピング成形で試作するところまで実施することが出来た。これによって、材料の選定から最終的な製品成形までどの立場のメーカーにも、ある程度のアドバイスができる知見を得ることができたのは良かった。未来を見据えた開発型企業として、今後は他の意欲的な企業と積極的なつながりを持つことができると思う。

今後のご予定はどうなっていますか。

2021年1月に東京ビッグサイトで開催される「オートモーティブワールド」に参加する。展示会はコロナ禍ということもあり、開催や集客に不確かな部分もあるが、今後もこれまで通り積極的に出展していく予定をしている。当社工場内に切断接合部と積層部からなるCFRP自動積層装置の試作機を設置、以前から保有している多段プレスの試作機と併せ、顧客の要望があれば、いつでもデモ運転の見学や評価試作を実施できるようにしているので、興味を持った方は気軽に問い合わせをしてほしい。

研究開発技術情報
プロジェクト名:
大型で積層構成自由度の高いCFRTP一方向連続繊維積層板の量産技術開発
事業実施年度:
平成29年度~令和1年度