化粧品・医薬部外品素材としての天然保湿因子の探索と生産技術の開発
代表取締役社長 農学博士 今野宏
歴史がつなぐ生物資源「種菌」を活かした人に優しいバイオサイエンス
会社紹介
創業110年になる株式会社今野商店は、発酵食品の元になる麹の種菌を製造している。
日本の食文化に欠かせない「酒、味噌、醤油、みりん、焼酎、かつお節」などの全てが麹菌を使用しなければ作れないものである。
種麹を専門に製造している全国でも数少ない会社であり、醸造に使われている全ての菌を作っている会社は全国で他に3~4社のみ。
(古きを温め、新しきを知る)
また、創業以来「技術が資本」を合い言葉に、多くの優良種麹・酵母・乳酸菌・酵母等を醸造界に供給し続けており、近年は醸造食品微生物以外の生物農薬原体や環境浄化用微生物菌体、研究用試薬の分野にも力を入れている。
秋田今野商店の強み
秋田今野商店の強みは主に下記の2点である。
1.種菌を一万種類保有していること。
2.種菌を目的に合わせて培養するノウハウがあること。
自社の菌株保存庫の多くは歴史的に安全性が証明され、食に使用できるものである。
日本食の基盤を支えている麹菌をはじめとする「酵母乳酸菌」という歴史が証明する安全性を持つ微生物だ。
秋田今野商店はこの安全性を元に、他の産業で利用する研究開発を行っている。
サポインを申請したきっかけ
申請のきっかけとしては、天然保湿因子を使用した化粧品を川上から川下まで事業化できる体制が整ったことが挙げられる。
サポインを申請する以前から、公設研究機関と天然保湿因子を農業廃棄物から作る研究をしていたところ、偶然にも化粧品の販路を持つ「丸善製薬株式会社」から連絡があった。
また、培養した酵母から効率的にセラミドを抽出する研究を「学校法人加計学園岡山理科大学」と協力して行えることになり、事業化の目途が立ち始めていた。
自社では一般消費者向け商品の製造を行っていなかったが、丸善製薬とタッグを組めば、商品化と販路で力強い協力が得られる。菌の原体を安定して供給できれば、本案件が事業化できると考えた。
本案件の基盤となる研究の資金調達を考えていた時に、公益財団法人あきた企業活性化センターからこのサポインという制度を使ってみてはどうかとアドバイスがあり、申請を行うことになった。
副産物の発見
(NGF)の発見
今野社長は研究中であるセラミドが「セラミドと似た物質が神経細胞を増殖する因子」を持つことを思い出し、その可能性を確かめる実験を行った。
試行錯誤した結果、脳の神経細胞を増殖する神経成長因子(NGF)を持つ酵母を発見し、特許の取得とNGFを摂取できるサプリメントの販売を実現している。
化粧品原体だけだと考えず、幅広く準備し研究した結果、食の安全性が確立されている酵母の中からサプリを開発できたことが予期せぬ拾い物だったという。
サポインの良かったところ
今野社長は、サポインの良かった点として主な3つを挙げてくれた。
1. 最初に定めていた目的と違う成果を生み出すことができたこと。
サポインの研究が元になり、神経成長因子を含むサプリメントや植物由来の乳酸菌の発見など、当初の研究目標とは違った具体的な成果を生み出せた。
2. 学問や産業の面で幅広いネットワークを作ることができたこと。
平成21年の研究開始から、現在でも良い関係の中で研究を続けることができている。
3. 研究開発で使用する設備を導入することができた。
設備導入のおかげで、研究成果の他にも新しい乳酸菌商品の開発に成功できた。
サポイン事業の成功ポイント
1)情報の共有とコミュニケーションを頻繁に行うこと
一社で完結するのではなく、複数の意見を共有化することでより良い結果を導くことができる。
本案件のように、公設機関や大学、民間企業、など多数の関わりがある場合は頻繁にディスカッションすることで、それぞれの専門性と切り口により、よりよい発想に好転できた。
2)感性に応じた人選コーディネート
探索研究は闇雲に行っても成果はでない。魚釣りの太公望と同じように「経験」と「カン」がチャンスに気づき成果に結びつける重要な要素である。
「人によって得手不得手の分野があるため、その人の良い感性を引き出し、研究を好転させていくことが、統括するうえでのポイント」と今野社長。
3)全ての成功と真実は「現場にある」
場で感性を磨いた人材しか持てない「カン」がある。
サポインで成果を出せた要因として、現場をしっかりと理解し、集中して研究したことが挙げられる。また、サポインの研究は人材育成という視点でも活用し、スタッフの成長を感じられた。
生物資源を守る重要性
平成16年に麹菌が国菌に認定。
平成25年にユネスコ無形文化遺産に和食が登録。
そして、和食と「酒、味噌、醤油、みりん、焼酎、かつお節」の製造に必要な麹菌は密接に結びついている。
菌は目に見えないもののため、一度なくなれば同じものは永遠に作ることができないという危険がある。
その危機感を実際に体験したのが、2011年の東日本大震災だ。
大震災の時に2日間会社に電気が通じなかった。自家発電の設備を整えていたため全滅を回避できたが、時代によっては全滅している可能性もあった。
生物資源の分散保有の重要性を再認識した出来事だった。
当社の種菌は秋田県内4か所に分散して保有しているが、本来ならば北海道や九州など、離れた場所へ別々に保管することが最善だ。
今後、これらの生物資源の保全に対して、国が支援する取組が生まれることを今野社長は願っている。
今後の展開
自社の主力商品である麹菌や酵母、乳酸菌は、日本食のベースになっているとはいえ、最終商品の数は人口に比例している。人口が少なくなれば種菌の需要も少なくなり、運営が困難になっていくことが予想される。自社の強みを元に、様々な分野に事業を拡大するべく研究を続けている。
今野社長は、「時代のニーズに合わせて、天然保湿原体や健康食品素材、脳神経の増殖因子など、今までとは異なる分野の需要も拡大するはず。多数の菌株の保有と菌を目的に合わせて成長させるノウハウを元に、醸造の世界の他にも挑戦し、社会貢献を行っていきたい。」と話す。
日本の食文化の基礎を守っている秋田今野商店の研究は今後も続く。
紹介動画
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 化粧品・医薬部外品素材としての天然保湿因子の探索と生産技術の開発
- 事業実施年度:
- 平成21年度~平成22年度
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