非接触検査装置の実用化開発により、高精細8Kテレビ用パネルの欠陥検出率を大幅に引き上げ、歩留まりの改善に成功
研究開発部長 村上真一氏(写真中央)
研究開発部副主査 安田俊朗氏(写真左)
8Kパネルにおいても、欠陥検出能力が高い検査装置を開発し、高歩留まりを実現
今回のサポイン事業に応募するまでの経緯を教えてください。
当社は、1994年創業で現在売上56億円、従業員91名の会社で、非接触検査装置のエキスパートとして、企画・製造・販売を行ってきた。当社検査装置の対象製品である通信機器やデジタル家電などで使われるプリント基板やフラットパネルの技術はめまぐるしく進化し続けているため、それらを検査する装置にもより高度な技術が求められるようになっている。
一方で、2018年12月から4K/8K の実用化放送が始まり、高精細のパネルが今後主流になっていくことが見込まれている。当社の検査装置を使用している川下パネルメーカーからは、高精細8Kフラットパネルの欠陥検出率を現状のフラットパネルと同じくらいに向上させたいという要望があった。FHD(Full High Definition)の走査線が約2,000本に対して8Kパネルは走査線が約8,000本あり、走査線が多くなるほどピッチ(線毎の間隔)は狭く露光が困難で、配線にオープンやショートの欠陥が起きやすい。8Kパネルの歩留まりは6~7割と言われているため、検査装置で欠陥の検出後、修復を行い、歩留まりを改善することが重要である。
しかし、現行の検査装置では、FHDの欠陥検出能力は97%であるのに対し、8Kパネルでは60%程度になることが予測されており、修復するために欠陥検出能力を高めることが重要な課題である。
そこで今回のサポイン事業では、ひろしま産業振興機構から申請の打診を受けたことをきっかけに、欠陥検出能力が高い非接触検査装置の実用化開発を行った。
高機能非接触検査ヘッド、ギャップ制御技術、情報可視化技術の開発
研究開発のゴールをどのように設定しましたか。
県立広島大学、広島市立大学等とは、これまでに産学連携による開発を行っていた経緯があるため、当社から上記大学を含めた近隣の大学の先生方に働きかけて、今回の研究体制を構築した。
研究体制の役割としては、当社で高解像度かつ高感度の高機能非接触検査ヘッド、非接触検査ヘッド用ギャップセンサーの開発を行い、大学側ではフラットパネル基板と非接触検査ヘッド間のギャップ制御アルゴリズムの開発、欠陥検査データの集積、分析、学習システムの開発と、スマートタブレットによる情報可視化を行うこととした。
お客様と課題、目標値の共有を常に行い、現場での評価や実験を重視
研究開発の体制、研究開発中の苦労した点について教えてください。
進捗管理の面では労力を要した。初年度はサポイン事業の採択が8月に決まった。採択の可否によって、開発規模と予算執行に影響があるため、初年度の計画に苦労した。当初の計画では、評価装置は外部で設計・製作を予定していたが、工程の遅延が予想されたので、自社内で装置の設計・製作をした。評価装置の製作は当初予定通り製作できたが、社内で発注する部品の件数が増加し、それらの部品や経費処理などの管理に多くの時間を要し、開発とは違った苦労があった。
技術的には、非接触ギャップセンサーのギャップをどう評価していいのか、精度良く制御できているのか評価できなかった。具体的には、ガラスとセンサーのギャップを100μm にするとして、本当にギャップが100μmであるか直接測ることができなかった。そこで、独自の工夫により、レーザーの変位計を非接触ギャップセンサーに取り付けて、間接的に測定することで対応した。
また自社内では制御ができても、現場ではノイズ状況が異なり、制御がうまくできないという課題もあった。現場は工場内であり、周辺環境にノイズが多く、自社内と全く環境が異なるため、外部環境の影響を考慮しなければならなかった。研究開発を円滑に進められた要因としては、常にお客様と課題、目標値を共有していたことである。また、現場での評価結果、実験結果を重視し、現場では何が起こっているのか、お客様の発言が事実かどうかを確かめながら進めたことも要因として挙げられる。
既に事業化を行っており、売上は10億円前後の見通し
事業化に向けた今後の活動について教えてください。
既に事業化しており、本事業で開発した非接触検査装置の販売とともに、既存納入装置に対しては、検査ヘッドや検査システム・ソフトウェアについて、改造や新技術の導入をユーザーに提案し、受注につなげる。また、有機ELパネルの欠陥検出システムの事業化も進める予定である。2018年度の本装置関連の売上は10憶円前後の見通しで、2019年度も同様の売上を見込んでいる。
高性能で適切な価格の実現が重要
最後に、今後サポイン事業に応募を検討される方や、現在実施されている方にメッセージをお願いします。
研究成果は現場でどれだけ使えるかが重要である。性能が良くても、価格が適切でお客様に満足して買っていただけなければ、技術開発を行う意味がなくなってしまうと思う。当社の技術担当者には、このことを何度も伝えている。また、大学の持っている技術を開発に活かせることが必要である。
また、どのフェーズでサポイン事業を使うかも重要であり、技術的に可能で費用が必要な状況であれば、サポイン事業は大変効果的だと考えられる。
研究開発技術情報
- プロジェクト名:
- 次世代8K高精細フラットパネルの高歩留まり製造を実現する欠陥検査システムの実用化開発
- 事業実施年度:
- 平成27年度~平成29年度
- 研究開発の目的:
- 8Kフラットパネル検査装置向けに、高解像度かつ高感度の高機能非接触検査ヘッドの開発、フラットパネル基板と非接触検査ヘッド間のギャップ制御技術の開発、欠陥検査データの集積、分析、学習システムの開発と、スマートタブレットによる情報可視化を行う。
- 事業化の状況:
- 既に実用化しており、新規装置の販売と従来装置のアップグレードや改造工事などを行っている。本装置関連の事業規模は2018年度の売り上げは10憶円前後の見通しで、2019年度も同様の売り上げを見込んでいる。
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